優子の隠し事
久しぶりの更新です。ホントにカメ更新ですいません………。
浅川優子は教室を飛び出した後、昼休みにいつ向かう場所へと向かっていた。階段を何段も上がり辿り着き先は、そう、屋上である。
(今私、絶対顔真っ赤だ)
屋上への扉を開け外に出る。すると涼しい風が優子の熱を沈めてくれた。
(もう、あのバカがあんなこと言うから)
優子は先程、鹿月が言ったことを思い出す。
(私が口崎さんと同じ扱いなんて)
口崎海音は毒舌を除けば学年一の美少女と言われている。優子も何度か口崎を見ているため、その意見には頷ける。しかし鹿月はさっき優子に向かってこう言った。
『ちょ、ガチで嫌がらないでくれよ!このままじゃお前、口崎と同じじゃないか!なんで見た目いいやつは俺に厳しんだぁぁああ!!』
と。先程も言ったが、優子は口崎が同性から見ても頷ける程の美少女だと思っている。そんな彼女と同等に容姿が優れていると言われて照れてしまったのだ。
(まぁ、あのバカはそんなこと思ってもないんだろうけど)
そんなことを思いながら彼女は近くのベンチに座った。そして鞄から小さな弁当と普通のサイズの弁当の二つを取り出した。
「はぁ……私もあいつを馬鹿にできないわね」
そう呟くと優子は二つの弁当に手をつけ出した。
「はぁ、さっきはいいチャンスだったのに………」
優子が二つ弁当を持ってきてる理由。もちろん彼女が大食いというわけではない。一つは自分用。そしてもう一つは鹿月のために用意したものだった。
優子は高校生になってからほぼ毎日弁当を二つ作っていた。しかしいざ渡すとなるとどうしても恥ずかしくて、彼に渡すことできなかった。なのでこうして屋上に一人で来て二つをしているのだ。
「これじゃあ同じクラスにしてもらった意味がないじゃない」
そして優子にはまだ鹿月に隠していることがあった。
この光輝学園は『来る者は拒まず』という言葉を体現したようなマンモス校だ。そのため決して賢い生徒が多い学校とは言えない。なので頭のいい生徒は特進クラスに誘うようにして、少しでも学校の偏差値を高めようとするのだ。
もちろん優子も誘われた。優子は類を見ない程の頭の持ち主だ。誘われないわけがない。
しかし彼女はあっさりと断った。陸上部でのエースのため、部活と勉強の両立ができない、というわけではない。特進コースについていけるか心配だった、というわけでもない。
特進クラスへ行かなかった理由は一つ。『鹿月が特進コースにいなかった』からだ。
しかし学校側も簡単には諦めなかった。さまざまな条件を付けてどうにか優子を特進クラスに入れようとした。
だが優子も考えを変えるつもりなかった。だから彼女は学校側にこう言った。
『藍夜馬 鹿月と三年間同じクラスにしてください。そうして頂ければ特進クラスのテストは受けます』
この無茶苦茶な要求を学校側は受け入れた。そのため彼女は特進クラスのテストを受けているのだ。
「しかも鹿月の周りには口崎さんだけじゃなくて度原さんもいるし………」
あの庇護欲を誘う小動物も危険だ、と優子は呟く。
「はぁ、なんで私、あんな朴念仁を好きになっちゃったんだろう」
ついそんな独り言が口から出てしまった。『好き』という言葉が自然に出たため、少し身体が熱くなる。しかし鹿月の前でその言葉が言えないことを思い出し、再び気落ちしてしまう優子だった。
「まぁ気づいたら好きになってたんだけどね!」
ヤケクソに叫ぶ。いつもこの時間は屋上にいるため、人がいないのは分かっていた。叫ぶことで少しモヤモヤが晴れたように優子は感じた。
「きっかけといえばやっぱり………」
『ぼくが絶対守るからね!ゆうちゃん!』
「やっぱりあの時かなぁ……フフッ」
バッ!と立ち上がると再び優子は叫んだ。
「絶対に伝えてやるんだから!この気持ち!!」
ふぅ、と息を吐き、優子は微笑んだ。それと同時に昼休み終了のベルがなる。
「それじゃあ、あのバカのいるクラスに戻りますか!」
その時、優子の去り際に鹿月がかなり狼狽えていたのを思い出す。
「フフッ、少しいじわるしてやるわ。私の気持ちに気づかない罰よ」
