勘違いもほどほどに
三話目ー。これで連続投稿は終わりでーす。
「うぃーっす」
『あ!馬鹿月が来た!』
『停学解けた馬鹿月が来た!
『一週間の停学解けた馬鹿月が学校に来た!』
「お前らほんとにブレねぇな!!」
結局停学になった俺は今日から登校再開なのだが………停学程度じゃ俺への態度は全く変わらないらしい。
「おう、鹿月久しぶり!」
「よっ、久しぶりだな、雅斗」
久しぶりに会った雅斗はいつもの様に爽やかに笑っている。まぁ停学がきっかけでみんながよそよそしくなるよりマシか。
「で、どうして停学なんてしてたんだよー?」
「まぁ色々あってな」
「はぐらかすなよー。俺たちの予想では、本命が『とうとう全教科で−10点以下を取ってしまった』で、大穴が『自分の馬鹿さを知らないいたいけな下級生にセクハラをした』だな。どっち?」
「どっちも違ぇよ!」
後者はちょっと当てはまってる気がするが………わざとやったわけじゃないから大丈夫……なはずだ。
「じゃあ結局なんだったんだよ?」
「別になんでもいいだろ。でもお前には感謝しとくわ」
「は?」
「俺に嫉妬して絡んできてくれてありがとう!」
「はぁ!?」
ある奴を筆頭に俺は虐められていた。そのある奴とはこいつ、池ヶ谷雅斗のことだ。こいつは一見爽やかに見えるが、結構しつこく独占欲が強い。なんでこんな奴がモテるんだろうか?世の中分からないな。
「ど、どうしてそんなこと今言うだよ?」
「なんでもだ。嫉妬深くて粘着質で独占欲が強くて本当にありがとう」
「もうやめてくれええええぇえ!!」
強くなるきっかけを作ってくれたことへの感謝と現在リア充街道まっしぐらに対する憎しみを込めて。あ、これ楽しい。口崎の気持ちがちょっと分かるかも。
「し、失礼しまーす……」
そんな風に過ごしていると、誰か教室に入ってきた。この控えめな声って……
「度原か?」
「あ、せ、せんぱー、う、うわぁ!?」
「た、度は、ぐふっ!!」
久しぶりに会って喜ぶ間もなく、俺は『タックル・オブ・度原』(今命名)を受けてしまった。いやー、これすらも懐かしい。嬉しくはないんだけどね?
「痛っつつ、ひ、久しぶり度原」
「は、はい……お久しぶりです……」
「今日はどうしたんだ?わざわざこんなところまで来て」
「あ、あのちゃんとお礼がい、言えてなかったので」
「別にそんなのいいのに」
小まめな子だな、ほんと。
「なぁ、鹿月?」
「ん?なんだ雅斗」
「いつまでそんな態勢でいるつもりだ?」
「え?………あ」
今俺は度原を受け止めた状態で仰向けに倒れている。つまり俺の上に度原が乗っているわけで………はたから見たら抱き合っている様にかしか見えない。あれ?まずくね?
「度原、ちょっとじっとしててくれ」
「は、はい?う、うわ!?」
俺は起き上がると同時に彼女を持ち上げた。子どもを持ち上げる様に、脇の下に手を入れて度原を立たせた。
「よし、これで一安心だな」
「で、この子は誰なんだよー?彼女?」
「わ、私はた、度原う、空廻ってい、言います」
なんかいつもよりどもってるような……いや、初めて会った時に戻ってる気がする。何故だ?ま、まさか!雅斗の前だからなのか!くそッ!俺の後輩にまで毒牙を!
