幼馴染のヤンデレ彼女に監禁されたんだが、担当ヤンデレがポンコツすぎて全然怖くない件
「陽太。好き。だから閉じ込める」
そんな一言から始まる、
監禁系ラブコメ(?)です。
ただしこの監禁、
・鍵なし
・Wi-Fiあり
・飯うまい
・監禁犯が泣く
という致命的欠陥を抱えています。
肩の力を抜いて楽しんでいただければ幸いです
第1話 「監禁初日、鍵を忘れる」
「陽太。好き。だから閉じ込める」
目が覚めたら、そこは知らない部屋だった。
……いや、正確には「知らない」ではない。
見覚えはある。幼馴染の家の地下室だ。
俺――日向陽太、十七歳。
ごく普通の高校二年生。
趣味はゲームとアニメ鑑賞、特技は特になし。
唯一の自慢は、幼馴染の桜庭愛華がかわいいことくらいだ。
……その幼馴染に、今まさに監禁されているわけだが。
「愛華」
「なに、陽太」
「これ、なに」
「監禁」
「うん、それはわかった。なんで」
「好きだから」
愛華は当然のように答えた。
セーラー服姿のまま、ちょこんと木製の椅子に座って、膝の上に手を重ねて。
黒髪をサラリと揺らして、薄く微笑んで。
絵面だけ見れば、完璧なヤンデレヒロインだ。
目が少し据わってるのも、声が静かなのも、全部様式美を踏んでいる。
ただ一点を除いて。
「ねえ愛華」
「なに」
「俺の手首、縛られてないんだけど」
「……」
愛華の顔が、ほんのわずかに固まった。
「足も自由だし、なんなら立って歩けるし、この部屋、鍵もかかってないよね」
「………………」
「監禁、してる?」
「……してる」
「どこが」
「…………気持ちが」
「気持ちだけかよ!!」
俺の渾身のツッコミが、地下室に響き渡った。
愛華はゆっくりと視線を逸らして、
「忘れた」
とだけ言った。
「なにを」
「縛るやつ」
「手錠とかロープとか?」
「うん」
「忘れたの? 監禁するのに?」
「うん」
「準備してきたの? 監禁するために?」
「うん」
「なのに忘れた?」
「うん」
俺は天を仰いだ。
地下室の天井は白いコンクリートで、蛍光灯がひとつついていた。
なぜか蛍光灯の横に「LOVE」と書かれたガーランドが飾ってあった。
そういうとこだけ用意周到なんだよな、こいつ。
「とりあえず出るね」
「だめ」
「え、止める気あるの?」
「好きだから離したくない」
「いや物理的に止める手段ないじゃん」
愛華はゆっくりと立ち上がり、俺の前に立ちはだかった。
身長は俺より頭ひとつ小さい。
体重も俺の半分くらいしかなさそうで、全力で突破を試みれば普通に抜けられる。
「…………どいて」
「やだ」
「…………どいて」
「陽太のこと、好き」
「…………」
なんで俺が罪悪感を感じないといけないんだ。
「愛華」
「なに」
「俺、腹減ってる」
「……っ、まって」
愛華はパッと振り返ると、地下室の隅にあった小型冷蔵庫を開けた。
タッパーがきっちり三段重ねで入っていた。
「唐揚げ、作った。陽太の好きな、レモンなしの」
「……え、うまそう」
「卵焼きも。甘めに」
「……うまそう」
「ごはんも炊いた」
「…………」
俺は深くため息をついた。
「なんで監禁の準備はできてないのに飯の準備はできてんの」
「優先順位」
「飯が上なの?」
「陽太に美味しいって言ってほしかったから」
「…………お前マジでなんなんだよ」
愛華はほんのり頬を赤くして、視線を逸らした。
俺は椅子に座り直した。
監禁されてるのに、なぜか手作り弁当を食べることになった。
唐揚げは本当にうまかった。
これが俺と愛華の、日本一ズレた「監禁生活」の始まりだった。
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第2話 「脱出しようとしたら愛華が泣いた件」
翌朝。
俺は普通に目が覚めた。
ベッドは普通にあった。
毛布はふかふかだった。
枕元に「おはよう」と書いたメモと、なぜかキャラメルが一個置いてあった。
「……監禁されてるよな、俺」
状況を整理しよう。
昨日、部活の帰り道。
愛華に「陽太、ちょっといい?」と呼ばれた。
ついていったら地下室だった。
「監禁する」と言われた。
飯を食った。
眠くなったら毛布を渡された。
寝た。
……うん、監禁されてる気がしない。
でも愛華の目は本気だった。
あの静かな声と、据わった瞳は、ギャグで言ってる感じじゃなかった。
問題は、俺が愛華のことを――
「陽太、起きた?」
地下室のドアが開いて、愛華が顔を出した。
エプロン姿で、手にトレーを持っている。
トレーの上には味噌汁とごはんと目玉焼きと、なぜかオレンジジュース。
「朝ごはん、作った」
「……普通の家か」
「嫌い?」
「嫌いじゃないけど」
「じゃあ食べて」
