七尾円視点
相部屋になるという笹原由貴。
売られていく子牛よろしくよろず屋に連れられて行った。
部屋に残った俺は頭の中をめぐる名曲に想いを馳せながら、置かれたままの軽食を手に室内を見回す。
さっきまであの男が寝ていたベッドは壁際に密着。黒いサイドテーブル。窓スペースを開けて、机と椅子、物置き棚とソファー。
床はタイル張りの上に冷気除けの絨毯。壁には深い色目の布地。この街では室内を壁紙の代わりに布地を張り巡らす。
馴れないうちはドアの位置を把握するのに苦労させられて散々、迷わされた。
布のむこうは魔法で強化された木材の壁。
木壁の向こうに煉瓦が詰め込まれ、その向こうにまた木壁。そんなサンドウィッチ構造で四階建てという高層仕立てだ。
この部屋は一階厨房横、雨季には窓を開けることはできない。なぜなら二階天井までくらいは水没位置となるせいだ。
昨日は雨季の切れ目。
俺はその隙をついて二十日ぶりにこの部屋に帰って来た。
笹原由貴はその部屋で寝かされていた。
つまりベッドが空いてなかったので俺はソファーに寝るハメになったんだ。
俺と同じようにこの異世界に紛れ込んだ人間。
実は珍しくはない。
時には種族単位で紛れ込んでくることもあるという話も実例も知っている。
その時の情勢が安定していて余裕のある状態、かつ、迷い人が少ないか有益性が高ければ、自治体からの保護、宗教団体からの援助、魔法使い組織からの調査支援が受けられる。
物凄く審査が厳しく援助を得るまでのストレスはシャレにならないと種族単位で移住者となった知り合いが教えてくれた。
だからこそ異世界からの迷い人による互助会が存在するらしい。
運営は個人の長命種や技術力のある魔法使い組合、宗教団体へと協力を求めているらしい。
どれかが滅亡してもどれかが残るようにとの配慮らしい。
団体や組織、国家すらかなり簡単に滅亡する世界。
それがこの新たな俺の故郷。
結構、厳しい世界なんだけどあんなとろくっさいヤツが果たして生き残れるんだろうか?