「雅斗!お前は度原に近づくんじゃねぇ!!」
「は?なんでだよ?」
「なんでもだ!俺が許さん!!」
「あ、あの!せ、先輩!」
そんなやり取りをしていると、突然度原が大きな声で俺を呼んだ。
「改めてこ、この前はあ、ありがとうございました!」
深々と頭を下げる度原。
「どういたしまして、でいいのか?本当に気にしなくていいだぞ。お前は悪くないんだし」
「そ、それでもわ、私は言いたいんです。ほ、本当にありがとうございました!」
少し顔を赤くしながらも笑ってお礼を言ってくれた。この前のことを気にしてる様子もなくて安心した。
「そ、それにしてもい、意外でした」
「意外?何がだ?」
「せ、先輩にあんな一面があったなんて……」
「あぁ、あれは━━」
「あんなに……は、激しいなんて……(ポッ)」
「は?」
その瞬間、クラスの空気が一変した。振り返らなくても分かる。俺に刺さる視線の数が。貫きそうな勢いなんですけど。
「た、度原?何を言って……」
「先輩の……あんな……逞しい……」
「度原!本当に何言ってんだよ!?」
視線が!視線の数が!
「先輩の……かけてもらった時……とても……暖かくて……」
「制服ですよね!暖かいってブレザーのことですよね!?」
「ち、違いますよ。その、先輩の………うぅ、は、恥ずかしくて言えません」
何なんだよ暖かいって!?俺も知りてぇよそれ!
「おい、鹿月。停学の理由ってまさか……」
「違ぇよ!俺が何をしたって言うんだよ!」
「ナニをした?やっぱりお前!」
「お前らの思ってることは何一つもやってねぇ!」
「ナニ一つ?」
「もういいわ!!」
ドンッ!!!
その時、突然ドアが勢いよく開いた。というか吹っ飛んだ。そこに立っていた人物は、
「か~~~づ~~~き~~~!!!!」
優子だった。
「あんた……そんないたいけな子に変態的なことを!」
「優子!お前は今とてつもない勘違いをしているぞ!俺はやましいことなんて一つもしていない!」
「言い訳なんて聞きたくないのよ!」
途端、ものすごい勢いで優子が詰め寄ってきた。高井なんて目じゃない程の速さで。その勢いのまま胸倉を掴まれた。
「覚悟はできてるでしょうね!この変態!ロリコン!」
「だから違うって!話を聞いてくれよ!!」
「問答無用!!!」
優子が手を上げた時、廊下にある一人の生徒が通った。あ、あれは!
「ちょ、ちょっと!待ちなさい!」
なんとか優子の手から逃れその人物へと駆け寄った。
「おーい!口崎ー!」
「あら、藍夜馬君。久しぶりね。もう出所したのかしら?」
「捕まってないから!停学解けただけだから!」
こいつもやっぱり変わらないな。って今はそんなことを考えてる場合じゃない。口崎に誤解を解いてもらうんだ。第三者が否定してくれればある程度の誤解は解けるだろう。
「口崎、実はお前に折り入って話が━━」
「そういえば貴方に渡すものがあったんだわ」
ゴソゴソと鞄を探り出した。俺に渡すものって?
「はい、これどうぞ?」
俺に渡されたのは一枚の写真だった。ん、何の写真……
「!?!?!?」
「よく撮れてるでしょ?貴方にプレゼントよ」
口崎が渡してきたのは『俺が度原に覆い被さってる』写真だ。あれは事故だったのだが、普通に見ればそういう風に見られてしまうだろ。
「あの時やけに静かだと思ってたらこんなことしてたのか!」
「暇だったから仕方ないじゃない。それじゃあ………クラスの皆さんによろしくね」
「へ?」
その時、ガシッと誰かに肩を掴まれた。潰されかねない力で。俺は恐る恐る振り返ってると、
『『『『『この前はお楽しみでしたね』』』』』
死神+クラスの奴らの目線が俺の持つ写真に刺さっていた。ちなみに目は真っ黒なのに何故か全員笑っている。
「は、話を聞いてくれ!いや聞いてください!こうなったのは色々ありまして!」
「………そうね。被告人にも弁解の余地を与えましょう。私の質問に答えなさい」
「ありがとうございます!」
「どうしてこの子はこんなあられもない菅田なの?」
「はい!それは━━」
ここで俺は言葉に詰まった。ここで弁解するということは、あのことを全て話さなくてはならない。つまり度原に起こった悲劇を全て話さなければならなくなってしまう。そんなことをすれば度原はどう思うだろうか?決していい気持ちにはならないだろう。
「どうしたの?早く言いなさいよ」
「……い、言えない」
「は?」
「それについては言えないんだ!」
これが正解、だよな?
