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ニャンコなはっちんは芸能人

本作は虐待とネグレクトの要素を含み、軽いR描写など人によって不快な表現が入ります。

読み飛ばせば話が繋がらなくなる為、各話毎に前書きでの注意喚起は行いません。

ご了承頂いた上でお読み頂ければ幸いです。

「みゃー」


 呼ばれてる。だけど私は答えない。


「みゃー、みゃー」


 膝の上でゴロゴロして、私の注意を引こうとがんばってる。

 でも今、良い所。


「みゃーみゃーみゃー」


 読み途中の本を片手で持って、もう片方の手で猫っ毛をわしゃわしゃ撫でたら満足そうな顔で静かになった。

 私の膝の上にはデカい猫ーーーではなく、デカい男子高校生。猫っ毛猫目で八重歯が可愛い一個下の幼馴染。


「みゃー、構えよ。」

「今良いとこ。」

「俺、今日仕事頑張って来た。みゃーに癒されたい。」

「はいはい。はっちんは良い子良い子。」


 適当に相手してたら、本を取られた。しかも閉じられた!と思ったら、ちゃんと栞が挟んである。はっちんは律儀で気が利く。


「みゃー、癒して?」


 "みゃー"っていうのは、はっちんだけが呼ぶ私のあだ名。名前が(みやこ)だから、みゃー。

 ちなみに"はっちん"も私だけが使うあだ名だ。本名は"角田(つのだ)瑛都(えいと)"。顔もイケメンだけど名前もイケメン。そんなはっちんは万能人間。天は二物も三物も彼に与え賜うたようだ。


「何したら癒されんの?」


 聞いたら、何故かはっちんが赤面した。おい高校生男子。一体何を考えているんだ?


「ハグ、されたい…」


 恥ずかしそうに、可愛いお願い。

 そんなん小さい時からよくやってる。

 座って待ってたはっちんに迷わずハグしたら、すっぽり大きな体に包まれた。

 いつの間にかこんなに大きくなって、幼稚園児のはっちんは可愛過ぎて天使だった。十七のはっちんも天使だけど、中学でニョキニョキ伸びて、今ではなんだか違う生き物だ。


「仕事、今日は何したの?」

「んー…着せ替え人形で写真たくさん取られた。あとインタビュー。」

「ほぉほぉ。この前撮ったドラマはいつだっけ?」

「まだ。来年。」

「見てやらん事もない。」

「見ろよ。俺頑張った。」

「練習付き合ったし、知ってるよー。」


 ハグをしながらゆらゆら揺れて会話をする。

 でもはっちんが大きくて、覆い被さられてるのは腰が痛い。だから私は、はっちんの膝に座る事にした。

 よいしょ、と姿勢を変えたら、はっちんが真っ赤になって固まった。気にせず私ははっちんに抱き付く。


「みゃーってさ、わかっててやってるよな?」

「何が?」

「………俺が、翻弄されてるって。」

「眼福である。」

「何が?」

「イケメンが動揺して、真っ赤になってんのが。」

「俺、弄ばれてる。」

「はっちんは私のニャンコだもん。弄んでるんじゃなくて、(じゃ)れてるの。」


 はっちんと私の家はマンションのお隣同士。

 母親同士がママ友で、自然、私達も姉弟みたいにいつも一緒にいた。

 小さい時、私は猫が好きで猫を飼いたかったんだけど、悲しい事に母親が猫アレルギー。ガッカリしてた私に天啓を与えたのは、幼稚園児でラブリー天使なはっちんだった。


『おれ、みゃーこちゃのねこになる!』


 猫っ毛猫目に可愛い八重歯。

 はっちんは正しく理想の猫だと脳内変換した私は、はっちんを猫可愛がりした。

 本物の猫みたいに、私より先に死んだりしない。最高のペットを手に入れたと私は思ったね。

 人前でやるのは流石にまずいと幼心に判断して、自分達の部屋で、はっちんは私の可愛いニャンコになる。

 ゴロゴロ膝に甘えて来たりハグをしたり、本を読む私の膝の上にはいつもはっちんの頭があった。

 だけどそんな関係は永遠に続かない。

 あれは、私が中三。はっちんが中二の夏だった。いつものようにニャンコごっこでまったりしていた私は、ニャンコに襲われた。

 まぁ、唇奪われただけですけどね!

