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ブラックはっちん発動は私限定

 学校は、程良く怠惰に手を抜いて。これが私のモットーです。

 だけど朝の支度は一仕事。

 髪の手入れをしてさらさらストレートにキープ。

 化粧をしてない風ナチュラルメイクで軽い顔面改造。

 これも全て、将来怠惰な結婚をする為の役に立つんじゃないかな。

 それが終わったら、もう一仕事。


「おはよー、おじさん、おばさん。」

「おはよう都ちゃん。」

「いつもごめんね。瑛都はまだ起きないの。頼めるかしら?」

「任せろー」


 学校の鞄を持って、私ははっちんの部屋へと向かう。踏み込んだはっちんの部屋は、ぐっちゃり洋服やら漫画が散乱してる。片付けても片付けても、すぐにぐっちゃり。


「はっちん朝だよー、起きろー」


 洋服踏み越えて、ベッドで丸まってるはっちんを揺する。けど、これだけでははっちんは起きない。

 よいしょ、ってはっちんの腰に馬乗りになって、私ははっちんの耳へ唇を寄せる。


「起きたら、良い事あるよ?」


 色気を意識した声で囁いて、耳へと息を吹き掛ける。そうするとあら不思議、はっちんのお目々がぱっちり開くのです。


「おはー」

「待て、良い事は?」

「なんの事やら。毎朝変な夢を見過ぎではないかね?」


 のそのそベッドから下りて私はテキパキはっちんに制服を渡して着替えさせる。その間、はっちんはずっと不満顔。


「みゃー、良い事。」

「はいはいー」

「絶対夢じゃねぇって。毎朝だもん。」

「はいはいー」

「なぁ、みゃーみゃーみゃー。」

「なんだね、ニャンコくん?」

「ハグ」

「カマン!」


 両手を広げると、着替えを終えたはっちんの腕にすっぽりと包まれる。前は逆だったんだけどな。


「みゃー、良い匂い。ちゃんと付けて偉いな。」

「まぁねー」

「俺のマーキング。」

「そだねぇ」


 にへらって嬉しそうに笑ったはっちんは、私と手を繋いで洗面所に向かう。うがいして顔洗って髪型整えるはっちんを鏡越しに観察してから、二人で角田(つのだ)のおばさんが作った朝ごはんを食べる。そんで仲良く歯を磨いたら、はっちんは私と同じ香りを纏う。


「いってきまーす!」


 おばさんに見送られて手を繋いだ私達が向かうのは、駅。私達はおんなじ高校に電車通学してる。はっちんはもっと頭良い所行ける癖に、私を追って来たらしい。


「みゃー、苦しくない?」

「んー、いつも通りー」


 朝はいつも満員電車。だけど私はいつもはっちんの腕の中に守られる。たまにぎゅうって抱き締められるから、ある意味苦しい。


「今日、仕事無いから。待ってろよ?」

「へーい」


 ちょっと前までドラマ撮影で忙しかったはっちんは、今度は番宣で忙しい。最近は一緒に帰れる事はほとんど無かったけど、今日は一緒に帰れるみたいだ。

 電車でも通学路でも、普通にしてれば誰もはっちんに気が付かない。みんな自分に精一杯の時間と場所だから。だけど学校には、たまにファンの人達が来てたりもする。それを見つけた時のはっちんの顔は、とっても怖い。


「外だとはっちん、いつも眉間に皺。」

「仕方ねぇじゃん。イライラすんだもん。」

「カルシウムを取りなされ。」

「みゃーが外でキスしてくれたら、皺取れるかも。」

「なるほどー。しねぇな!」

「ここはしろよ!」

「しねぇぜ!」


 無事校門を通過して、私達は下駄箱で別れる。

 はっちんは二年生だから最上階。

 私は三年生だから二階。これは昔、受験ノイローゼになった生徒の身投げがあったから。お気楽二年生が最上階、間に一年生、落ちても怪我で済む階に三年生になったらしいって噂がある。本当かね?学校の七不思議。


「おはよう、都。」

「みやちんおっはぁ!」

「おはー。さっちん、よっちん。」


 友達に挨拶して、私は自分の席に着く。さっちんは小学生の時からの腐れ縁。だからはっちんの事も良く知ってる。よっちんは今年初めて同じクラスになってからの付き合いだけど、好みが同じの漫画仲間。


