はっちんとさっちんと電話に胃薬
最近毎日、朝ははっちんの腕の中。
なんだか幸せ一杯で、はっちんの口に吸い付いてみた。
起きない。
ちゅってして様子見て、起きないから、またちゅって遊んでたら、襲われた。
ベッドに縫い付けられて、指が絡まるように両手握られて、深い深い、全部を奪われちゃいそうなキス。
「色っぽ過ぎだろ…」
止まんねぇじゃんって囁かれて、また唇が重なる。
繋いでた手が片方離れて、耳から首筋、鎖骨を辿られる。
頭ぼーっとし掛けてるのに、触れられた所から、なんか電気みたいなのが走る。
深く繋がってた唇が解放されて目を開けたら、知らない表情の、はっちんがいた。
「自分で決めた縛り、後悔。」
「そなの?」
「でも、それなきゃ危なかった。」
「嫌じゃ、なかった。」
「っ、そうやって煽るな!」
鼻をぐにって摘ままれた。横暴だ。
はっちんがベッドから出て離れちゃって、少し寂しい。
「なんだよ、その顔?」
「はへ?生まれつきですが何か?」
「そういう事でなく。捨てられた仔犬みたいな顔してた。」
「なんと、無自覚。拾う?」
「拾うな、みゃーなら。」
「拾って飼ってー」
尻尾を振る犬を意識して、立ち上がってはっちんに纏わり付く。なんか、はっちん嬉しそう。
「ご主人様って呼んだら飼ってやる。」
「ご主人様!」
「なんか違う。色っぽく!」
演技指導入りましたー。
色気意識はこうか?って考えながら、はっちんの服を両手できゅっと握って上目遣い。
「ご主人様…」
ぐっと体を寄せてみたら、茹で蛸はっちんになった。
「ヤバっ…良い……」
片手で覆って隠したけど、隠れる前、口元ゆるゆるで鼻の下伸びそうな顔してたのが見えた。変態め!
「猫耳とうさ耳ならどっち派?」
「あー、うさぎ。」
「バニーガールなセクシーが好き?」
「あー…好き。」
「私、似合う?」
「…………………想像させんな!」
「ガッツリ想像したっしょー?」
「するに決まってんだろ。やべー、クララ立つー」
「クララ、もう車椅子いらないでしょ。普通に歩きなよ。」
「クララも気持ちの問題でずっとは立てないんだよ。」
「そかー、大変やねー」
「みゃーから始めたクララネタ、飽きてんなよ。」
「だって、余りにも頻繁に立つんだもん。」
「仕方ねぇじゃん。俺お年頃。」
「旅行、楽しみだね!」
「お、おう。楽しみ。」
立ったままのハグでお話してたから、私はそのままはっちんの胸に顔を埋めた。空も飛べそうとはこの事かもな。なんてな!
「そうだ。今日さ、放課後仕事、一緒に来る?」
「へ?なんで?」
突然の台詞に首を傾げて見上げた先で、はっちんは難しい顔してる。
「スマホに入ってるみゃーの写真、見られてさ、会わせろって言われたんだ。」
「誰に?」
「カメラマンの人。と、雑誌の編集長。」
「ふーん。彼女ですーって?」
「……まぁ、そんな。行く?」
「面白い?」
「どうだろ?メイク興味あんなら、側で見られるかも。」
「行こうかな。滅多に見られる物じゃないし、はっちんのお仕事してる所も興味ある。」
「なら、連絡しとく。」
「あいあいさー」
敬礼したら、微笑んだはっちんが優しく触れるだけのチュウをくれた。
幸せで蜂蜜になりそうだぜ!
放課後はっちんのお仕事見学に行くから、今日は入念に髪のお手入れ。顔面改造も気合いが入るぜ!でも濃くはしません。学校の先生に怒られちゃうからね!
