Mission:04 「え?コイツが勇者!?」
――六四式小銃三型……1964年に国防陸軍が正式採用した突撃銃である六四式小銃は7.62mm弾を使用し、数多の部品と複雑過ぎる構造をした新兵泣かせと呼ばれた。
西からは連合軍を相手に、東からはソヴィエト連邦軍に突っつかれ、半泣き状態だった日本はそんな小銃を量産する余裕はなく。
即座に前線部隊からの苦情――という名の改良案が届くと同時に、開発陣は鬼の如く改良(と、言う名の魔改造)を行い、遂に2型を完成させた。
この2型の特徴は、部品数の減少・構造の簡略化・それらに伴い重量の軽量化・命中精度の向上、そして一番重要な価格の低下と言ったうれしい効果を生み出してくれた。
2型の登場により、陸軍は暫定配備だった六四式の正式配備を確定。それに続くかのように陸戦隊・海軍・空軍が導入を決定した。
様々なバリエーションが製造された。基本的な折りたたみストックモデルやカービンモデルは当然として、バレルを延長した狙撃モデルや箱型弾倉を装備した支援モデル等々が今まで使われてきた九九式に取って代わり、戦場の主役となったのである。
長年の間、日本の戦線を兵士達と共に支えてきたこの小銃だったが、時代という流れに打ち勝つことはできなかった。
――1989年、国防軍の次世代突撃銃として八九式小銃が正式採用される。
これにより、徐々に国防軍から六四式は姿を消す筈だったが――学兵科の登場と共に再び前線へと舞い降りる事となった。
六四式三型、通称"学兵銃"――三点射撃が追加され、徹底した簡略化と軽量化、そして各種アクセサリーが着けられるようになり様々な状況下で活躍できるようになった。外装部はほぼ強化プラ制であり、2型よりも軽く、使いやすく、何よりもAK並に壊れにくいのが特徴である。
異世界学兵奮闘記
Mission:04 「え?コイツが勇者!?」
「武装解除し、速やかに投降せよ。これは、警告である。従わない場合、国防軍の規定に準じ行動する」
両手で9mm拳銃を構えながら、国防軍規定に基づいた警告を叫んでいた。
しかし、この野郎(女かもしれんが)。物凄い装飾が施された鎧を着てやがる。
まるで、物語の中の勇者様じゃねぇか。
「進藤ちゃん、すまん助かった!」
「安西上等兵、報告は後で聞く。今は目の前の状況に対処しろ」
「了解」
そう答えた安西が右に、斉藤が左で六四式を騎士に対して向ける。
が、こいつ――笑ってやがる。
「ククク……ペイント弾しか持っていない自衛官が何を粋がっている?この世界で、この僕に叶う筈が無いじゃないか!」
……自衛官?なんじゃ、そりゃ?
俺達は国防軍の学兵だっつーの。この世界にも俺達と似たような装備持った軍が存在すんのか?
あれ??でもこいつ、"この世界で"って言ってたよな?
ん?どうなってんだ?
「なぁ、斉藤?」
「分隊長、アタシに聞いても自衛官なんて知りませんよ?」
「じゃ、安西?」
「進藤ちゃん、俺も知らないのよ。ってか、こいつさっきからでら訳の分からん事ばっか言ってて、えらい苦労してんのよ?」
でらとか言うな、安西。田舎者だと思われるだろうが。
……実際、田舎者なんですがね。ま、そんな事はどうでも良いか。
「そう!何故ならこの僕こそが――召還されし選ばれし勇者!加藤 太郎なのだから!」
「めっちゃ平凡な名前だな?」
「だ、黙れ!だ、大体お前たちはなんなんだ!自衛隊のクセにいきなり発砲しやがって!」
だから、自衛隊じゃねーちゅーのに。
「いきなり発砲?安西、警告無しに発砲しちゃったの?」
「進藤ちゃーん、俺がそんな事をする訳がないでしょうが。コイツが子供を襲ってたから警告した後に撃ったんよ」
「雄ちゃん、その子供ってもしかして――」
「幼女」
よし、殺ろう。
目の前の騎士――訂正、ロリペド野郎を野放しにしておくと碌なことがない。百害あって一利なし。
そもそも、子供を襲うってのが気に食わん。そんな重装備で子供襲うってのは、どういう了見なんだ?
あぁ、クソ。腹が立つ。今日は厄日か!?