 中学生男子、恐るべし!


『みゃー、結婚しよう?』


 流石に飛躍し過ぎだとツッコミました。

 突然私のファーストキスを奪い、プロポーズをかました中二のはっちんを正座させて、私は拳を握りしめて自分の夢を語った。

 それは、年上の金持ちと愛の無い見合い結婚をして家事をするのと引き替えに主婦という名の引きこもり生活を手に入れよう、という怠惰で駄目人間丸出しの夢。その為には女だって磨くつもりだったし、実際磨いて来た。私は、ブスではないはずだ、多分。


「みゃー、本ばっか読んでるけど、受験勉強は?」

「高望みはしない。推薦で行ける所のみに絞る。」

「みゃーってさ、人生にやる気ないよな?」

「ないねー。本や漫画読んで、映画が観られたらそれで幸せ。」

「………みゃーの夢、俺が叶えてやる。」

「愛無し結婚?」

「愛はある。専業主婦、したいんだろ?」

「はっちんは私を駄目人間にしようとしてるー。」

「駄目人間にして、俺無しでは生きられなくしよう計画実行中。」

「怖いー絡め取られるー。」


 ゆらゆら揺れて、私達は話す。

 はっちんの膝の上、大きな体にすっぽり包み込まれて、私は笑う。


「今の仕事だって、みゃーの為。この顔の有効活用だ。」


 中三の時、はっちんはスカウトされた。相談されて、はっちんなら出来るだろうって、勧めた。そしたらやっぱり、はっちんは向いてたみたいだ。

 雑誌のモデルから始まって、今ではテレビにもよく出る。この前は、初めてドラマの仕事をした。真面目で頑張り屋のはっちんは、毎日学校と仕事に頑張ってる。


「はっちんは良い子だ。」


 手を伸ばして猫っ毛を撫でたら、何故かはっちんは仏頂面。


「良い子なんかじゃねぇよ。頭ん中、良くない事ばっか考えてる。」

「高校生男子だもんねぇ?」

「そう。みゃーにしたい事、たくさん。」

「ほうほう。我が身は危険かね?」

「危険。今だって、したい。キス。」


 猫目を見つめて、私は微笑んだ。

 自分の人差し指にキスをして、はっちんの唇に押し付ける。


「キス、した。」


 途端真っ赤になるはっちんは本当に可愛い。

 こんな純粋無垢な反応は、多分私しか知らない。

 芸能界なんて、怖い事たくさん。誘惑もたくさん。そんな中で頑張ってるはっちんは本当に偉い。

 学校でのはっちんは、私の知るはっちんとは違う。

 いつも眉間に皺を寄せて不機嫌顔。

 黄色い声で騒ぐ女の子達を、不機嫌顔で威嚇してる。

 私の側に男友達がいると、ブラックはっちんが降臨して睨んでる。多分陰で何かしてる。だから最近は、私ははっちん以外の男の子に極力近付かない。


「みゃー、好きだ。」

「はいはいー」

「結婚しよう。」

「はいはいー」

「もっと仕事頑張って稼ぐから、そしたらみゃーは、俺のもんな。」

「はいはいー」


 有言実行が常のはっちん。

 絡め取られてるのは私?それともはっちんかな?


「好きだよ、瑛都(えいと)。」


 耳元で囁いたら、はっちんが茹で蛸になって私の肩に顔を埋めた。


「やっぱりみゃーは、わかっててやってる。」

「嫌かね?」

「みゃーならなんだって、どんなだって、好きだ。」

「私も、そんなはっちんが好きだ。」


 二人きりの部屋で、甘えたがりのニャンコになるはっちんは、私だけのもの。

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