「今日は鎧、やる気出たの?」
下駄箱で遭遇したさっちんに聞かれて、私は笑顔で頷いた。そんで、そのまま突進する。
「今日昼休み、おとーちゃんに電話する。んで、明日会ってお話したいって言う。」
抱きとめてくれたさっちんは、私の言葉で心配そうな顔になってはっちんを見た。
「俺も着いて行くから、大丈夫。」
少し、ほっとしたみたい。
なんだか胸が、ソワソワふわふわする。
「あんねぇ、さっちんも大好き。だからね、ちゃんと考えるよ、進路。その為のお話、してくる。」
「そっか…大丈夫?」
「あんま大丈夫じゃない。電話も会うのも、すっごい怖い。でも、はっちんが一緒に行ってくれるし、みんないてくれるから、頑張る。」
「電話は私も、側にいても良い?」
「もち!むしろいて欲しい。心強い、です。」
「都、大好き。頑張れ。」
「うー……よ、鎧が剥がれちまうぜ!」
パンダは嫌だ!って念じてぐっと堪えた。
さっちんと手を繋いで教室向かって、はっちんとは途中で別れた。はっちんは私を甘やかすけど、過保護過ぎる訳ではないんだ。
授業中、時計ばっか気にしてた。
時間が過ぎるのが、遅いような速いような気がして、段々胃がおかしくなって来る。こりゃお弁当食べられるかなって、不安になった。
「都、無理ならやめる?」
ついに次の授業が終わればお昼休みって時に、さっちんに心配されてしまった。
指の先は冷たいし、顔が強張ってるのが自分でもわかる。
「やめない。これ越えないと、進めない。」
「……何も出来ない自分が、悔しい。」
「何言ってるんだい!さっちんは、たくさんの事してくれてるよ?一人だったら、延々と無気力だった。」
ぎゅーってハグしてたら予鈴が鳴った。その授業は、異様に長く感じて、気持ちが悪かった。
「飯は、無理そうだな?」
お弁当持って現れたはっちんに苦笑された。そんなに顔、ヤバイのか?
「胃が、ギリギリだぜ。」
「胃薬、今飲む?」
「後にする。電話、先に良い?」
はっちんとさっちん、二人に確認したら頷いてくれた。
伊藤くんには、さっちんが事前に何か言ってたみたいだ。だから、よっちんや他の友達に今日は外で食べるって告げて、お弁当持って教室を出た。
公衆電話は職員室の前に一つある。先生に一言許可をもらえば、誰でも使って良いようになってる。今はみんな携帯持ってるから、滅多に使われないみたいでちょっと驚かれたけど、携帯忘れたって誤魔化しておいた。壊れたんだから、嘘じゃない。
胃は相変わらず痛いし、胸も苦しい。けど、さっさと終わらせた方が楽だ。
はっちんのスマホに入れてたお父さんの携帯の番号を出してもらって、ダイヤルする。
左手はさっちんが握ってくれて、はっちんの大きな手が背中にある。
唾を飲み込みたかったけど、口の中、カラカラだ。
『もしもし?』
久し振りに電話越しに聞いたお父さんの声、訝しんでる。公衆電話からの着信だからだ。
「み、都です。お父さん…今、電話、良い?」
『都?どうした?』
「あの、ね、会いたいの。話したいの。明日、会えますか?」
『……何か、あったか?』
「進路の、話……おか、お母さん、出てっちゃって、お父さんと、話したい。」
『あいつ、出ていったのか?今、一人なのか?』
「一人。明日、会える?」
『わかった。家…じゃない方が、良いか?』
「外にしよう。十一時、うちの最寄り駅の広場で待ち合わせしよう?近くに、静かな喫茶店、あったでしょ?」
『昔、連れて行ったな。まだあるのか?』
「ある。確認した。」
『…そうか。明日、十一時な。』
「うん。よろしく、お願いします。あ!携帯、壊れたの。何かあったら、連絡…」
どうしよって思ったら、はっちんが自分の電話番号を表示させて見せてくれた。それをお父さんに伝えて、電話は終わった。
切れた電子音聞きながら放心してたら、はっちんが私の手から受話器取って戻してくれた。
いつの間にか力が入ってたのか、さっちんの手を握ってた左手が、痛い。手は汗びっしょりなのに、変に冷たかった。
「みゃー、頑張ったな。偉い。」
はっちんの香りと温もりに包まれて、やっと、現実が戻って来たような感じ。
「さっちん…手、ごめん…」
「いいよ。都は大丈夫?」
「おぅ…なんか、力が入んない…」
「抱っこ、する?」
「学校でかね?でも何処か…座れる所まで、頼む。」
「任せとけ。」
はっちんに抱えられて運ばれたのは、職員室の前の玄関から出てすぐの庭。空いてたベンチに降ろしてもらって、さっちんとはっちんに挟まれるようにして座った。
「お父さんと、あんなに長く話したの、久し振りだ…」
小学校の時、お父さんはいつも怒鳴って、怒って、罵ってた。
中学上がってからは上手く付き合う方法を見つけたから怒鳴られなくはなってたけど、必要最低限しか会話はなかった。
「みゃー、手、冷たいな。」
「緊張した。泣くかと思った。」
「聞いてる私まで緊張したよ。ご飯は、食べられそう?」
「あー…二人は食べて?見てたら食欲湧くかも。」
「んじゃ遠慮なく。」
そう言ってさっちんがお弁当を膝の上で開けて、はっちんもほっぺにチュウをくれてから、お弁当を食べ始める。私はそれを見ながらぼーっとして、食欲は全く湧かなかったけど、ママンのお弁当を無駄にしたくなかったから無理矢理胃に詰め込んで、また胃薬を飲んだ。
はっちんがくれた今日の飴は、甘くて酸っぱい、檸檬味だった。