「おい、こら、ロリペド野郎。最後の警告だ――武装解除して、そのクソ汚ねぇ面を地面にこすり付けやがれ」
「なっ!?言うに事欠いてロリペドだとっ!?も、もう許さん!聖なるこの力を受けるが――"タン"――グァっ!」
――いきなり叫びながら槍を振りかざしたから撃っちまったけど……規定には反してないよな、多分。
「で、安西。一体全体、何がどうなってこうなってやがるんだ?」
「あー、うちの第二分隊は俺と梅沢以外がKIA。ヘリが墜落して、本部の救援を待ってたんだが――」
OK、分かった。安西の報告を纏めるとこうだ。
俺達と同様、演習開始直前にヘリが何らかの原因により墜落。
辛うじて生き残ったのは、安西、梅沢、そしてヘリパイロットの須津。
だが、須津は両足の感覚がないと訴えた後に死亡。梅沢も右上腕を骨折していたらしく、健在なのは安西だけだった。
安西は、規定通りに救難信号を発信し本隊からの救援を待っていた。
そこに、爆音が響き渡り、安西は梅沢を残して偵察に向かった。
――ちなみに、この爆音。どうやら俺達のヘリが墜落した音らしい。
つまり、安西と俺達は同じ時間に墜落していながらも多少の時間の差があったという事か。
無線機と六四式を手に、音の聞こえた方へと偵察に向かったが、道中でさっきのペド野郎に追い掛け回されている幼女?を発見。
安西は、警告と共に騎士の前に出るが、騎士は警告を無視して子供に向かって槍を振りかざした。
間一髪、安西は子供を抱きかかえて逃走に成功するが、騎士が追ってくる。
子供を梅沢に任せ、安西は二人を逃がす為にペイント弾をぶちかましながら右往左往している所で、俺達と合流した、と。
「雄ちゃん、その冗談は面白くないよ?」
「ちょ、斉藤ちゃん!冗談じゃねーよ!あの野郎、自衛隊とか、憲法9条とか、軍国主義がどうとか言いながら俺を追い掛け回してたんだぜ?まったく、冗談じゃねーっつーの!」
「ま、安心しろ。もう追い掛け回されてケツを掘られる事も無かろうよ」
「マジで助かったぜ、進藤ちゃん――しかし、いつ見てもスゲェな?眉間を一発かよ」
あんまり言うな、安西。いきなりしでかしちゃった感が凄いんだから。
もし、コイツの言う事が本当なら、俺ってもしかして――
「勇者殺しの大悪党、さっすが分隊長!そこに痺れる、憧れるぅ!」
「黙れ斉藤。俺の心を抉るな、しかも笑顔で」
「趣味ですから」
趣味かよ。
ってか、マジかぁ……攻撃受けそうになったから、思わず発砲しちまったら、兜貫通しちまった。
その、なんだ?単刀直入に言うと、即死。
畜生、こういうもの凄い装飾の施してある装備ってのは、防御力が高いのが相場だろうが。
なのに、なんで9mmが意図も簡単に貫通するんだよ!いきなり勇者っぽいの殺しちゃったよ!超展開だよ、これ!
……いかん、落ち着こう。冷静だ、冷静になれ。
「で、斉藤、安西。これからどう動く?」
「アタシは分隊長に従いますって~あ、でも勇者殺しの仲間として追われるかもしれないか~」
「あれが勇者ってのはねーよ。ロリペドが勇者とか、マジで勘弁でしょ――進藤ちゃん、俺は梅沢とあの子を探しに行くけど、できれば付いてきてほしい」
「実弾持ってるのが俺だけだからか?」
「うーん、まぁ、それもあるけどさ?俺と梅沢、斉藤も階級同じやん?指揮系統がはっきりしとかないと、動けないからさ。その点、進藤ちゃんは士長だし、正規の任務にも参加したことあるから頼りになるしさ」
笑いながら言うな、安西。俺のトラウマが……
「ところで、分隊長~あの騎士が言っていた自衛官とか自衛隊って何でしょうね?」
「さぁ、な?恐らくだが、俺達と似た装備を持った軍事組織じゃないか?完全に間違えてたみたいだし」
「進藤ちゃん、他にも憲法9条とか叫んでたぜ?なんだ、憲法って?帝国憲法の事か?」
日本帝国憲法第九条……何だっけ?確か、この前の社会の時間に習ったような。
「えーと、確か陛下の勅命に関する条文だっけ?」
「あぁ、それだ斉藤。だが、それが何で軍国主義に繋がるんだ?」
「さぁ?雄ちゃん、他に何か言ってなかった?」
「んー、他には何も。ずっと同じこと繰り返してたしなぁ、ファービーみたいに」
――自衛隊、自衛官。
俺達と同じ近代兵装を装備する軍、か?
だが、隊とつくから陸戦隊の様な部隊か?
それに所属するのが自衛官、と。
だが、不可解なことがあるな。
あいつは、日本語を話していた。だが、どうみてもここは日本じゃない。
生えている植物はどう考えたって日本では滅多にお目にかかれないような物ばかり。
人には会っていない――騎士?あいつは除外だ――から分からないが、あの騎士が着ていた鎧。
あれはコスプレに使うような代物じゃない。いや、9mmで簡単に貫通してたが、あの傷の付き具合から見て日常的に着ていたのが分かった。
つまり、あいつは騎士――軍人であり、あの鎧を纏って戦っていた。それは、鎧以上の防御力が必要なかったって事にならないか?
なのに、俺達の事を"自衛官"と呼び、安西の銃撃にも怯む様子は無かった。
――まるで、自分を殺すような攻撃は出来ないと知っていたみたいに。
さらに、あいつは"召還された"と言っていた。
召還されて、力を得たと。
あのロリペド野郎は、俺達と似たような兵装を持つ世界から召還され、力を得た?
――駄目だ、さっぱり意味が分からん。誰か、説明してくれ。
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