「……そう……なら」
ぐいっと再び胸倉を掴まれ、
「正義の鉄槌を受けなさい!」
優子は手を振り上げた。が、その時、
「お前ら、席につけー」
またしてもある人物が目の前に現れた。あれは!
「坂下先生!率直に言う!俺の誤解を解いてくれええ!!」
俺たちの様子を見て、俺の最後、坂下先生は、
「………お前ら、五分自習な。それじゃあな」
逃げた。
「先生えええええぇぇぇぇえええええ!!!」
「鹿月!首一本は覚悟しなさいよ!」
「いや!それ俺死━━」
グキッ
「ぐぎゃああああああぁぁぁぁああああ!!??」
停学明け早々、俺は保健室へと運ばれた。
***
「う、うぃーっす」
放課後、久しぶりの【欠陥集会】に来ていた。
それにしてもまだ今朝の痛みが残っている。何故この前の喧嘩で勝ったのに今俺はボロボロなのだろうか……。
「あ!せ、先輩、こんにちは」
先に来ていた度原が俺に駆け寄ってきた。
「おう、度原。今朝ぶりだな」
「は、はい」
…………よし、転ばなかったな。
「あの、先輩?どうしたんですか?」
「いや、こっちの話だ。気にしないでくれ」
「?」
小さく小首をかしげる度原。その仕草が妙に似合っている。見てるととても癒される。
「あ、あの先輩」
突然、度原が顔を赤くしながらもじもじしだした。はい、その仕草もとても似合って可愛いです。ぶっちゃけ愛でたい気持ちでいっぱいです。
「ひ、一つお願い、いいですか?」
恥じらいでのほお染め+上目遣いのコンボでのお願いなんて断れるか?
「度原……先輩に向かってお願いなんて……」
俺は、
「いいに決まってるじゃないか!なんでも言っていいぞ!」
断られるわけないじゃないか!
「あ、ありがとうございます!」
パァッと音が出そうな程、度原の顔が明るくなる。うん、俺の選択に狂いはなかった。
「な、なんでもい、いいんですよね?」
「おう!………ん?」
え、そんな確認するってそんな大袈裟なことを……?
「あ、あの!」
「は、はい!」
「わ、私のこと名前で呼んでください!!」
「……………はい?」
え?
「そ、それだけ?」
「ほ、他に何かあります?」
「い、いや、別に」
度原が思った以上にいい子だった。これ口崎の場合………考えるのやめよう。今は度原に応えなくちゃな。
「えぇっと、空廻?」
「…………」
度原改め空廻は黙ったかと思うと、
ボンッ!!
「えぇ!?」
本当にそんな音をたてそうなくらい顔を真っ赤にした。そして慌てて顔を手で覆う空廻。そ、そんなに名前を呼ばれたのが嫌だったのか!?
「わ、悪い空廻!いや度原!まさかそんなに」
「……や」
「え?」
「名前で呼ばないと……嫌です」
顔を覆いながら、拗ねる様に呟いた。
「ひ、ひとまず手をどけてくれないか?」
俺がそう言うと、空廻はゆっくりと手をどけくれた。顔はまだ赤い。
「えぇっと、名前で呼ばれるのは嫌じゃないのか?」
コクンッと頷く空廻。嫌がられてなくてよかった。
「なら、改めて……空廻」
「……はい……鹿月さん」
へ?