少し悪い笑みを浮かべながら彼女は屋上を後にした。
***
「なぁ、優子」
「…………何?」
教室に戻った後、優子はわざと不機嫌に鹿月と接した。
(フフッ、どうせなんで怒ったか分からないでしょう。せいぜい悩めばいいのよ)
心の中では悪い笑みを浮かべながら、無表情で鹿月が何と言ってくるか待つ。
「いや、そんなに怒ってるってことは、その……あの………」
「何よ。歯切れが悪いわね。はっきり言いなさいよ」
優子がそう言うと、少し困った顔をしながら鹿月は彼女の耳にそっと口を寄せた。
「ちょっ!?何すんのよ!?」
「いや、俺も小声でしか言えないから」
「はぁ?一体何が言いたのよ!」
「その、お前って今日………アレなのか?」
「アレ?アレって何よ」
「いや、だからそのな?アレだよ」
「はっきり言いなさいよ!」
「わ、分かったよ。お前もしかして………『女の子の日』なのか?」
「女の子の日…………はぁ!?」
その瞬間、優子の顔が真っ赤に染まった。それと同時に、
「やっぱりそのな━━げふっ!?」
思いっきり力を込めて鹿月を突き飛ばした。
「あ、あんた!ホントにバカじゃないの!!」
「い、つつ。だって女の子はそういうの大変って聞いたから………。何かあったら俺に言えよ?あ、ジュースでも買ってこようか?」
「なんでちょっと優しいのよ!?私がせい!………女の子の日前提で話を進めないで!」
「え?違うのか?………もしかして来てないのか?それ妊し━━」
「してないわよ!!ちゃんと来てるわよ!!………あ」
思わず言ってしまった。しかし口に出した言葉はもう戻らない。赤かった顔がさらに色を増す。
「あ、あー、そ、そうなのか。それはよかったよー」
そんな優子に追い打ちをかけるように、変になる鹿月の様子。
「その、もし来た時に困ったことがあれば俺に━━ぐはっ!」
すると突然、鹿月の鳩尾に鋭い蹴りが突き刺さった。その勢いに負け、その場で倒れてしまう鹿月。
「…………鹿月」
倒れている鹿月のお腹あたりに優子は足を乗せた。妙な圧力を優子から感じた鹿月。
「あ、あの?優子さん?そこに足を置かれるとちょーっと痛いかなぁと………」
すると簡単に優子は足を上げてくれた。ほぉ、と鹿月が安堵のため息をつこうとした瞬間、
「ねぇ」
「ん?」
「人間ってどこに足を振り下ろしたら痛いと思う?」
とんでもないことを優子が尋ねてきた。
「………何が目的で言ってるのか分からない、いや分かりたくないが鳩尾の追撃だけは勘弁してくださいお願いします」
動ける状態なら土下座していただろう、と鹿月は思った。
「なら━━『顔』ね」
「ちょっと考え直そう!顔は人の大切なものがたくさんある場所だから!!」
鹿月の声も優子の耳には届かず、彼女はさらに足を上へ上げた。
(くそッ!このままじゃ確実に保健室行きだ!最悪病院行きなんてことも…………こうなったら一か八かだ!)
何かの覚悟を決めた鹿月はある衝撃の一言を放った。
「優子。パンツ見えてんぞ」
(これぞ『優子を恥かしめて事を有耶無耶にしちゃおう!』作戦だ!悪いな優子。お前の殺気が治まった土下座でもなんでもするから今は許してくれ!)
しかしその言葉を聞いた優子は、
「ッ!?」
怒るどころかニヤッと笑った。
「見えてるんじゃない。見せてんのよ」
「え!?優子!お前まさか痴じ━━」
「冥土の土産にね」
「メイドノ………ミヤゲ?」
その言葉を聞いた途端、鹿月から血の気が引いた。身体中から嫌な汗が流れ出す。
「メ、メイドかぁ。メイドって言えば、優子。お前って可愛いからメイド服とか似合うそうだよぁ…………うん……」
「それはどうも。それじゃあお元気で。ご・しゅ・じ・ん・さ・ま」
その言葉をきっかけに、
「ちょっとま━━」
まるで死刑者の首を落とすギロチンのように
優子の足が鹿月の顔に振り下ろされた。
この一連の騒ぎをクラスの連中は、
『またイチャついてるよ、あの二人』
ぐらいにしか捉えていなかったという。
光輝学園入学当初
優子『あ、後鹿月に暴力を振るっても問題にならない権利をください』
学校側『えぇ!?』