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Mission:07 「絶賛混乱中!」

――異世界。あらゆる物語の舞台となる、俺が生きる世界とはまったく違うもうひとつの世界。

ある人は、同時間軸に数多の世界が存在すると言い、また別の人はこの宇宙上に存在する世界は、小さな食い違いから分裂した物だと言う。

きっと、それはどちらも正解で、どちらも間違ってるんだろう。


少なくとも、俺とこいつ等の生きる世界は似てるようで違っていたし、今立っているこの世界なんて正に物語の中としか思えんからな。






異世界学兵奮闘記

Mission:06 「絶賛混乱中!」






「――で、誰かこの世界に来てから特殊能力っぽい物に目覚めた奴いるか?」


もう一人の勇者であった銅谷と名乗る男が"勝手に"ログアウトしてから、ひたすら村中の遺体を火葬するという作業に取り掛かった。

流石に、至る所に倒れている遺体を穴の中に放り込んで、土で埋めるという行為に嫌気が差したがしょうがない。

このまま放置しておけば、病は起こるわ、危険な野生動物がたむろするわで大変な事になるからな。

本心を言うと、せめて村人だけでもきちんと埋葬してやりたかったが、残念な事に時間も人手も足りなかった。

因みに、梅沢が保護した子供は最後に隠れた場所で寝ており、現在は眼の前のベッドで就寝中である。


「んーそんなでら凄い能力に目覚めた感じはしないけどなぁ?」


「私もだな。そんな感じはしない」


「あ、アタシは胸が少し大きくなったような――「気のせいだ」――う、うぐぅ」


うぐぅとか言うな、斉藤。似合ってないから。

つーか、胸が大きくなる特殊能力ってなんだよ。使い道がねぇだろ。

しかも、それが元で勇者とか呼ばれてみろ。本気で泣けてくるぞ?


「まぁ、元より期待してなかったからいいや。それより、今判っている事を整理するぞ?」





1:現在、俺達がいるのは「ライジング大陸」である。

ライジング大陸には現在、ひとつの国家しか存在していない。その名も、"ライジング大帝国"。まんまやないか。

この国家、王家の独裁下にあり、様々な種族がその御旗の元で暮らしている。帝国なのに王とはいかに。

と、言っても毎日飯が食えるのは俺たちと同じ"人間ヒューマン"だけらしく、他にも妖精族エルフとか鬼族オーガ等、RPGやファンタジー映画でお馴染みの種族が存在するらしい。

しかし、王家の起こしたホロコースト(人間以外がこの世界に存在するのは、神に対する冒涜とか言うステキ理論)により、表立って彼等を見る事は少なくなっている。

しかも、召還された勇者様御一行が活躍した"種族大戦争"の結果がこれだ。思わず銅谷の手にナイフを突き立ててしまったが、気にするな。

また、人間もカテゴリー分けされており、俺達が居る村は"下級種"と呼ばれる奴隷階級の者達が住む村だったらしい。

他には、城下町や各都に住む事が許される"中級種"、要するに商人や職人と言った階級、そして軍人や政府関係者の"上級種"、最後に王家やそれに連なる一族を"王種"と呼ぶらしい。

勇者は、この王種であり、王種の中でも王族の次に偉い"準王"と呼ばれやりたい放題をしていた。


2:俺達を取り巻く状況は、最悪である。

現刻は0400時、そろそろ日が北から昇り始める頃だが、のんびりとここで考えている時間的余裕は少ない。

村には、俺たち以外には誰も生きてはいないが、この村の周辺にはこのクサレ勇者が率いてきた帝国軍の兵士が約400名ほどうろついている。

つーか、よくもまぁ、ここまで出くわさずに来たもんだ。何、この奇跡のバーゲンセール?葛城ミサトもビックリだぜ。

話によると、こいつ等は今は亡き勇者達の命により俺達を探索する為に広範囲に渡って行動しているそうだ。

しかし、日が完全に昇ったら村に一度帰還する手筈になっており、早ければ後1時間もしない内に第一弾が戻ってくるかもしれない。


3:これから俺達が行うべき事は、子供を護りつつ残りの分隊連中を捜索する事。

残った第一、第四分隊の連中を奴等より先に見つけ出し、もし使えるような装備があるならば回収、回収不可能のような大型の装備は処分しなければならない。

何故かって?この世界に、俺達と同程度の技術力を"知っている"奴等が居る以上、もし先に回収されたりしたら手に負えん。

この世界の技術力からは考えすぎかもしれないが、小銃を量産なんてされてみろ。頭が逝っちゃっている連中だぞ?間違いなく、この世界に殺戮の嵐が吹き荒れるに決まっている。

流石に、そんな事態になるかもしれん(まぁ、万に一つの可能性だが無いとは言い切れんからな。現に、俺達は異世界に来てるし)状況を、そのまま放置しておくわけにはいかん。これでも、一応とは言え日出ずる国の防人だ。

無理矢理、拉致されてきたとは言え俺達の持ち込んだ兵器が元で、大量虐殺なんて事態は絶対に防がねばならない。

だが、武器の使用は自重しねぇぞ?

