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42  作者: 結月(綱月 弥)


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渇望編 - 10

修の背丈ほどあるコンクリート片が浮かび上がるのが見えた。

指に力を込める、修の額に脂汗が滲む。

飛来するコンクリート片。


「――そんなこと、ない!」


次の瞬間、こちらを狙うはずのコンクリート片は、遮られたその場で勢いを失っていく。

必死の形相で両手を前に掲げ、『紡壁』を形成する弧羽。

弧羽は、息を荒げながら心配そうに修の様子を伺う。

満身創痍、だった。

心も、そして肉体の方も。


「お嬢も観念しろって……どうせやめるのなら、早い方が損はない」


余裕の表情で、交野は修と弧羽に憐憫を込めた視線を送る。


「……諦める……だと?」


いつか先生が言った言葉。


『心の死は、人としての死と等しい』


修は、先生の言ったその言葉の意味を噛み締めていた。


「お勉強して、期待された結果だけ出してりゃあ、何も不自由ないじゃねえか、なあ」


交野の続ける言葉、それはそうかもしれない。

だが――修は、静かに口を開いた。

心の奥底に留めておいた、『本当のこと』を言葉にするために。


「……違うんだよ。

俺がッ、俺たちが生きているのは、そんなんじゃない……ッ」


「何が違う」


交野が問う。


「知らぬ間に誰かに利用されて、飼い慣らされてッ

そんなことの為に生きてるんじゃねえッ!

誰にだって目的があるんだッ

絶対に譲れないもんがあるんだよッ!

『それ』を失ったまま生きるぐらいなら――

そんな人生に意味なんてねえんだよ!!」


修は叫んでいた――心から。

自らの思いを、絞り出すように。


「っくくッ。言った言った。よく言ったよ、おまえ」


落胆でも、失望でもない。

交野の瞳に宿った、昏い炎。


「笑わせるな。最後の最後までやりもせず、結果一つ出せないヤツが……

おまえに一体何が出来るってんだァッ?!」


交野の『投擲』、受ける修の『圧壊』。

加速する塊、砕け散る欠片。

少し前から、疼くように続いていた頭痛が止まらない。


「早いところ、許しでも請えば良かったものを……」


口の減らない交野は言った。

この状況、学園生の手から失われていたもの。

やるべきことを、形にすることを何もしてこなかった人間の手には、『それ』を掴むことは出来ない。

だから――


「そんなことは――しない。許せないのは、こっちの方なんだからな」


「……ほう?」


「許せるかよ、許せる訳無いだろう。

俺たちが奪われた唯一の、大切なものを取り返すまで」


拳を握り締める修。


「自由のみが描ける『未来』――

こんな所で、何も為さず、何も為せずッ

ただ緩やかに朽ちていくのに任せる――

そんな風に終わる訳にはいかないッ、俺たちを見誤るなッッ!!」


「馬鹿というものは、何処まで『いっても』変わりはしない。馬鹿のままってワケだ」


修を睨みつける交野は、その声色に力を込める。


「だが、安心しろ――」


そうして、交野は再び拳を握り締める。


「だから、俺はこの手で――」


呼応するように、修は握り締めた拳を開く。


「この手で壊す。

この能力で『破壊』する。

見える壁も、見えない『壁』も――」


大きく振りかぶる交野。


「おまえは緩やかに朽ちていくのでなく、瞬く間に――」


二人は深く息を吸い、そして吐き出す。


「死ね!」

「『破壊』する!!」


交野の一挙一動から目を離さず、構える修。

浮かび上がるコンクリート片を見て、指を鳴らす。

砕け散るそれに続き、新たな塊が飛ぶ。


「邪魔をするもの全てッ」


破砕する。


「俺の前に悉く立ちはだかるもの全てッ」


爆散する。


「例外無く『破壊』するッ!」


消失する。


「なら、やってもらおうかッ、この糞餓鬼がッッっ!!」


歪な悪意が、吐き出されるように修に襲いかかる。


「『圧壊』」


再度の第一射は砕け散る。

交野は、流れるようなフォームで次の攻撃を放つ。

突き出される修の拳に阻まれ、鉄筋を剥き出しながら地に落ちるコンクリート片。


「オレが居る限り、お前等は外に出られないんだよォッ」


「うるせぇ……誰が相手だろうと知ったことかッ、関係ねえんだよォッ、オオオオオォォォッ!!」


見えない壁を殴りつけるように右拳を突き出した。


「いいや、お前はここで死ぬッ、何も出来ず、何を為すこともなくッッッ!!」


「死なないッ、死ぬかよォッッッ、こんなところで死んでたまるかぁぁぁァァァッ!!!」


追い詰められていた。

既に、限界など超えている。

酷くなる頭痛を堪えながら、修は『圧壊』を使い続けた。


「ぐ……ッ、う」


徐々に押され始めるのを感じながら、状況を打破出来る術を持たない。


「ねえ、か、べ……『壁』を……」


時折攻撃を防いでくれていた弧羽だったが、やはり能力の酷使は修と同じく体力を烈しく消耗しているようだった。


「ああ……分かってる」


弧羽を支えながら、修は前方のコンクリート片を払い除けるように拳を振り抜いた。

修の破壊したコンクリート片が背後の『壁』に激突する。

完璧な訳ではない。

『壁』は確かに、そのままで壊そうとすると容易な訳ではない。

だが、修は見ていた。

コンクリート片による攻撃が、『壁』に弾かれることなく沈み込んでいくのを。

直接攻撃でも壊れない。

固体を投擲しても壊れない。

だからこそ、この『壁』は学園に在籍する『能力者』に対して絶大な効果を持っていた。

突破するには、まだ何か、要素が足りない。

ただの攻撃では駄目だ。


「糞……クソッ!」


交野の攻撃は止まない。

奴の無尽蔵にも思える能力は、どこから来るのか。

そんなことを思わせるほど、奴の能力に終わりは無かった。

分からない。

分からないことだらけだった。

それでも、そんな中でも――

歩みを止めるべきではないと。

生きている限り。

こうやって、まだ生きている限り。

それは、分かっている、のに――


「何で」


辛い。

辛い。

吐きそうだ。

能力の酷使によるものだけなのか。

――全く、酷い頭痛だった。

微かに、頭を撫でる感触――弧羽の手。

「前を向くの。俯いていても、道は見えないから」

はっきりとした声で、弧羽はそう言った。




つづく

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