さかなと魔法
刑場を埋めるオレンジ色。
僕とノイはそこ目掛けて落ちていく。
「ノイをたすけて」
それが可能なはずの相手だ。
思いつく限りの言葉を綴ってノイを助けてと望む。
「さかななら助けられるよね?!」
『……ユーキが望むなら叶えてあげる……』
どうしてか、少し不満の色の覗く声。
受け入れてくれたことが嬉しくて。
「ありがとう」
声を掛ける。
ひらりとオレンジ色の薄いヒレが視界を踊る。
「ノイ。助かるよ」
血の気のないノイを見下ろす。
血に汚れた顔。水を含んで滲み広がった血の模様は広がって。
今にも終わってしまいそうで不安だ。
たくさん助けてくれてたくさん親切にしてくれた。少しも返せないのはつらい。
僕は何もできないから、何もできなかったと自嘲するノイがノイの姿が辛くてそのまま消えて欲しくなかった。
しゅるりと器用に動くさかなのヒレがノイの体を絡め取り、彩る姿はどこか華やかで見惚れる。
「もう、大丈夫だから」
僕はノイの顔についた血を拭おうとその血痕に触れた。
僕はひろがる血化粧を見、疑問と共に自分の手を見る。
爪の隙間まで赤黒い血肉の汚れがこびりつき、濡れたせいで血がぬめりを取り戻していた。
「ごめん」
ああ。
本当に僕は余計なことしかできない。
「ノイ」
呼びかけると驚いた眼差しで僕を見るノイ。
意識ははっきりしているようだ。
良かった。
「どうして?」
僕はわからなくて言葉が出ない。
少し、考える。
「さかなが助けてくれたんだ!」
思い当たって答える。
本当にさかなはすごい。
今だって、さかなの背に乗っている状況だし。
ひらひら赤みを帯びたオレンジ色のヒレが視界を掠める。
とても華やかな光景だ。
「さかな?」
ノイが目をしばたかせる。
僕は頷く。
「本当にありがとう。さかな」
ひらめくそのヒレを撫でる。
嬉しげに揺れるヒレ。
『ユーキ。痛いトコないな』
篭った不思議な声は舌足らずな子供を思わせる。
「大丈夫だよ。さかなが受け止めてくれたから」
撫でる。ふわりと柔らかな感触のヒレ。
さかなは名前の通りの魚だ。
刑場の中を満たす水を己のヒレで埋め尽くしてキラキラさせている。
水が輝いているようで綺麗だと思う。
「狭くないの?」
さかなはとても大きな魚だ。
刑場では狭いのではないかと思う。
『問題ナイナー』
ひらりひらりヒレが踊る。
『なぁーんの問題もナイナー。ユーキに会えて嬉しいナー』
『ゆーき。水をきらきら凍らせて』
さかながねだる。
首を傾げる。
水は周囲に見当たらない。
「さかな?」
『上に、きらきらさせて』
上を見上げる。
ゆらゆらと淡いオレンジの光が周囲を満たしていて柔らかな場所。
氷結魔法を接触以外ではなったことがないから不安だ。
「はぁ」
息を吐いて上を見上げる。
さかなのお願いをどこまで叶えてあげられるかなんてわからない。
でも、懐いてくれるさかなのためにできることがあるのなら。
きらきらさせることぐらいならできるかもしれない。
きらきら?
ぁ。
きらきら魔法。
『流星明滅』
本当は攻撃魔法らしいけれど、僕が使うときらきらぱちぱちはじけるだけなんだよね。
あ!?
それともきらきらって鏡みたいな効果を期待して?
さかなのひれは綺麗だから透き通るきらきらって綺麗かも?
『鏡明反射』
『……ゆーき。怒ってたんだね』
さかなの呟きが聞こえる。
ぇ?
怒るってなにを?