一件落着?
二話目でーす
「まあ精々頑張ることだね。………行け高井。低井のようになるなよ?」
「分かってるって」
高井とかいうやつが俺の前に出てくる。ていうかでかいなコイツ。190cmぐらいあるんじゃないか?
「アンタが噂の鹿月か。ほんとに馬鹿な顔ををしてるんだなぁ」
「あ?」
今なんて言ったコイツ?
「低井もこんなやつにのばされやがって。だからアイツはダメなんだよなぁ」
「おい、後輩は先輩に敬意を払うもんだぞ?」
「アンタには払う価値ねぇよ」
………よーし、こいつは徹底的に、
「ぶっ飛ばしてやるよ!」
その言葉を最後に俺は駆け出した。もちろんムカつく後輩の元へだ。
俺が臨戦態勢に入ったことで高井も拳を構える。
高井の構えは隙がなかった。こいつ……できる……!(バトル漫画風)
先にしかけてきたのは高井だった。拳を突き出したかと思えば、何時の間にか目の前に拳が迫ってきていた。ギリギリで避けるが、その時には下からもう一つの拳が俺の顔を捉えていた。俺は後方に跳び高井との距離をとる。
「避けんのはうめぇんだな、先輩?」
「まだ調子が出ないだけだ。舐めんな後輩」
何かが違う。あの時とは何かが。なんだ?
「何ボヤッとしてんだ、よ!」
「うぐっ!?」
考え事をしてしまったため、高井の拳をもろに顔にうけてしまった。ヤバイ、めちゃくちゃ痛い。
「藍夜馬君、彼はボクシングをやっているんだよ。君に勝ち目は無いと思うけどね。と、もう聞いてないか」
刈愚山が自分のことのように語っている。お前の手柄じゃねぇだろが。
少しフラつきながらなんとか立ち上がる。しかし、視界は何故かさっきよりもはっきりしていた。不思議に思い周り見渡してみる。一体何が変わったんだ?
「キョロキョロして一体何を……そうか、とうとうおかしくなったのか」
「あぁもう、刈愚山うるさい!ちょっと黙ってろ!」
「な!?」
そこであるものが足元に落ちているのに気づく。あれって……
「眼鏡?」
いつもかけてる眼鏡がそこに落ちていた。そういえばあの時は眼鏡かけてなかったな。よーし、これで!
「調子出てきたぜ!!」
再び高井と向き合い拳を構える。
「眼鏡外して強くなるなんて本当に馬鹿なんだな、アンタ」
今度は高井が俺の方に向ってきた。さっきと同じように拳が振るわれる。速さも威力も十分だろう。だが、
「それは━━」
俺は片手で受け止め、
「━━どうかな!!」
高井の顔に思いっきり一発ぶち込んだ。
「ぐっ、な、なんで━━」
「驚いてる暇なんてねぇぞ!」
高井に余裕を与える前に鳩尾に肘打ちを浴びせる。うっと呻き声を上げながら怯む高井。流石にボクシングをやっているだけあってなかなか倒れないな。
だが、俺も悠長に相手している場合じゃない。速く終わらせないと……このままじゃ俺のな━━
「おい、なんでそんなに戦えんだよ?アンタ、ただの馬鹿じゃないのか!?」
「………確かに俺は勉強ができない馬鹿だ。国語、数学、英語、他諸共オール1だしな。我ながら本当に嫌になるよ」
「な、ならどうして━━」
「だがな」
俺はフッと笑ってこう言った。
「体育だけは………3なんだよ」
「は?」
呆気にとられたような顔をする高井。フッ、そんなに衝撃的だったのか。まぁ無理もないだろう。
「つまり俺は『動けない馬鹿』じゃなく『動ける馬鹿』ってことだよ!」
「ちょ、お前何言って━━」
「行くぞ!トドメだ!!」
瞬時に俺は高井の懐に入った。フィニッシュはボクシングでも使うあの技だ!