「鹿月……さん?」
「え?あ、す、すいません!へ、変なこと言っちゃって!」
「べ、別に気にすることないぞ?驚いただけで嫌ではなかったし……」
「…………本当ですか?」
「あぁ、逆に新鮮な感じでいい気がする」
「な、なら、か、鹿月さんってよ、呼んでもいいです、か?」
戸惑いがちに尋ねる空廻。
「もちろんいいぞ、空廻」
すると、空廻が破顔する。
「………鹿月さん……空廻……えへへ」
空廻が何か一人で呟いていると、
「少し遅れたわ」
口崎が来た。今日はやけに遅かったな。
「どうしたんだ?珍しい」
「貴方が倒れたせいで色々あってね」
「それお前のせいでもあるからな?それより色々ってなんだよ?」
「事後報告と言ったところかしら。あの三人の処分についてよ」
あの三人とはたぶん、刈愚山と高井、そして………あれ?誰だっけ?あの最初に吹っ飛んでいった……雑魚?ま、まぁとりあえずその三人のことだろう。
「三人とも退学処分として話がつけられたらしいわ。刈愚山直危の親がコネでなんとかしようとしたらしいけど、学園長が退学処分以外認めなかったそうよ」
「お前やけに詳しいな」
それにしても、あの学園長がか……。意外としっかりしてるのか?いや、騙されるな俺。【欠陥集会】に俺を入れたのは間違いなくあいつなんだから。
「まぁこれで一件落着って感じだな。よかったな、空廻」
「………空廻?」
「えへへ……へ?な、何か言いましたか?か、鹿月さん」
「………鹿月さん?」
突然ガシッと口崎に胸ぐらを掴まれた。
「は?え?は?」
「貴方、度原さんに何をしたの。早く言いなさい。場合によっては通報するわよ」
「いきなり犯罪者扱い!?」
今日絶対厄日だ。だって女の子から二回も胸ぐら掴まれたもの。女の子怖い……。
「明らかにおかしいでしょう。何故名前で呼び合っているの?普通に考えて貴方が脅したとしか考えられないわ」
「なんで名前で呼び合うだけでその発想になるんだよ!お前は一回常識を学んでこい!!」
「なら私のことも『海音様』と呼びなさい」
「そこは普通に『海音』でいいだろ!お前何様なんだよ!」
「海音様」
「そういうこと言ってんじゃねぇよ!!」
久しぶりのこの感覚……なんか疲れた。
「あ、あのこ、口崎先輩も来られたので、お二人につ、伝えたいことがあります」
俺たちの会話のタイミングを見計らって空廻が話に入ってきた。それにしても伝えたいことって?
「あ、あの私ってい、委員会たくさんなってたじゃないですか?」
「あぁ、確か全部お前が引き受けたとかなんとか」
「は、はい、そのことなんですけど……わ、私体育員じゃなくなりました!」
「え?ということは……」
「は、はい!わ、私が言って代わってもらいました!」
空廻が自分から他人に頼み事を言えた。普通ならあまり難しいことではないが、空廻の場合は違う。
言う決心をするのに相当な勇気を必要としただろうし、相手に向かって言う時はそれ以上の勇気を必要としただろう。つまり空廻は━━
「成長……したんだな」
「…………はい!」
空廻は太陽のように明るく笑った。
「藍夜馬君、度原さんがここまで成長したということは……」
「あぁ……そうだな……空廻」
「な、なんですか?鹿月さん」
「君は明日からここへ来なくていい」
「え……」
俺の言葉を聞き空廻の顔から笑顔が消える。
「ど、ど、どうしてですか!?私何かしましたか!?」
「お、落ち着け!お前が悪いってわけじゃない。もうお前はここにいる必要はなくなったんだよ」
「な、なら何どうして………?」
顔を悲しみに染め俯く空廻。な、なんでそんな顔するんだ?
