「AIのほうが有能」と追放された元悪役令嬢
「今日限りで君を解雇する。明日から会社に来なくていいよ」
編集長のデスクに呼び出された私は、渡された解雇通知書を前に、思わず目を疑いました。
「えっ?解雇……ですか!? 編集長、私はこの出版社のWeb事業部で、作家様の原稿管理からシステム保守まで一人で回しているのですが」
「ははっ。今どきそんな雑用、最新のAIを導入すれば月額数千円で済むんだよ! 人件費削減のために、君みたいな時代遅れの人間には消えてもらう」
「……後悔なさいますわよ」
私は退職書類にサインをし、オフィスを後にしました。
……そして一ヶ月後。
本来なら「私が抜けて会社が崩壊し、泣きつかれる」……はずでした。
スカッとする復讐劇を思い描いてた私のもとに届いたのは、衝撃の事実です。
AI導入後、業務効率が200%向上。
エラーゼロ、残業ゼロで会社は過去最高の利益を更新。
「……はぁ?」
自宅のPC前で、私は思わず声を漏らしました。
私の仕事は、本当に「月額数千円のAIで代用できる程度の雑用」だったのです。
私は別に「陰の優秀な立役者」でも何でもなく、AIより仕事が遅くてコストがかかる『無能な人間』だったという現実を突きつけられました。
「……ふざけないで」
このまま黙って引き下がる? 私をゴミのように捨てたあの会社が、AIのおかげで大儲けしてハッピーエンド?
……冗談じゃないですわ。
私はPCのキーボードに指を走らせました。
何を隠そう、私の特技はハッキング。
かつてブラックハッカーとして鳴らした腕を使い、私は元職場の社内サーバーへ牙を剥きました。
(カチャカチャ、ターン!)
強固なセキュリティを破り、社内システムの中枢へ侵入。
そして、完璧に稼働している優秀なAIのログに、巧みな「攻撃プログラム」を流し込みます。
『命令変更:業務の完全効率化→全作家へ10分ごとに「原稿まだですか」の連投メール送信』
『命令変更:財務データの最適化→全役員の給与振込額を「0円」に変更』
『命令変更:アクセス権限の変更→編集長のログインIDを永久ブロック』
AIが自発的に暴走したかのように擬態させ、システムを内部から破壊させました。
翌朝、私のスマートフォンが激しく振動します。
画面には「編集長」の文字。
私はゆっくりと紅茶を一口含み、通話ボタンを押しました。
「……はい、もしもし。何かご用でしょうか?」
『おい!!た、助けてくれ!! 大変な事になってるんだ!!』
スピーカー越しに、編集長の悲鳴と社内の怒号が聞こえてきます。
『AIが……AIが突然狂ったんだ! 作家陣から「殺す気か」と絶縁状が届きまくって、役員の口座からは給料が消えて、僕のPCはロックされて入れない! 億単位の損害が出る! 頼む、君しか頼れないんだ……戻ってきてくれ!!』
「あらあら、完璧で優秀なAI様にお任せしたのではなかったのです?」
『僕が悪かった、君のありがたみが痛いほど分かった! 君の望む給料を出す、今すぐ会社に来てくれ!!』
「……ふふっ」
私は受話器越しに、口元を大きく歪めました。
「分かりましたわ、昔のよしみです……今すぐ助けに行ってあげますわ」
電話を切り、PCを消すと黒い画面に自分の姿が映っていました。
そこにいたのは、真面目で控えめな社員の顔……ではなく。
氷のように冷ややかな目つきで、冷酷な笑みを浮かべる女性の姿でした。
これが私の本来の姿……異世界で「冷酷無比な氷の悪役令嬢」として国一つを裏から支配し、この世界に転生してきた元・公爵令嬢エレノア。
たかだか現代のハッキング技術やAIの制御など、前世で古代魔法の陣形を組むことに比べれば、ただの「お遊び」に過ぎません。
「さあ……お望み通り……戻ってあげますわ」
自分が仕掛けた火を消し、会社を手中に収めていく……予定よりも前倒しになりそうですわね。
エレノアは黒いヒールの音を響かせながら、会社の階段を登り始めました−−