「喰らえ!」
「お、おい!お前そんな適当でい━━」
「『先輩を舐めたら痛い目に会うから気をつけろよ?』アッパー!!!」
「ぐはぁ!?」
強く握たった拳を高井の顎をめがけて振り上げた。高井は放物線を描いて地面に激突した。
「ぐ、うっ、がは」
キレイに決めたつもりだったが、まだ意識があるようだ。タフすぎんだろ、こいつ。
「お前……本当に……何━━」
「俺が言うのもなんだが無理して喋んなよ?」
「お前……俺の言葉……遮りすぎ……ガクッ」
あ、とうとう落ちた。でも最後なんかおかしくなかったか?
だがこれで残りは一人。それは、
「刈愚山、覚悟はできてんだろうな?」
今回の事件の元凶、刈愚山直危だ。
「くっ!まさか君がここまでできるなんて思いもしなかったよ」
「どう見てもお前の勝ち目はない。ここで謝ったら先生に突きつけるだけで許してやるよ」
「謝る?俺がかい?本当に君は馬鹿だねぇ」
刈愚山は自らのポケットに手を突っ込み何かを取り出した。
「お前、それは……」
「あぁ、スタンガンだよ。それも改造して威力を上げてある。もともとはこれで彼女を脅すつもりだったんだけどねぇ」
刈愚山は俺にスタンガンを向ける。
「存分に味わうがいいよ!スタンガンの恐ろしさを!!」
スタンガンを構え、刈愚山は俺に向かってくる。戦闘慣れはしてないだろうが、あいつはスタンガンを当てるだけで勝負が決められる。つまり俺は絶対に隙ができてはいけないということだ。
「さあ堕ちろ!」
その考えに至ってる間に、刈愚山が目の前に迫っていた。
「藍夜馬!!!」
刈愚山はスタンガンを俺に向かって突き出した。絶対に当たることは許されない。だから俺は、
全力でスタンガンを蹴り飛ばした。
「なっ!?」
驚く刈愚山をよそに、スタンガンは宙を舞う。上がるとこまで上がると重力によって降ってきた。それを俺は手に取り、瞬時に刈愚山へと突きつけた。
「な、何を━━」
「スイッチ・オン☆」
ビリリリリッと音を鳴らしながら、刈愚山に電流を流していく。
「ぎゃああああああぁぁぁぁああああ!!??」
悲鳴を通り越して絶叫を上げる刈愚山は、やがて糸が切れた人形のように倒れた。
「……なんか呆気なかった……」
俺が言っていいことではないが、これが正直な今の感想である。
「貴方それは酷くないかしら?」
突然後ろから声を掛けられた。この声は口崎か。振り向いて確認すると、やはり口崎だった。その横に度原もいる。
「はい。これ貴方のでしょう?」
口崎が手にしていたのは俺の眼鏡だった。殴られた時に飛ばされたのを拾ってくれたのだろう。
「お、サンキュー」
眼鏡を受け取りかける。これはこれでしっくりくるな。
「藍夜馬君、どうして貴方はそれをかけずに戦えたのかしら?」
「あぁ、これ伊達眼鏡だから」
「なんでそんなもの付けてるのよ?」
「だって眼鏡してる方が勉強できそうに見えるだろ?」
「……貴方って本当に馬鹿なのね……」
え?なんでここで馬鹿にされんの?形から入るとか言うだろ?
「せ、先輩!」
そんなことを思っていると、突然度原が大きな声で呼ばれた。
「どうした?度原」
「あ、あの、そ、その……ありがとうございました!」
深々と頭を下げる度原。面と向かってお礼を言われるとなんか照れ臭くなるな。
「別に気にすんなって。俺たちがやりたいからやった。助けたかったから助けた。それだけだ。な?口崎」
「えぇ。まぁ藍夜馬君は『この機会に恩を売って後でなんでもいうこときかせてやるぜゲヘヘ』とか言ってたけどね」
「いつ!?どこで!?だれが!?」
まったく、口崎はこんな時でも変わらないな。まぁそれはそれで安心するが。
「わ、私は別にそのぉ……それでもいいですけど………」
ん?度原がなんか言ったような……。
「………この腐れ外道が」
「何そのいきなりの罵倒!?」
腐れ外道ってなんだよ!俺そんなこと言われるようなことした?