「度原さん」
俺まで困惑していると、口崎が度原へと話しかけた。
「【欠陥集会】は悲しい個性をメンバー同士で改善していくのが主な活動って最初、藍夜馬君に聞かされたのを覚えているかしら?」
「は、はい……」
「つまりその悲しい個性を改善することができればここを卒業できるのよ。ここへは悲しい個性を持っているから強制的に来なければならないのであって、成長した貴方はここへ来る必要がなくなったのよ」
口崎が俺の言いたいことを全て話してくれた。【欠陥集会】にいると変に目立ってしまう。空廻とこうして会えなくなるのは寂しいが、今の空廻には楽しい学校生活を送ってほしい。
「で、でも……私………」
しかしそこで空廻は驚くべきことを口にする。
「わ、私まだ代議員に生活員、文化員に保健員なんです……」
「「は?」」
えーっと、ちょっと待てよ。うん、一回落ち着こうか。つまり何か?さっき空廻が言ってた『体育員を代わってもらいました!』は『体育員だけ代わってもらいました!』ってことか?………全部代わってもらったと思ってましたはい。あ、でも、
「でも体育員は代わってもらったんだよな?なら他のも代わってもらうことはできなかったのか?」
「そ、その私から言ったっていうのはですね……言っただけ、なんです……」
「言っただけ?」
「その……実は……」
〈空廻の回想〉
『ああ、あああああの!あああ明波さん!』
『はーい?呼んだかね?度原ちゃん。ていうか珍しいね。度原ちゃんから話しかけてくるなんて』
『すすすいません!わ、私なんかが……その……』
『別に気にしなくていいよー。で、何の話かな?』
『あの、その、私、体育員なんですけど……その……それを……』
『それを?』
『かかかか、かわ、かわわ』
『川?皮?』
『かわわ、代わって!………きゅうぅ……』
『ちょ、度原ちゃん!?大丈夫?……気絶しちゃってる……』
〈回想終了〉
「……………つまりどういうことだ?」
「その、私が目を覚ますとた、体育員が田中くんに代わってました。た、たぶん明波さんが田中くんにい、言ってくれたんだと思います」
つまり明波って奴が空廻の言いたいことを察して体育員を田中と代わるように言ってくれたってことか。
「その明波っていい奴だな」
「は、はい。明波さんはわ、私に宿題を渡さずに自分でやって、くれてましたから」
「………なんでだろう……惚れそうなくらいいい子に聞こえる」
宿題って自分がやるのが当たり前なのに。
「ダ、ダメです!」
「え?何がダメなんだ?」
「え、あ、ななな、ななんでもないです!気にしないでください!!」
「お、おう」
そんな顔赤くなってんのに気にするなって方が無理な気がするが……。
「二人とも、脱線してるわよ」
「「あ」」
そうだった。結局空廻のことはどうするべきなんだろうか。
「………やっぱり人ってすぐには成長しないのね」
「そこ!核心を突かない!」
遠い目をしながら口崎は言った。
「あ、あの、結局私はどうしたら……」
「………よし!お前まだ【欠陥集会】のメンバーだ!」
いい風に言ってますが、またダメンバーに戻ってしまった空廻ちゃんです。だって根本的なところが治ってないんだもの。
「は、はい!これからもよ、よろしくお願いします!!」
空廻さーん、なんでそんなに嬉しそうなんですかー。
「そうと決まれば、まずやらないとならないことがあるな」
「えぇ、そうね」
「?」
「空廻は明日早めに学校に来てくれ」
「ここへ集合してちょうだね」
「は、はい……?」
***
次の日、空廻のクラス前
「………一応確認するが、本当にいいか?」
「………はい。な、情けない話ですけどわ、私一人ではいつ終わるのか分からないのですし。あ、明波さんにもこれ以上迷惑かけられないので」
「………よし、なら行くぞ!」
俺は思いっきりドアを開けた。
「聞けえええぇぇぇえええ!!!一年……えっと何組だっけ?」
「二組よ。しっかりしてちょうだい」
「分かってるって。二組の奴ら!俺たちが誰か分かるか!」
『『『『馬鹿月先輩!』』』』
「違う!外れてないけど違う!ていうか先輩のこと少しは敬え!!」
ていうかなんでそのあだ名一年に広まってんだよ!
『おい、よく見たら後ろにいる人って……』
『あ!あれは口崎海音先輩だ!超美人!!』
『度原さんも入れて……あれ?もしかしてこの三人って………』
『『『『【欠陥集会】だ!!!』』』』
クラス全体が驚きに染まる。やっぱり口崎も有名なんだな。たぶん悪い意味で。
「よーし、俺たちのことが分かるなら話は速い。ここにいる奴ら。誰でもいいから空廻と委員会代われ」
『『『『え?』』』』
「文句は認めないぞ。もしそんなことする奴がいるなら」
「男子は私の毒舌で」
「女子なら俺の手で」
「「相手になるから覚悟しろ!」」
………あれ?俺また停学コースじゃね?
