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怒りで人は驚くほどに変われます

久しぶりの投稿ーー!自分でもキャラクターの名前が飛んじゃったりしました。

「もう!本当にバカなんだから!」


放課後になっても優子の怒りはおさまっていなかった。というよりも呆れていたと言った方がいいかもしれない。

ご機嫌ななめのまま、彼女はグラウンドへと向かった。なんといっても優子は陸上部のエースなのである。動けばこの気持ちも少しは和らぐかもしれない。そんなことを考えているうちグラウンドへとついた。


「おーおー、今日はご機嫌ななめやな」


「…………部長、おはようございます」


「おはようさん、優子ちゃん」


部長と呼ばれた女子生徒はニコッと笑った。

彼女の名前は関根(せきね) 西夏さいか。肩のあたりで切り揃えられた黒髪。小麦色に焼けた肌が活発なイメージを与える。笑顔がチャームポイントと本人談。


「どないしたん?また藍夜馬君のこと?」


「………何のことですか?」


「隠し事下手やなぁ。バレバレやで?恋する乙女は悩み多きってことやな」


はっはっはっ!と豪快に笑う西夏。こんなことは日常茶飯事なので、いつも通りにため息を吐く優子。そこへ、


「あー!優子先輩!来てたんですね!」


「…………部長、早速練習始めましょう」


「ちょっと!無視しないでくださいよ!」


「そやな。そろそろ始めよか」


「部長まで!?」


置いていかれそうになっている茶髪のセミロングの一年生。彼女はもう一人のエース、池ヶ谷 雅斗の恋人である、


流谷(りゅうや) 亜衣子でーす!よろしく!」


「知ってるわよ。そんなこと」


「え、いやあのこれは……」


「熱あるんとちゃうか?ちょっと保健室連れてったるわ」


「やめてくださいー!私は健康ですからー!」


亜衣子は西夏に掴まれていた腕を振りほどき優子の元へと駆けてきた。


「それより先輩!聞いてくださいよ!また雅斗先輩が!」


「はぁ………」


全てを聞く前に優子は『またか………』とため息をついた。亜衣子は開口一番に雅斗のことを話してくることが多いのだ。やれ雅斗とちょっと喧嘩してしまった、やれ雅斗がプレゼントをくれた、などなど。

彼女は雅斗が優子のことを好きだったことを知っているため、自分に対して無意識のうちに負けたくないという気持ちが出てしまっているんだろう、と優子は思っている。何故なら亜衣子が雅斗のことを話す時は本当に嬉しそうに話すからだ。

だからこそ優子もある程度許していたわけだが、自分が好きな人のことで悩んでいる時には勘弁してほしい。


「私との約束をドタキャンされちゃったんですよ!でも後日なんと!そのお詫びでネックレスもらっちゃって!」


「そ、そう、よかったわね」


「はい!今も部屋に汚れないようにしまってあります!それとこの前にもですね!先輩が━━」


「ほら亜衣子ー。あんたマネージャーやろ?はよ仕事始め」


そろそろ辛くなって来た時に西夏が間に入ってくれた。


「で、でもまだ話が………」


「はよしなあんたの恋人のええとこ見れへんで?池ヶ谷君も亜衣子に見せたいと思てるとちゃうんかな〜?」


「! 先輩すみません!私仕事を思い出したんでちょっと行って来ます!」


そう言うないなや、彼女はあっという間に男子陸上部の練習場所へと向かってしまった。


「部長、ありがとうございます」


優子は亜衣子の方に手を振る部長に頭を下げた。


「ええてええて、気にしんとき。あたしもあんたの立場やったら、最悪どつきましてもうてるしな」


ははっと笑う西夏を見て優子はやはり敵わないと思った。


「でもまだ気分もよくないやろ?久しぶりに色々やってみいひん?」


こういう風に気を使えれるのは大人というか、さすが先輩だなぁ、と感じられるずにはいられない優子だった。


「………はい!久しぶりにお願いします!」


そしてそんな先輩だからこそ、自分は甘えられるんだなぁ、と優子は思った。


***


軽いストレッチをしてグラウンドを二周ほど走り、ウォーミングアップを終えた。

西夏に言われた通り、優子の今日のメニューはたくさんの種目をすることだ。100メートル走に棒高跳び、砲丸投げなど。まずは100メートル走だ。


「ええ記録出すの期待してんで」


「はい。任せてください」


そう返事すると、優子は両手を地につけ腰を下ろす。クラウチングスタートだ。

女子陸上部のマネージャーが片手を上げ『位置について』と聞こえた声に全神経を集中させる優子。そして『よーい』という声と同時に腰を上げ前を向いた。そしてゴールを見据える。


(……………うん?)