「それよりもどうしてあんなに戦えたのかしら?」
「お前今日質問多いな。そんなに俺のことが知りたいのかな?うん?」
「やめてくれるかしら。汚らわしい」
「……さすがに酷くないですかね………」
俺のライフがガリガリ削られていく。あれ?俺って勝ったんだよな?
「あ、あの、私もその、知りたいです」
「まぁ隠すことでもないしいいけど」
そして俺は少し前、中学時代のことを話し出した。
「俺にはな、浅川優子っていう幼馴染がいるんだ。知ってるか?超人みたいなやつ」
「は、はい。い、一年生の間でも有名です」
「貴方と彼女が幼馴染………世の中って何が起こるか分からないのね」
「おいそこ黙れ。話、続けるぞ?三年になると受験のために俺はちょくちょく優子に勉強教えてもらってたんだ。この頃まだ俺は勉強普通にできてたしな」
そこで二人を見ると、まるで信じられないものを見る目で俺を見ていた。え?今おかしなとこあったか?
「どうした?二人とも」
「………私ちょっと病院に行ってくるわ。まさか『藍夜馬君が勉強できた』なんていう幻聴が聞こえてくるなんて」
「いや言ったよ!幻聴なんかじゃねぇよ!」
「せ、先輩……嘘をつくのは、どうかと……」
「度原お前もか!?今話してることは!全部実話で!ノンフィクションの!嘘偽りない俺の過去だよ!!」
はぁはぁ、なんでここまで言われなくちゃいけないんだ………今の俺がそれほどまでに酷いということか。あれ?目から汗が……。
「あぁもう!お前らあんま口挟むな!話が進まないから!」
コクリと頷く二人。本当に分かってんだろうなこいつら。まぁ話を続けるか。
「えぇっとどこまで話したっけ?あぁそうだ。優子はな、この学園で人気だろ?中学でも同じように人気だったんだ。特に男子からの人気は凄かったよ」
「あ、あの浅川さんのことは分かったんですけど……せ、先輩とどんな関係があるんですか?」
「優子は特に男子に人気があったって言っただろ?そんな優子に俺は勉強教えてもらってたんだ。周りの男子たちはどんな感情を抱くと思う?」
「あ、えぇっと、あの、え?」
度原は分からないみたいだ。そういうことに疎そうだしな。
「口崎は分かるか?」
「………嫉妬、かしら」
「正解だ」
やっぱり口崎は分かるんだな。こいつも優子と同じで色々持ってるし、そういう感情にも敏感なんだろう。
「受験が近いのもあってな、みんなピリピリしてたんだよ。そんな時、学園のアイドルに変な虫がついてるときた。俺がいじめられるのに時間はかからなかったよ」
「そ、そんな……」
「…………」
「最初は無視とか段々物が無くなったりする程度だったんだけど、ある時ある奴を筆頭にとうとう暴力的ないじめになってきたんだよ」
懐かしいなぁほんと。まぁいい思い出ではないが。
「だが俺は黙っていなかった。一回優子との勉強をやめてもらって俺は鍛え始めたんだ。で、いざ男子ども決闘して見事俺は勝ちましたとさ。めでたしめでたし」
優子にやめるよう言ってもらえばよかったのかもしれないが、それはなんか男として情けない気がするし、何より心配かけたくなかったからな。あと………優子による被害も怖かったし……。
決闘後、あいつだけはしつこく俺に突っかかってきたなぁ。完膚なきまでに負かしてやったのに。でもなんでいきなり来なくなったよなぁ。それが未だに謎なんだよ。
「そ、それであんなに強かったんですか」
度原が感嘆の声を上げる。
「………」
しかし口崎は難しい顔して何か考えていた。
「ねぇ、藍夜馬君。一つ聞いていいかしら?」
「お、おう」
あれ?全部話したつもりだったんだが。
「何故貴方は馬鹿なの?」
「は?」
喧嘩売ってんのか?こいつ。
「言い方が悪かったわね。どうして昔は馬鹿ではなかった藍夜馬君が今は馬鹿なの?」
「どっちにしてもムカつくなその質問」
「ねぇ、どうしてなの?」
うーん、結構真剣に気になるみたいだな。ここは俺も真剣に答えよう。
「やる気がなくなったから」
「え?」
「なんだ?聞こえなかったのか?もう一度いうぞ。やる気がなくなったから」
「…………詳しく教えてちょうだい」
詳しくって言われてもなぁ。
「男子どもに勝った達成感で勉強のことなんて全く頭になかったんだ。で、そろそろ勉強しなきゃな~と思って真面目に授業受けたら何も分からなくてさ。ちゃんと勉強できる環境にするために努力したのに、その努力のせいで勉強について行けなくなったって考えたら………ものすごい虚脱感に襲われてな。やる気が全くなくなったんだよ」
これは今でも引きずってしまっている。授業が始まった瞬間、身体に力が抜けて眠くなるだよな。
「つまり燃え尽き症候群みたいなものかしら?」
「そんな大きなことじゃないと思うが……」
「まとめると後先考えずに行動した馬鹿な藍夜馬君がさらに今の超馬鹿な藍夜馬君になってしまったというわけね」
「どんなまとめ方だよ!悪意込めんな!」
「でもその男子たちには感謝しなくちゃね」
「は?なんでだよ?」
「だって、貴方と出会えることができて━━」
え?ま、まさか?
