ラブラブなはっちんと私
床にはカウ柄の柔らかなラグ。モダンなダークブラウンの家具で纏められた部屋は、"エイトの部屋"のイメージなんだって。
はっちん、ここまでオシャレな部屋に住んでないよ。
ナチュラルに見えるしっかりメイクを施された私は、白いふわふわなルームウェア姿。ショートパンツで足は露出。ショートパンツの裾とフード付き上着の袖や裾がピンクのお花で縁取られてるキュートな服。どうやら、男の人が彼女に着てもらいたいルームウェアらしい。
髪は、ふわふわにされて左肩に纏められた。ふわふわも男ウケ狙いかな?
「みゃー、超絶可愛い!」
ハグしたいのを我慢してるらしいはっちんもオシャレルームウェア姿。グレーの上下は短パンとパーカーで、パーカーの下は白のカットソーみたい。髪は、部屋の中設定だからかワックス無しで自然な感じだ。
「それじゃあ二人とも、ひたすらイチャイチャしようか。」
照屋さんの指示はシンプルだけど、とても難しいと思います!
"エイトの部屋"はセットで、周りには人がたくさん。ライトも当たって、照屋さんがカメラを持ってスタンバイしている。こんな中、どうイチャイチャすれば良いのやら…。
「俺に任せて。いつも通りにしてて?」
はっちん、あなたが頼りです。
手を引かれてセットに入って、はっちんに促されてローソファの前に座る。ローソファにははっちんが座って、後ろからハグされた。
「緊張、しまくり?」
「しまくりだよ。まさかこんな展開になるとは思わなかった。」
「準備良いよね。元々企んでたんじゃねぇかな。」
「でも元々、はっちんが一人でこのセットで撮る予定だったんでしょう?」
話しながら振り向いたら、鼻の頭にキスされた。
両手を持ち上げられて、指を絡めて繋がれる。
「テーマは"エイトのプライベート"。この写真と一緒に、俺のインタビュー記事が載る。……みゃー、膝立ちでこっち向いて?」
「あーい」
体制変えて、そのまま両手はまた絡めて繋ぐ。おでこをコツンてしたら、はっちんしか見えなくなって良い感じ。
「"隠さず堂々としましょう作戦"、上手く行くかな?」
「どうかな。でも、みゃーの顔も出して堂々としてたら、すっぱ抜けなくてつまんないだろうな。」
ぐっと腰を抱えられて、はっちんがいきなり立つからびっくりした。
バランス崩して、首に縋り付く。
「ぐえってなった。」
「ごめん。でもジッとしてばっかはダメだから。」
「はっちん、なんか色気が駄々漏れ。」
「仕方ねぇじゃん。この仕事、美味し過ぎで幸せ過ぎ。」
八重歯が覗くとろりとした笑顔。
なんだかつられて、私の顔もゆるゆるになる。
そのまま抱っこで、ベッドに運ばれた。
「なんで膝の上?」
「ラブラブっぽくねぇ?」
「ラブラブだー、バカップルだー」
「堂々とバカップル、しよう。」
「うむ!苦しゅうない!」
「みゃー、時代劇好きだよな?」
「そうかね?嫌いではない。」
はっちんは元々、牧さんが元編集長だったメンズ雑誌"Secretbase"の撮影でここに来たんだよね。
そんで、知らないお兄さんは牧さんから引き継いだ"Secretbase"の新編集長だったらしい。今日の撮影分が、牧さん編集長の女性向け雑誌の創刊号の少し後に出るやつだったらしく、そこに堂々と"エイトの彼女"である私を登場させてしまおうという作戦。
あまりにも堂々とされてたら、ゴシップ雑誌や芸能記者達もつまらないよねーって事らしい。
「みゃー、さくらんぼ食う?」
「え?これ本物?」
「本物だよ。」
「時期違くない?」
「高いやつ。」
「マジで?」
疑いながら差し出されたさくらんぼを咥えて歯を立ててみたけど、偽物でした。
「木だ!はっちんが食え!」
「やだ。マズイもん。」
「マズイもん食わせたのはそっちだ!」
さくらんぼは奪われて、私はベッドの上に転がされた。その上に、はっちんが覆い被さって来てにっこり笑う。
「仕事じゃなかったら、ヤバイ。」
「忍耐中?」
「忍耐中。早く旅行行きてぇなー」
ごろんてはっちんが隣に寝転がったら、照屋さんが真上に来てビビった。
「めちゃくちゃ撮られてるー」
「カシャカシャ良い過ぎだろ。」
手を繋いで二人で笑って、なんか楽しい。多分相手が照屋さんじゃなかったら、顔引きつってたと思う。
「ねぇ照屋さん、奥さんとの馴れ初めは?」
「秘密」
「ケチだー。はっちんは知ってる?」
「秘密」
「男二人でケチだー」
ゴロゴロしてたら髪が崩れたから、直しましょうってなってちと休憩。
飲み物飲んで、化粧と髪を直してもらう。
寺田さんはいたけど、今日はお師匠さんがやってくれてる。だからご挨拶だけしておいた。今日はアシスタントに徹する日みたいだ。
「次は、抱き合うみたいにダンスでもしようか。」
「「はい!」」
元気良く返事をハモってまたセットに立つ。
向かい合って立って、アメリカ映画のイメージではっちんの首に両手を回す。私達の身長差は約二十センチ。だからなんか、ちょっとイメージと違う。
「はっちんがデカいー」
「これだろ?やりたいの。」
腰を屈めてくれて、おでこをコツン。流石はっちん!良くわかってる!
はっちんの手は腰に添えられてて、音楽無しで、私達はゆらゆら揺れるダンス。
「これさぁ、覚えてる?」
「……覚えてる。みゃーが好きな映画。」
こんな些細な事も覚えててくれるんだ。嬉しいなぁ。
「はっちんのお家で観てさ、あの時は身長、逆だったね?」
「あれ、悔しかった。」
「そうなの?私は凄く楽しかった!」
へへって笑ったら、はっちんの右手が頬を包んで、上向かされた。
顔が近付いて、キスされんのかなって思ったけど、寸前で停止。目だけで見上げたら、ニヤッて、笑ってる!く、悔しくなんて、ないんだから!
「君たち、ラブラブ過ぎだね。」
ぶはって、照屋さんに笑われた。
周りの人達にも温かい目で見られている。
やっぱり悔しかったから、無言ではっちんを拳で突つきまくっておいた。
帰りはタクシーを呼んでくれたから、それに乗ってはっちんと帰る。
春日さんから、今回撮った写真が載る雑誌が出るまでは二人の外出は控えるかタクシーを使うようにって言われた。
タクシーは勿体無いけど、バラバラで登校は、寂しい。
「すぐだよ。用心した方が良いだろ?」
「うん。折角皆さんが協力してくれてるのに、無駄にしたくない。」
「夜は、一緒に寝よう?」
「学校では、会いに行っても平気かな?」
「クラスの奴らは慣れてるから、変な事はしねぇだろ。でも、他学年とか他クラスはわかんねぇ。」
「約一月の我慢、だね?」
はっちんの肩に擦り寄ったら、肩を抱いて髪を撫でてくれる。
はっちんに甘えられるのも大好きだけど、甘えるのも、好き。