そこで優子はあるものをゴールの先に見た。そこにいたのは、


(鹿月!?それに【欠陥集会】(リグレットグループ)!?)


ゴールの先にある中庭に集合していた。優子は知るはずがないが、この日の活動内容は『ゴミ拾いをして性格も毒舌も美しくなりましょう、ね?どこの誰かの口崎さん?』ということだった。これを発表した鹿月はもちろん心身共に無事ではなかったが。

そんなことはさておき、その光景を見た優子は治まりつつあったイライラが再び湧き上がってきた。


(あぁもう!なんで私がこんな時にあいつは女の子に囲まれてんのよ!)


優子の目が険しくなりゴールの先にいる鹿月を捉えた瞬間、『スタート!』とマネージャーが声を上げた。

身体に染み付いた習性により、優子はマネージャーの声を聞いた瞬間に飛び出した。しかし彼女はタイムなどは気にせず、ただふつふつと湧き上がる怒りに任せて駆け抜けた。


「この………唐変木ぅぅぅうううううううううう!!!」


心からの叫びが飛び出した。それはさながら竜の咆哮のようだ。

そして彼女はあっという間にゴールの線を越えてしまつた。


「………めちゃめちゃ速いな。これは新記録も期待でき………!?」


ゴールでタイムを測っていた西夏の目が見開らかれた。


「6秒24!?」


世界記録更新の瞬間だった。ウサ○ン・ボ○ト氏も真っ青の記録だった。


「え、ちょっ!?今走ったんて50メートルやんな!?100メートルでこんな記録ありえへんて!ちょっと優子ちゃん!これどういう━━」


「次!お願いします!!」


ギロッ!と効果音がつきそうな目で優子は言い放った。そんな彼女にタイムのことを聞く勇気は西夏には…………なかった。


「そ、そやな!つ、次は棒高跳びでもいってみよか!」


西夏は冷や汗を流しながら部員たちに声をかけ、棒高跳びの準備をさせた。

高さは3メートル。優子は棒高跳びがあまり得意ではない。なのでいつよりも高さを低めに西夏は設定した。


「お、落ち着くんやで、優子ちゃん。下手したら大変なことになるさかいな」


少し頭が冷えた優子は西夏の言葉に頷いた。再び手首、アキレス腱などをほぐす。軽く息を吐き、高跳びの高さを再確認した。そしてその先に━━


(…………ん?)


鹿月たち(彼ら)がいた。


(はぁ、気にしない、気にしちゃいけない。さっきの汚名返上しなきゃ)


優子はさっきの凄まじいタイムのことを気づいていなかった。むしろ冷静を失っていたため悪い記録が出てしまったと思っていた。

しかし自分に言い聞かせても、つい想い人を目で追ってしまうのは恋する乙女の性。最後にチラッと優子は鹿月を見てしまった━━それがいけなかった。


(な、なんでプレゼントなんかしてんのよ!?)


彼女の視線の先にいる鹿月は確かに大きな紙袋を持っていた。そして口崎にその紙袋を渡していた。

しかし優子は知らない。

鹿月は以前、口崎海音の命令でティーセットを持ってこいと言われていたこと。そして今日そのティーセットを持ってきていたことを。

そんなことを知らない彼女はもちろん………激怒した。


(私にはプレゼントなんてここ何年もくれてないのに!なんでまだ知り合って数ヶ月の女の子にプレゼントしてんのよ!!)