『『『『いやあああああぁぁぁあああ!!!!!』』』』
女子のみなさん、嫌がる気持ちは分かるんですが、叫びながら泣くのはさすがの俺でも傷つくぞ?まだ何もしてないし何をするかもちゃんと言ってないのに……。
『お、おい!あのここに口崎先輩の毒舌だって!?』
『あの言いよった相手の心を粉々にしたっていうあの毒舌だと!?』
『俺ちょっと受けてみたいかも……』
『お、俺も』『ぼ、僕も』『せ、拙者も』
そして一部の男子………自重しろ!!ていうか特殊な奴多いなここ!?なんだよ拙者って!
「それと一つ。俺たちの後輩に何かあったらすぐに俺たちがここに来るからな」
「それじゃあ私たちはこれで。度原さん、馬鹿月君。行きましょ」
「は、はい」
「ちょっと待て!お前までそれで呼ぶなよ!」
こうして俺たちは一年二組をあとにした。
***
「ふぅー、一件落着、って言っていいのか分からないがとりあえず終わったな」
「私たちの評価もさらに終わったわね」
「………あぁ」
まぁ俺たちの評価なんてもともと…………うん、考えるのやめよう。
「あ、あの!ありがとうございました!」
深々と頭を下げる空廻。これ昨日も見た気がするんだが。
「別に気にすんな。それよりもこれから大変だぞ?俺たちのせいで避けられるようになるかもだからな」
「それは、大丈夫です」
「なんでだ?」
「だって私には………先輩たちがいますから」
「うぅ………空廻!」
俺は嬉しさのあまり抱きついてしまった。
「きゃ、きゃあ!鹿月さん!?」
「空廻、お前はほんとにいい子だな~。もし何かあったら俺に言えよ?なんでも解決してやるからな~」
「あ、あああの、かづ、鹿月さん」
「うん?どうした?」
「あ、あ頭を、そそ、そのな、なで、撫でて………きゅうぅ」
「え?あれ?お、おい!空廻!?」
空廻さんお得意の気絶発動です。
ここで俺は今の自分の状況を思い出す。気絶した後輩を抱きしめてる男子高校生(馬鹿)。………こんなところを優子にはなんか見られたら大変━━
ゴトッ
うん?何か鞄が落ちるような音が……?不思議に思い振り返るとそこには━━
「………鹿月」
優子、再臨。
「優子!?ち、違うぞ!これは違うんだ!!」
「へぇーそう。気絶した後輩を抱きしめてのに違うんだー。そもそも、何が違うの?私まだ何も聞いてないのに」
しまった!自分で墓穴を掘ってしまった!!
そうだ!今度こそ口崎に頼むんだ!今回はさすがに写真を撮る暇なんてなかったしな。
「口崎!誤解を解いてくれ!」
「分かったわ。今回は真面目に説明するとしましょうか」
「おう!頼む!」
「度原さんが言ったことに感極まって、藍夜馬君が自分から抱きついて気絶させたのよ」
………あれ?悪く聞こえるのに全部あってる………これ俺が悪いじゃん!
「遺言はある?セクハラ大魔神」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!し、仕方ないだろ!こんな庇護良くそそる後輩があんなに慕ってくれたら抱きつくのも当然だと思います!!」
「………処刑執行!」
「くっ!こ、こうなったら受けて立ってやるよ!俺は誰にも縛られない!自分に正直に生きるんだ!お前の制裁になんて痛くも痒くも━━ 」
その後、俺は二日連続で保健室にお世話になることとなった。
いかがだったでしょうか?久しぶりの『類友』は。
ということで、空廻ちゃん編は終了です。次のヒロインとはなるのは誰でしょう?
次の話は出来次第投稿したいと思います。気長に待って頂けたら幸いです。
ではー( ´ ▽ ` )ノ