はっきり言っておくが、俺達にとって王家とそれに連なる奴等は敵以外の何者でもない。

いきなり、自分勝手な理由で拉致しやがって。お陰で俺の仲間達が大勢逝っちまいやがった。

しかも、救出に来るならばまだマシも、やったことと言えば強姦未遂(梅沢)と殺人未遂(安西)だ。

ついでに、拉致監禁もつけてやる。ここまでされて、黙ってるような奴が居たら顔を見てみたいぜ、本当に。

国防軍の交戦規定もクリアしてんだ。やるだけやってやるさ。




「と、言うわけだ」


「とてつもなく長い説明をありがとう、進藤ちゃん。それで?残りの連中を発見してからどうする気なのさ?」


「そんなの、決まってんだろ?」


そう、決まってる。

国家とガチンコバトル?そんなもん、やらせじゃない限り無理だろ。常識的に考えて。

相手はこの大陸を統治するような輩よ?権力基盤が揺るいだって言う理由でホイホイ召還魔法を使っちゃうような存在ですよ?

そんな相手に、どう戦えって?幸い、この大陸は広そうだし、ひっそりと目立たないように動けば、何れは元の世界に戻れる手掛かりを掴めるはず。

とにかく、現在一番重要なのは、敵に感づかれる前に可能な限り捜索範囲から離れることだ。

一度、安全な区域まで退避し、体制を立て直す。全てはそれからだ。


――バララララララララ……


……うん、これから敵部隊の合間を縫って逃げなきゃならんのよ。

それなのにさ、何?この轟音。


「この音は――ヘリのローター音?分隊長、もしかして!?」


うん、そうだろうね斉藤さん。この世界でヘリをかっ飛ばせるのはうちの連中しか居ないだろうし、あの状況下で体制を立て直せるようなヘリパイロットは奴等しか居ないだろうよ。

勿論、奴等が生きていたことが嬉しくないはずは無い。無いんだが……


「なんでこの状況下でそんなド派手に登場してくれやがってんだ、フーバー共ぉぉぉぉぉぉぉ!!」





「お迎えに上がりました、学士長殿っ!我等、第四分隊!総員健在ですっ!」


……このクソ女、なにが健在ですっ!だ。見事に注目を浴びるような登場をしくさりやがって。

現在、眼の前にはOD色に染められたUH-1イロコイ"ヒューイ"が直ぐにでも飛び立てるよう、エンジンを落とさずに待機している。

ざっと見ただけだが、その機体には傷ひとつ付いていない――余談だが、このヘリのパイロットとコ・パイロットである滝本と大矢は『何で学兵やってんの?』と疑問に思うほどの操縦技能を有している最強コンビである。

まぁ、なんで学兵やってんのかは実際に奴等が操縦している機に乗ってみると良くわかるんだが。

それはともかくとして、ヒューイの前には第四分隊の連中が一糸乱れぬ敬礼で俺達を迎えてくれていた。

分隊長である、"上戸 恵美"上級兵長、"坂野 葉柄"上等兵、"佐野 勇気"上等兵、"黒木 昇"上等兵、"柳生 麗華"上等兵。

以上、5名。冗談抜きで全員健在である。


「よくやったと、褒めてやりたい所だが状況は混乱している。早急にここを離れる必要がある、タッキー、何処まで飛べる?」


<<燃料満タンで来たから、まだ全然余裕で行けるぞ?だが、出来るなら早い所この付近を離れたほうが良い>>


ん?どういう事だ?


<<ビーコンを受信するまで、上空を警戒飛行してたんだが――この近くで現地人と化け物の小競り合いが始まってる。まるで、ロード・オブ・なんちゃらみたいな状況だ>>


「マジかよ……他には何か無かったか?」


<<後は第二と第三のヘリの残骸を発見した。降下して調べてみたが、第三の方はヘリを使えないように処理しておいた。進藤、ミニガンで遊んだろ?上空から見たら一部分だけ真っ黄色で焦ったぞ?後、第二の方は遺体を埋葬して、同じくヘリを使えないようにしておいた。第一分隊の連中は行方不明だ、少なくともこの周辺には落ちてなかった。あぁ、整備班の連中も行方不明だ。他に聞きたい事は?>>


「いや、そこまで聞ければ大丈夫だ。安全区域まで退避するぞ――総員、搭乗!」


"応"という声と共に、狭いヒューイに次々と乗り込んでくる。

安西は笑みを浮かべ、斉藤と梅沢は不安そうな顔をしている少女を庇いながら。

ローターの回転数が徐々に上がり、ふわっとした感覚の後、一気に上昇を始める。


<<とりあえず、北に向かって進路を取る。部隊長はお前だ、進藤!指揮を頼むぞ>>


「了解、安全区域と思われる場所まで行ってくれ。今は腹減ったし、少しでも眠りたい。何かあったら叩き起こしてくれ」


<< OK,安心しろ、俺達がちゃんと安全区域まで連れてってやるから寝てな? >>


「サンキュー、オタッキー」


<<オタッキー言うな!振り落とすぞファザー・ファッカーッ!!>>


笑い声をBGMに、クソ硬い椅子の上で姿勢を崩して目を閉じる。

……斉藤が物凄い満面の笑みで自分の膝を叩いていたが、全力でスルーした。許せ。

しかし、どうして第一分隊の連中だけ姿が見えないのだろうか。

整備班の方は、演習場から離れた場所で仮設補給基地を展開していたから、召還に巻き込まれなかったのは容易に想像できるんだが……


――まぁ、今は少しでも体を休めておくか……流石に疲れた――




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