第1章 はじまりの猫
あたしを見かけで判断すると
痛い目見るよ。
《今時のギャル》だなんて
馬鹿にしないで。
寂しさはサックスで癒せる。
悔しさは、ボスとの口喧嘩で晴れる。
怒った時は、ジントニック。
あたしは、この《自由》を満喫している。
*
秋の終わりの、雨の夜。
幼いあたしは泣いていた。
あたしが泣ける場所は、ただ一つ。
ダディの良きパートナーだった、タクミの胸だけだから……。
ハーレムにある小さな公園で、タクミは泣いているあたしを優しく抱きしめてくれた。
「いつか必ず迎えに行くから。辛くても、それまで我慢して待っててくれ。俺が必ず、ルーを迎えに行くから!」
タクミはそう言って、あたしをしっかりと抱きしめてくれたんだ。
その時の約束が、きっとあたしを強くしたんだと思う。
ダディーとママが、あたしと妹のミーを遺して死んでしまったあの日。
あたしと妹は大人たちの勝手な都合で、ここマンハッタンから、日本の親戚のうちに引き取られることになった。
そして、タクミはあたしのもう一人のダディ。
大好きだった。離れることは死ぬほど辛かった。
だから…いつか、迎えにくる…という約束を、あたしはずっと信じて待っていたんだ。