夜の会話
「人員が多すぎるから減らさないとな」
ベッドに体を起こしながらエリコがそう言う。
肩に掛けられたストールを軽くなおしながらブランカが飲み物を差し出す。
増血効果のある薬湯だ。
それに赤毛を揺らし、頷くミルドレッド女史。
「チーム組が必要だとは思っていたけど、ユーキはダメね」
「残念ながら彼はメンバーから外せない。希がそれを認めない。今回の流れは彼女を中心に流れている」
エリコの告げる断言に渋い表情を見せるミルドレッド。
「彼女が中心なのはわかってるわ」
「それは上々。それで必要なのはガイドになる」
「エリコは無理、なのね?」
「今回の騒動で限界。しばらくうまく動けないし、うるさく騒ぎそうなトコを黙らせる作業もある。さかなはガイドとして問題外だしね」
エリコ忙しいんだなぁ。
ぼうっと聞いてるのもなんだし、ひとつ提案してみる。
「ミス達の誰かをつける?」
『却下!』
二人に揃って拒否された。
ブランカもビアンカもロゼルカもいい子達なのに。
「ミル。あの子達の常識はまだ足りてない」
「ほんとにね」
あの子達って異界人の方かミス達のことかどっちだろうか?
「そうなの?」
二人が重々しく頷く。
「ゆきちゃんは、ダメだ。生活能力はない」
「いや、生活能力だけじゃないじゃないあの子」
「そう、なの?」
「ああ、ラーク並みに生活能力がない」
「え? そうなの?」
「よろこぶな」
エリコに怒られた。
ちょっと嬉しい。
「じゃれてないで」
彼女の造形は美しい。
髪のうねり。肌の白さきめ細やかさ。筋肉の配分。魔力の質。選ぶ服のシンプルさと着崩しの角度。垣間見える谷間の演出。
そしてそこそこ切れる頭脳。
ああ、バランスを再現するとなれば材質は何がいいんだろう。
肌の美しさを再現するのは本当は面倒くさい。
あぁ、綺麗に剥いで見せるから半分ぐらい、その肌をくれないだろうか?
「まぁ消去法的にミル、がんばってね」
「やっぱり私なの!?」
◇◇
ぱたん
もぞ
ぱたん
何か落ち着かないのか円君が何度も寝返りをうつ。
「ねれなぃのー?」
間延びして聞こえるさかなの声。
「悪りぃ。うるさかった?」
円君の声は寝てなかったことがわかるクリアさ。
「ニンゲンはちゃんとねなきゃねー」
「全然、わかんねーんだよ。ここが何処かも、これからどうなるかも」
不安と怒りをにじませる声。
すこしこわい。
聞きたくない。
「ねなきゃねー。体力がなくなるよー」
「……」
「知ってもチカラのないニンゲンにはねー、なぁーんにもできないよぉ〜。さ、ねなきゃねー」
さかなの提案と指示。
それに返る沈黙とため息と布の音。
「んー。さびしぃなら、不安なら、ひとつでねるー?」
さかなの提案に円君の答えはわからない。
「ね。ゆーきもそれがいーよねぇ」
歌うような声がこちらにむかってふってくる。
「ゆーきも不安? 眠らないとニンゲンは死んじゃうよ」
「さかな」
ふあん。なのかなぁ。
だって、よろず屋に任せておけば、大丈夫だよね?
「円君。きっと大丈夫だと思うよ?」
ばさりッと大きな音を立てて掛け布団がめくれあがる。
「どんな根拠でだよ!」
怒鳴られるのはこわい。
でも、でも。
「よろず屋が決めたんなら、きっと大丈夫だと思うんだ」
円君の眼差しが僕を見ている。
こわい。
「……、なんで、よろず屋が決めたんなら大丈夫なんだよ?」
え?
「だって、よろず屋だよ?」
どこに疑問を挟むところがあるの?
「なんで、疑問を持たねーんだよ! 死ぬハメになるとこだったんだぞ!」
え?
でも、でもさ。
「死んで、ないよ?」
生きてるよ?
怪我だってしていない。
円君がうつむいて大きく息を吐く。
ああ。
なんか嫌だなぁ。
「も、イイよ。わかったから」
嫌な気分が晴れる。
わかってもらえるのは嬉しい。
「うん。よかったぁー」
ホッとする。
大丈夫なのわかったら、ゆっくり眠れるよね?
わかったってイイって言ってくれたのに円君は顔を背けて布団に潜り直す。
だって、死んじゃうのだってよろず屋が思うんなら必要なんだよね。
いらないよりいいんじゃないかなぁ。
円君って、わかんないコトを気にするんだなぁ。
僕が考えたってうまくいかないんだから、余計なことを考えてしまうのは良くないよね。
せめて迷惑はかけたくない。
大丈夫。
よろず屋がうまく考えてくれるから。