「都、今日アレは?」


 さっちんが言う"アレ"ってのははっちんの事。さっちんははっちんが嫌い。


「今日は普通に登校。帰りも普通に下校。」

「うぇー、ならこっち迎えに来る?」

「来るねぇ、きっと。」

「面倒だからさっさと帰るわ。」

「そうしなされー」

「アレってエイトでしょう?紗南(さな)ちんって、なんで嫌いなの?」


 私達の腐れ縁具合を知らないよっちんが不思議そうにしてる。


「芸能人が幼馴染なんて良いよねぇ、イケメンで目の保養じゃん!」

「陽子はアレの本性知らないからそう言えんの。あいつは天使の皮を被った悪魔だ!それも、都の事限定!」

「やべぇよ、マジ。迂闊に原田に告ると精神的に追い詰められっから!」


 突如参加して来たのは腐れ縁二号の伊藤くん。伊藤くんはよく、ブラックはっちんの被害に遭ってた。


「中二の時だよね。あんたが都に告ったの。」

「おーおー、マジトラウマ。すっぱり振られた上での悪魔降臨だぜ?キツイわぁ。」

「いやー、その説はご迷惑を掛けて、申し訳無かったね。」


 すまんすまんって謝ったら、伊藤くんは爽やか笑顔で首を横に振る。もう克服したって笑う伊藤くんは、実はさっちんと付き合ってる。


「えー、悪魔とか気になる!見てみたい!」

「次見られるとしたら都が大学入ってからじゃない?」

「だな。今はもう粗方退治された後だし、原田も最近はあんま男と関わらないからなぁ。」

「まぁね。はっちん今忙しいから、手を煩わすのもどうかなってねー」


 あはははーって笑ってたら、さっちんと伊藤くんになんとも言えないような顔で見られた。


「一番怖いのってさ、実は都なんだよね。」

「俺もそう思う。あいつ、わかってんのかな?」


 そんな二人に、私はにっこり笑顔を向ける。


「わかってるよ、はっちんは。」


 話が見えないってよっちんが拗ね始めたから、私達は話題を変えて漫画話に花を咲かせた。

 そうしてのんびり適当に授業をこなして放課後。さっちんと伊藤くんは連れ立ってそそくさと逃げて行った。よっちんは目の保養するって言って、私と漫画話しながら時間潰し中。


「みゃー、帰るよ。」


 はっちんが来たら、教室に残ってた女の子達が生"エイト"だってざわざわ喜んでる。はっちんって人気者。


「みやちん!やっぱ本物は良いね!目の保養だね!」

「そうかい、そいつぁ良かった。暇つぶし付き合ってくれてあんがとよ!」

「良いってことよ!また明日!」

「おぅ!また明日ー」


 学校では、私達が幼馴染ってのはみんな知ってる。はっちんが入学したばっかの時は、休み時間の度にべったり張り付かれてたから有名っぽい。


「みゃー、スーパー寄って帰ろう。」

「何買うの?」

「みゃーのプリンが無性に食いたい。作って。」

「いいよー、甘い物解禁?」

「うん。ちゃんと動くし。夜、走る。」

「マネージャーはいるかね?」

「いる!」

「では鬼コーチの任、承った!」

「なんでマネージャーが鬼コーチに変わってんだよ。」

「なんとなくー」


 手を繋いでの帰り道。

 ファンっぽい子達が遠目でこっちを見てる。写真を撮られてるのに気が付いて、はっちんの眉間に皺が寄る。


「有名税ってやつ?」

「………ある程度は仕方ねぇけどさ。勝手に写真撮んのってどうなの?」

「ブログにあげたいんだろーね。"生エイトを見た!"て。」

「"隣にいるの彼女かな?"とも書かれる訳だ。」

「大変!私の顔が週刊誌に載る?」

「みゃーは美人だから載っても平気だろ?」

「そうして未来の金持ち見合い相手の目に止まると。素晴らしい!」

「馬鹿だろ。そんなん近付かせねぇし。」

「どっちを?記者?」

「変態オヤジの方。」

「変態オヤジ確定?」

「まぁな。俺が金持ちになっから、待ってろ。」

「へいへーい。夕飯も食べてく?」

「もち。みゃーの飯食いてぇ。」

「おっけー。何食いたい?」

「和食!」

「なら筑前煮でも作るかねぇ。」

「あと味噌汁!」

「豆腐となめこ?」

「大好き!」


 いつの間にか、眉間の皺が消えてはっちんは笑顔になってる。はっちんは笑うと八重歯が覗いて可愛い。

 男の心を掴むならまず胃袋からっていうから、練習を重ねて私は料理が得意になった。はっちんが甘い物好きだから、お菓子作りも得意。

 二人で買い物して、我が家でまったりプリン作りと夕飯の支度。両親の分は一応ラップしておいて、はっちんと二人きりの夕飯はくだらない話しながらのまったりタイム。そんで食後は、お腹がこなれるまで部屋でのんびりタイム。

 いつも通り私の膝にははっちんの頭。

 柔らかな猫っ毛を撫でながら私は本を読む。


「みゃー?」

「んー?」

「すっげぇ好き。」

「うん」

「みゃー」

「なんじゃい?」

「愛してる」


 本から視線外して見下ろしたら、はっちんの甘い笑顔にぶつかった。

 無邪気な天使はいつの間にか男になって、甘いチョコレートみたいな笑顔を見せるようになった。

 伸びてくるのは大きな男の手。

 私の頬を撫でて、髪に差し込まれる。ぐっと引き寄せられて、私はそれに、逆らわない。


「していい?キス。」


 ファーストキスは突然奪った癖に、律儀に聞くはっちん。こんな所も、可愛い。


「いいよ。…瑛都(えいと)。」

「都…好き。」


 そうして柔らかく唇が重なって、私の下唇がはっちんの唇に挟まれる。柔く唇で食まれて、私は舌で、はっちんの上唇を撫でた。


「みゃーとのキス、痺れる。」

「そうかい」

「みゃー」


 私の腰に手を回して、はっちんは私のお腹に顔を埋めて甘えて来る。グリグリと顔を擦り付けられて、私はそっと、はっちんの頭を撫で続ける。

 どんなに仕事が忙しくなっても、私達には会わない日なんてものは無い。私とはっちんは、毎日一緒。

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