「罵倒できるんですもの」
「謝れ!今すぐ俺に謝れ!!」
くっそう!少し期待した自分が馬鹿みたいじゃないか!
「あ、あの……そ、そろそろここから出ませんか?わ、私こんな格好なので……」
もじもじと顔を赤くして度原がそんなことを言ってきた。そういえば度原は服破られたんだったな。て!なんで俺冷静に考えてんだよ!女の子がそんなあられもない姿をほっとくなんて紳士の名が泣いてしまうじゃないか!
「速くここから出よう。そして度原はすぐに保健室に向かうんだ。たぶんそこで替えの服はもらえるはずだ。俺はこいつらをどうにかしていくよ」
「は、はい!」
「私も度原さんに着いて行くわよ?」
「あぁ、頼む」
よし、さっさと三人とも縄かなんかで縛って先生に引き渡すか。幸いここは倉庫だから縄ぐらいあるだろう。引き渡す際に何か理由をつけないとな。そうじゃないと俺のない━━
「うおっ!?」
考え事してしまったせいか、床に転がってる何かに躓いてしまった。そして最悪なことに、
「え?せんぱ、きゃあ!?」
度原に向かって盛大に転けてしまった。
「痛っつ、悪い度原!だいじょ……!?」
ヤバイ……
「せ、先輩?ど、どうし………!!!!!」
度原も気づいてしまったようだ。今俺は度原に覆い被さる形になってしまっている。それだけでも大ごとなのに、転けたひょうしに俺の渡した制服がはだけてしまった。
つまり、今彼女は上半身下着姿なのだ!
控えめだが確かに女の子を主張する胸、雲のように白い肌に空色の髪がかかりもやは芸術といっても過言ではない。しかも度原の目が潤んでおり、態勢的に上目遣いとなってしまっていて扇情的…………って!俺はなんで普通に解説してんだよ!?早く退かないと!
「度原!ちょっと待ってくれ今すぐ退くか━━」
ガララ
その時、倉庫のドアが開く音がした。
「おーい誰かいるのか?ここは立ち入り禁止━━」
入ってきたのは坂下先生だった。そして目が合う俺と先生。みなさん、今の俺の態勢を覚えていますか?
「…………藍夜馬、停学」
俺に告げられたのはとても短く酷く残酷な言葉だった。
「い……いやいや先生!これはそういういやらしい気持ちなんて一切なく!」
「なら、度原を見て今お前はどう思う?」
「めちゃくちゃ魅力的で理性がヤバイです!!………あ」
「藍夜馬、停学」
「そ、そんな!!」
お、俺の恐れていたことが実現してしまった。このままじゃ、俺の、俺の、
「俺の内申点があああああぁぁぁああああ!!!」
その後一週間もの間、学園で俺を見たものはいなかった。
鹿月「俺の…内申点……」
口崎「大丈夫よ藍夜馬君。内申点が下がる程残って無いわよ」
鹿月「傷口えぐるなよ!!」