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僕の場合  作者: とにあ
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エライ生き物

 なぜかエライ生き物が僕の頭の上をステージにして踊り狂っている。

 ついでに物騒な歌も歌っている。


「ぼっくめつ~ せんめっつ~  めっさっつぅ~  つっぃっげきー」


 歌うエライ生き物を軽く流し見ながらいつきちゃんと円君は地図を見ている。

「立体。かつカラフルだなぁ」

「ああ。いいだろう」

「まだまだ狭いなー。うまく広げていかないとダメダメだな」

 感心するいつきちゃん、得意気な円君。ダメ出しか応援かわからないエライ生き物。

 幾つかの言い合いの結果、彼らはとても馴染んでいる。

「広げるにきまってっだろ。ただ、魔力向上と常識取得と防衛手段取得はしとかないと危ないからな」

「自覚してなかったみたいだけどなー」

 言い合いは軽くて仲がいいなと思う。

 小さな手が僕の額を軽くたたく。

 たしたしって感じだ。

「ゆーき」

「ん?」

「くーふくだぞー」


 ゆるキャラ愛されマスコットが今のエライ生き物の目指すテーマとなっているらしい。


 ついていけなかった高速テンポの言い合い。

 エライ生き物はテーマを決めてキャラ作りをするとなると徹底するタイプだったらしい。

 きっちりした口調はざっくり崩れた。


 そして



 僕を足場認定した。


 ここは厨房なので調理は簡単にできる。

 簡易貯蔵庫(ちゃんとした貯蔵庫は別にあるらしい)から肉とパン種をを取り出す。


 調理しようと思ったとき、不意に気になった。



「このまま?」


 生肉を掲げると額を乱打された。


 意図しているのかいないのか、後頭部も乱打されている。


「だって、猫にたまねぎやイカはダメだし、それでなくても加工品はあんまりよくないらしいから……」


 しゃべるエライ生き物は僕の頭に帽子のように陣取れるくらいの大きさしかない。

 回復魔法は使えるようだけど、体に負担になりかねない食事は避けた方がいいと思う。


「微妙な気遣いは不要なのだー。あえて食べたいとは思わないが、大概毒物でも普通に消化できるのだー」


 すごいな。


 エライ生き物。


 つい感心する。

「るぅるぅ!」

 いきなりいつきちゃんが声を上げた。

「う?」

 エライ生き物も驚いたのか、ちょっと間の抜けた声を上げる。

 それともあえての演出か。

「もっとバカっぽく!」

 いつきちゃんがこぶしを作って指導する。



 ちょっとひどいと思う。


「くぅ」


 エライ生き物が悔しそうに呻く。

 僕はエライ生き物の全貌をいまだ見ていない。

 僕の頭上から動かないから。

 五分ぐらいいない時間もあったんだけど、気がついたらまた頭の上にいて物騒な歌を歌っていた。

 人気者ゆるキャラマスコットにはテーマソングと関連グッズが欠かせないと言う妙な誤解と偏見に満ちた僕ら三人の影響を受けてのことだとは思う。


 円君いわく「ファニーでファンキー」

 いつきちゃんいわく「ぶさきも」

 僕「うざかわ?」

 というか、誰も褒めてないし、どっちかっていうと酷いよね。


「ゆるキャラあいどるへの道は遠いのだぁああ。もっと精進するのだ」


 って、納得していいの?



 もっとバカっぽく振舞うことに躊躇いはないの?


 エライ生き物恐るべし。



「ゆーき、おいしく調理してほしーのだぁ。お礼に一CGだすぞぉ」


「くりすたるぐれねーど?」


 円君が不思議そうにエライ生き物の言った単位を口にする。

 この世界、あまり通貨は発達していない。

 あくまで『あまり』らしいけど。

 買い物は物々交換か宝石、各国家が発行した硬貨が利用される。

 各国家が発行した硬貨はデザイン性と含有金属、保有魔力、コレクション性で価値が決まるらしい。

 どこにでもいるらしいよコインコレクター。




 クリスタルグレネード。

 グレネードさんという魔族が趣味で作ったクリスタル状の貨幣らしい。

 よろず屋いわく、「魔界とか、魔王間の商取引に使われてるな。あと魔界では給料もそれで支払われてるらしくて、そこそこの魔物をたおしたりしめたりするとCGを得れることがあるな」とのことである。

 人の作った国家より魔族の寿命の方が長いので安定供給されているし、魔族や魔物をたおすと手に入ったりもするので共通高額貨幣として流通している。

 こんな現状はきっとグレネードさんもびっくりの展開だったに違いない。



 ランチメニューは肉入り煮野菜。

 大目の油に肉をさっと通し、フライパンに移す。

 その油で芋や葉物野菜も加熱する。

 フライパンに油通しした野菜を追加してざっくり炒め、甘めのお酒で煮込む。

 大皿に盛り付け、香味葉で飾り、それにポトカのスライスを添えれば出来上がり。



 おかずひとつだけだけど、いつきちゃんと円君には好評を得た。

 ポトカのスライス(極小サイズ)に肉を乗せ、エライ生き物に差し出す。

 こぼさずに食べられるのかなぁ?

 後で洗髪かなぁ?



「うーま。なかなかうまいぞ。ゆーき」


 するりと取り上げられて感想がおりてくる。


「で、どうして厨房で食べるのだ? ご飯は食堂か、セッティングした場所で食べるものだろう?」


「んー、僕は食堂の場所知らないから」


 エライ生き物は意外と育ちがいいらしい。


「そうか〜。んじゃー悪いのはエリコだなー」

「場所知っていても、多分、ここでご飯してると思うけどね」


 面倒臭いし。


 頭上のプヨぶにょ振動が止まる。

「どして?」


「キッチンで食べるご飯はアットホームの感じでいいよねー」

「気楽だよなー」

 いつきちゃんと円君が主に肉を食べながらそう言ってくる。

 肉がざくざく減っていく。


 二人とも食べっぷりいいなー。


 ぼんやりしてたらまた額を乱打された。


「るぅるぅにもお皿ー。なくなるー。ごはんー」


 おさら?


「おりるの?」

 ちょっと助かるかも?

「降りはしないのだー。でもるぅるぅにお皿を出さないのはだめなのだー」



 頭の上の生物になぜお皿が必要なのか。

 悩む僕をいつきちゃんと円君が食べながら見てくる。


「なくなるーー。るぅるぅのごはんなくなるーー!!」


 い、いたい。



 エライ生き物の余裕がなくなった。



 ふらりと厨房に現れた銀色の髪の少女。

 紺色のワンピースに白いエプロン。

 黄色に近い黄緑の瞳で僕の視線の少し上を見つめ、蕩けるように微笑んだ。


「すこし、おまちくださいね」


 手早く作られていく料理。

 きれいに皿に盛り付けられ、僕の目前に並べられる。

 いや、エライ生き物のために並べられた。

 種類も多く見た目も美しい。


「シンー。ありがとーなのだー」


 大喜びなエライ生き物。


 エライ生き物が満足するまでメイド少女は料理を作り続けた。



「るぅるぅ様付きのシンと申します。おみしりおきを」

 言いつつ、僕に料理の皿を差し出す。

「よろしければどうぞ」







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