瞬間、彼女は走り出した。またしても、怒りに任せて。


「ちょっと優子ちゃん!?棒!棒忘れてるで!」


そう、彼女は何も持たずに走り出した。西夏以外の周りの人間も優子へ声をかけた。しかし優子には届いていない。


「この………女たらしぃぃぃいいいいいいいいい!!!!」


ドンッ!!と片足で踏み込む音が響きわたった。そして優子の身体が宙へと浮かんだ━━ 軽く5メートルほど。


「……………は?」


突然のことに西夏はつい間抜けな声が出てしまった。しかし彼女だけではない。周りの人間もポカンと口を開けながら優子を見ていた。

ドシンッ!!という音をたてながら優子は着地した。


(………何なんこの子?もしかしてロボットなんか?いや………宇宙人?)


優子の後ろ姿を見て、そんなことを考える西夏。


「部長!次お願いします!」


「いやあんた………ちょっと休憩した方が━━ 」


「そんなのいらないから!早く準備して!!」


「は、はい!」


もうどちらが先輩か後輩か分からない。

そして次の競技は砲丸投げだった。もう嫌な予感しかしない西夏。

そんな彼女をよそに、優子はもう荒ぶっていた。彼女が捉えるのはもちろん鹿月だ。変なことをしないか凝視する。


「こ、これ、砲丸な」


恐る恐る優子に手渡す。普通の女の子が持つにはなかなかの重さだが、優子はそれを軽々と持ち上げた。そしてその砲丸を持ちながらストレッチを開始した。


(えぇ…………)


もうドン引きするしかない西夏。

ストレッチの間もストレッチを終えた後も、優子は鹿月が変なことをしないか凝視し続けていた。すると突然優子の目が一際鋭くなった。そう、その時が………やってきてしまったのだ。


(なんで………なんで………)


優子の視線の先には、


(なんで抱きつかれてんのよ!!)


そんな光景を優子は捉えていた。

しかし優子は知らない。

度原空廻という少女はよく転けてしまうことがあり、高確率で鹿月にぶつかってしまうのだ。毎度鹿月は結構なダメージを受けている。


(さっきは口崎さんにプレゼントをあげてのに、すぐに違う女の子と抱き合ってるなんて………)


ワナワナと震え出す優子。手に持つ砲丸からピキッと音がした。


(あぁ………砲丸が………砲丸がえらいことに……あぁ)


備品が目の前で壊れそうになっている。部長として止めるべきなのだが、今の優子にそんなことを言える勇気を西夏には…………なかった。

自分のいくじなさを嘆いていると、優子は壊れそうになる砲丸をさらに軋ませながら走り出した。


「本当に………本当に………」


100メートル走や棒高跳びの時とは比にならない程のスピードで駆ける優子。そして軋む砲丸を持つ右手を振りかぶり、


「本当に馬鹿月なんだからぁぁぁああああああああああああああ!!!!!!」


投げ飛ばした。

しかし西夏を含む、周りの人間はそう感じられなかった。何故なら優子が持っていたはずの砲丸が一瞬にして消えたからだ。もうすでに地面に落ちているわけではない。上を見上げても砲丸らしきものは存在しない。


「ま、まさか…………!」


そこで西夏はあることに気がついた。


「まさか………見えへんほどの速さで飛んでいったんか!?」


彼女は慌てて遠くの方の空を見た。すると米粒ほどの黒い飛来物を発見した。もう西夏は空いた口が塞がらなかった。


(バ、バケモンやこの子…………)


そう思わざるおえない光景だった。すると優子がゆっくりと西夏に近づいてきた。


「あの………部長」


「ど、どないしたん?」


西夏は身体中から冷や汗が溢れ出した。あかん、食べられる!と心の悲鳴あげながら。

しかし彼女は優子の次の言葉によって更に驚くことになる。


「すみません。今日は調子が悪いので帰らせてもらいます」


『『『『『『え''』』』』』』


優子以外の声が重なった。そんなことを気にせず、彼女は頭を下げこの場を去っていった。


『『『『『『………………………』』』』』』


訪れる静寂。しばらくして西夏がポツンと呟いた。


「………あたし………部活辞めるわ」


『『『『『部長!?!?』』』』』


今度は西夏以外の声が重なった瞬間だった。

次の日


鹿月「今日の新聞は、えぇと、なになに………『○○市の裏山で謎の飛来物発見!!なお飛来物は砲丸投げの砲丸に酷似している模様』………へぇ、すごいなこれ。ていうか○○市って隣の県じゃなかったっけ?まぁいいや」

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