愛華はトレーをテーブルに置いて、俺の向かいに座った。
じっと俺の顔を見ている。
「……なんで見てんの」
「陽太が食べてるとこが好き」
「やめろよ恥ずかしい」
「美味しい?」
「……うまい」
愛華がかすかに微笑んだ。
俺はそれを見て、またため息をついた。
笑えよ。ちゃんと笑えよ。そんな薄い笑顔じゃなくて、昔みたいに。
「愛華、俺さ」
「うん」
「帰らないといけないんだけど」
「……だめ」
「親が心配するじゃん」
「LINEした」
「え、俺の親に?」
「『陽太は泊まります』って」
「勝手にすんな!!」
「俺のスマホどこ」
「充電してる」
なんで監禁犯のほうが俺の心配してるんだ。
「愛華」
「なに」
「本気で出ていくよ」
「……」
「止める手段、ないよね? 昨日確認した」
「……うん」
「だから出る」
俺は立ち上がって、ドアに向かった。
「………………陽太」
背中越しに声が聞こえた。
振り返ると、愛華が俯いていた。
「行ったら」
「行ったら?」
「……ほかの子と、仲良くするでしょ」
「……」
「前みたいに、わたしのこと見なくなるでしょ」
「……」
「だから、ここにいてほしい」
声が、少し震えていた。
俺は天を仰いだ。
コンクリートの天井。「LOVE」のガーランド。
「……愛華」
「なに」
「それ、監禁じゃなくてただの「好き」だろ」
「…………監禁でもある」
「どっちかにしろ」
「両方」
「……ため息しか出ない」
俺は結局、ドアの前で立ち止まった。
振り返ると、愛華が目元をこすっていた。
泣いてた。
愛華が泣くのを見ると、俺は昔から何もできなくなる。
小学校のとき、転んで泣いてた愛華。
中学のとき、友達に悪口言われて泣いてた愛華。
全部、ちゃんと覚えてる。
「……一日だけ」
「え」
「今日一日だけいる。でも明日は絶対帰る」
「………………一日だけ」
「そう」
愛華はしばらく黙って、それから静かに言った。
「わかった。一日だけ」
「約束な」
「うん」
「絶対守れよ」
「うん」
「……なんかすでに守る気なさそうな返事だな」
「そんなことない」
「目が泳いでる」
「泳いでない」
「泳いでる」
結局その日、俺は監禁されたままだった。
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第3話 「監禁部屋にWi-Fiがある」
二日目。
「あの、Wi-Fiあるんだけど」
地下室の壁に、ルーターが設置されていた。
パスワードが書いたメモも貼ってあった。
パスワードは「aika_loves_yota」だった。
「快適でしょ」
愛華が胸を張った。
「快適とかじゃなくて」
「監禁中も陽太が退屈しないように」
「それ監禁する気ある?」
「ある」
「Wi-Fi完備の監禁部屋って世界初じゃない?」
「陽太のためだから」
「…………」
俺はスマホを開いた。
電波は普通に入った。
充電もされていた(愛華がやっといてくれた)。
通知が三十件溜まっていた。
全部、愛華からのLINEだった。
『今日のご飯なにがいい?』
『唐揚げにした』
『甘い卵焼きと出汁巻きどっちがいい?』
『両方作る』
『シーツ洗っておいた』
『枕カバーも変えた』
『陽太の好きなポテチ買ってきた』
『バーベキュー味ね』
『コンソメもあるよ』
『どっちから食べる?』
「……愛華」
「なに」
「これ、監禁部屋の環境整備の報告?」
「そう」
「LINEじゃなくて直接言えばよくない? 同じ部屋にいるんだし」
「LINEのほうが、ちゃんと伝わる気がして」
「伝わらんよりかえって混乱するわ」
愛華はほんのり赤くなった。
「…………慣れてないから」
「何が」
「好きな人に、直接……言うの」
「あ」
「LINEだと、ちょっと、楽」
「……」
俺はスマホを置いた。
「愛華」
「なに」
「一個聞いていい」
「うん」
「俺のこと、いつから好きなの」
愛華は少し黙った。
静かな目で俺を見て、それからぽつりと言った。
「ずっと」
「ずっとって」
「物心ついた頃から、ずっと」
「……」
「陽太が他の子に笑いかけるたびに、胸が痛かった」
「……」
「陽太と話してる女子を見るたびに、消えてほしかった」
「……それは物騒だな」
「消えるだけで傷つけたりはしない」
「一応セーフか?」
「ギリセーフ」
「ギリかよ」
愛華が小さく笑った。
今度は、ちゃんと笑った。
薄い微笑じゃなくて、少し照れたような、昔みたいな笑顔。
俺の胸が、少しだけ痛くなった。
「陽太」
「なに」
「ポテチ、食べる?」
「……食う」
「バーベキューとコンソメ、どっち?」
「バーベキュー」
「正解」
「正解って何が」
「陽太はバーベキュー派だって知ってた」
「じゃあ最初から選ばせんな」
