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42  作者: 結月(綱月 弥)


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資料:敗残者はかく語りき

2006年6月末から断続的に執筆していた作品です。

以前、私が結月と言うペンネームで書いていたものとなります。

友人のHIX3氏がイラスト担当で

サークル「maden agan」にてノベルゲームとして出す予定だったものです。

日の目を見られればと思い、今回こちらに掲載することにしました。

よろしくお願いします。

 以下、第弐次大戦終了時に敗戦国となった日の国に居た一部関係者の特赦と引き換えに、戦勝国で陣頭指揮を執った亜の国へ譲渡された『ある計画』の関連資料――計画に従事していたと思われる研究員の遺した手記の抜粋である。



---



 9月20日


 被験者ハ日ニ日ニ増ヱルモ、適合者ハ見ラレズ。

 既ニ予定ノ線引キスラ曖昧ト成リ果テテヰル。

 出来得ル限リ数多ノ適合者ヲ確保スル事ガ急務デアル。

 又、本日ハ新タナ被験者ガ補充サレタ為、引キ続キ作業ヲ執リ行フ事トスル。 



 11月2日


 参番棟ヨリ、被験者ノ独リガ脱走ヲ図ル。

 未成熟ノ能力ヲ用ヰテ反抗ヲ試ミタガ、コチラニ被害ヲ与フルニ及バズ。

 射殺サル。 



 12月8日


 戦局ヲ伝ヱ聞ク折、一抹ノ不安ヲ感ジズニハ居ラレナヰ。

 刻一刻ト、危機ハ増大シテヰルニモ拘ワラズ、我々ノ研究ハ完全ニ後手ニ廻ツテヰル。

 或レヲ実用化ニ漕ギ着ツケル為ニハ、障害トナル部分多ケリ。



 12月20日


 我々ハ世界ヲ変ヱル事ガ出来ナイ。


 施設、研究成果ハ闇ニ葬ラレル事トナルダロウ。

 或レノ発見ガヨリ早期デアツタナラバ、結果ハ違ツテヰタ筈デアル。

 人ノ触レ得ルベキデナヰ物デアルト謂フ事ハ理解出来ル。

 然シ、其レデモ私ハ、此処デ目ノ辺リニシタ恐ルベキ成果ガ軈テ世界ヲ侵蝕シ得ルト考ヱテヰル。

 何故ナラ、彼ノ人ト呼ブモ憚ラレルモノニ一切ノ慈悲ガ存在シナヰ事ヲ、厭ト謂フ程見セラレテキタカラデアル。

 嗚呼、然シ私ハ幸セダ。

 彼ノ様ナ悪夢ニ染マル事ナク死ヲ迎ヱル事ガ出来ルノダカラ。



 12月25日




                        コハ ネ

 

       居ル



 ※この日で手記は途切れている。


---


 戦後、居所の知れなかった計画の関係者を探し出した人物が居た。

 都市伝説や陰謀論をメインに扱うゴシップ誌の記者による執拗な捜索の結果である。

 そうして、戦後、秘匿された『ある計画』の資料譲渡で特赦を得た元研究員の一人に対し、オフレコかつ記事にしないことを条件に取材することに成功した。


「ああ、そうだ――

 私たちにはこれ以上、失うものなど、何もない。

 大切な人が死に、守るべき情報が漏れ、為るべくして敗戦へ至った。

 私たちの研究とは結局、許されざる深淵を覗くことだった。

 絶望の淵へ。三途の縁に。煉獄の際と背を合わせ。

 そのように人の道を外れた連中に、失うものなど、何もありはしないのだ。


『我々は世界を変えることができない』


 あの当時、計画の停滞に絶望した研究員の一人がそう口にした。

 その通りだ。

 だが、問題は、それを認めて尚、すべきことを見失わずにいられるか。

 出来る何かを模索し得るのか。

 亜の国に研究が渡るまで……

 それが大事なのだと、私はそう、思っていた」


 元研究員の一人は取材に対してそう語った。

 そして、最後にポツリと、こう言ったのだ。


「……しかし。今になって思う。

 私たちは、戦争が終結した時に死ぬべきだった。

 目指したものにはついに辿り着かなかった。

 あの計画は畢竟、忌むべきものであったのだ。

 だが、それを手に入れた亜の国が研究を捻じ曲げてしまった。

 人に与えられた最後の許しを撥ねつけるような真似を――」




 取材の二日後、その元研究員は自殺した。


 


 取材を行っていたゴシップ誌の記者は被害者である元研究員に最後に会った人物として事実聴取を行われるが、警察上層部にコネを持っていた記者が逆に、聴取の際に事件現場の様子を尋ねると……。

 遺体が発見された際、部屋は散乱しており、元研究員が隠し持っていたと思われる何らかの計画の複製資料には数多くのバツがつけられていた。

 強く何度も、傷つけるようにつけられたバツの下にあった文字は、どれも同じ。


 『コハネ』


 記者はその言葉に覚えがあった。

 死んだ元研究員に取材した際に、ただ一度だけ出てきた言葉だった。

 なお、彼によると、その言葉が何を指すのかは、計画によって特赦を受けた人間と、資料を接収した一部の人間だけが認知しているとのことだった。

 計画の名は『黄金の子供達』――


 この取材を行った記者がその後、所属していたゴシップ誌に何かの記事を掲載したことはなく、また、そのゴシップ誌も程なくして廃刊となった。


 果たして、取材によって不都合な真実が掘り起こされたのかどうか、確認する術はない。

 何故なら、その取材に関わった者はもう、一人残らず消えてしまったのだから――

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