ミルドレッド視点
「それで、あの男のどこが良いのか私には理解できないの。だから、恋敵にはなり得ないわね」
私はそう言って招かれた少女を見つめる。
巫女姫との面会も終わり、少女は「招かれし者」という認定を受けた。
同時に巫女姫の力によって意思疎通を阻害していた「淀み」を除去。今では普通に会話できる。
大人しく付いては来るが、ずっと敵意の眼差しを送られるのは疲れる。
タフトのスラム街から神殿街までほぼ半日、針のむしろにいるような心地だった。
あっさりあの男に送り出されたのも機嫌が下降した理由かも知れない。
そして、私はあの男を狙っていると勘違いされている気がする。
確かに、彼の用意してくれた朝食とお弁当は美味しかった。それだけだと思う。
だからと言って誤解されるのはあんまりだ。私にだって選ぶ権利や好みがある。
という理由を持って早々に誤解をとこうと、彼女の世話役を買って出た。
「うー。ライバルじゃないのは嬉しいけど、おにいちゃんは素敵なのー」
そう言ってふてくされる。
ちょっと、どうしろって言うのよと突っ込みたくなる。
まぁ、お子様は仕方ないわね。
でも、あの男の良さは確かにわからない。
オドオドして、反応は鈍め、自分を頼ってくる少女を庇うでもない。
対応はかなり想定斜め下。
どっちかと言うと、あれはやめておきなさいと言いたい。絶対に苦労するし、トラブルが想像される。
言ってもこの子は聞かないんでしょうねぇ。
「じゃあ、よろず屋のお兄さんが本命?」
しみじみと恋するオトメって面倒って思っていたら爆弾発言された。
即座に否定したいけれど、あまりの衝撃で指先ひとつ動かすことができない。
この小娘なに言ってるの? という心境。
ありえない。そんな状況あったらそれは……。
「いくら私でも、そこまで腐った権力志向はないわ」
本当にありえない。
「エリコはあくまで幼馴染の便利屋よ。それ以上でもそれ以下でもないわ」
あー。
おぞましい想像しちゃった。
彼奴に恋愛感情を持つなんてあり得なさ過ぎ。
「……エリコ?」
少女が不思議そうに首を傾げる。
さらりと揺れる黒髪は綺麗だ。神の寵愛に外見が関係するとしたら、我らが御神様は幼女趣味なのかも知れない。
「ダレそれ? え? もしかして、よろず屋のお兄さんの名前?」
彼奴、名乗ってなかったの!?
今度常識について説教しとかなきゃいけないみたいね。