「テスト」
「合格?」
「百点」
なんかもう、俺が監禁されてるのか愛華に世話されてるのか、わからなくなってきた。
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第4話 「手錠を買ってきたが、サイズが合わない」
三日目。
「陽太、手錠買ってきた」
朝から愛華が紙袋を持って部屋に入ってきた。
「……」
「昨日、鍵と一緒に買ってきた」
「昨日の外出ってそのためか」
「ちゃんと監禁する」
「今更?」
「初日から本当はするつもりだったけど忘れたから」
「買いに行く前に思い出せたじゃん」
愛華は紙袋から手錠を取り出した。
普通にホームセンターで売ってそうな、南京錠+チェーンの組み合わせだった。
なぜか可愛いハートの飾りがついていた。
「……ハート」
「可愛いでしょ」
「かわいいとかじゃなくて」
「陽太の手首に合わせてサイズ選んだ」
「合わせてないじゃん、見てないじゃん俺の手首」
「目分量」
「目分量で手首のサイズ測れないでしょ普通」
愛華はパチンと手錠を开いて、俺の手首に近づけた。
「……入らない」
「大きすぎた?」
「小さすぎ。全然入らない」
「…………」
愛華は手錠を見つめた。
しばらく沈黙した。
「……かわいい方を選んだら小さかった」
「かわいさで選んだの? サイズじゃなくて?」
「だって飾りがついてた方が」
「監禁に飾りいらんでしょ!!」
愛華がびくっと肩を揺らした。
「ごめん、怒鳴った」
「……び、びっくりした」
「俺のほうが怒鳴れる立場じゃないけどな監禁されてるし」
「…………もっと大きいの、買ってくる」
「待って待って」
俺は思わず愛華の袖を掴んだ。
「また買いに行くの?」
「うん」
「その間俺はどうするの」
「待ってて」
「逃げるかもよ」
「…………」
愛華は真剣に考える顔をした。
「逃げる?」
「どうかな」
「……逃げてほしくない」
「じゃあ行かなきゃいいじゃん」
「でも手錠」
「手錠なくていいじゃん!! 結局縛れてないまま三日経ったけど逃げてないだろ俺!!」
愛華はぱちぱちと目を瞬いた。
「……そうだね」
「そうだよ」
「なんで逃げなかったの」
「……」
「手段はあったでしょ。止める方法なかったし」
「…………」
俺は窓のない部屋の壁を見た。
「飯がうまかったから」
「え」
「唐揚げがうまかった。卵焼きも。味噌汁も」
「…………」
「あと」
「あと?」
「お前が泣くの、見たくなかった」
愛華が息をのんだのがわかった。
「…………陽太」
「別に告白とかじゃないから」
「え」
「幼馴染として、昔から、愛華が泣くの苦手なんだよ。それだけ」
「……そっか」
「そっか、じゃないだろ普通」
「…………じゃあ」
「じゃあ?」
「手錠、返品してくる」
「それが正解だよ!!」
愛華はかすかに笑って、紙袋を持って地下室を出ていった。
俺はため息をついて、Wi-Fiにつないで動画を見始めた。
監禁部屋のWi-Fi、普通に速かった。
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第5話 「愛華が風邪をひいた」
四日目。
愛華が来なかった。
朝になっても、昼になっても。
いつもなら朝七時には「陽太、起きた?」と言いながら入ってくるのに。
「……変だな」
静かな地下室。
俺は五分ほど待って、ドアを開けた。
鍵は、ない。
愛華は手錠の購入も諦めたし、ドアに鍵をかけることもしていなかった。
階段を上がると、家の中は静かだった。
愛華の両親は長期の海外出張中らしく、しばらく不在だという話は昨日聞いた。
「愛華?」
返事がない。
リビングを抜けて、愛華の部屋のドアをノックした。
「…………陽太?」
声がした。かすれていた。
「入るぞ」
「…………っ、ちょっと待って」
「待たない」
ドアを開けると、愛華が布団の中から顔だけ出してこっちを見ていた。
顔が赤い。
「熱あるだろ」
「……ない」
「あるじゃん」
「ちょっとあるかも」
「何度」
「……はかってない」
「体温計どこ」
「引き出しの中」
俺は体温計を取り出して、愛華に渡した。
しばらくして確認すると、三十八度七分だった。
「ばか」
「……ばかって言わないで」
「監禁の準備してないで体の管理しろよ」
「……だって昨日から、なんか寒くて」
「言えよ。薬くらい買いに行ったのに」
愛華がじっと俺の顔を見た。
「陽太」
「なに」
「……わたしが熱出たら、逃げると思ってた」
「……」
「止められないから」
「……」
「チャンスじゃん」
俺は少し黙った。
「……逃げないよ」
「なんで」
「お前が熱出してんのに置いていけるかよ」
「…………」
「粥作れるかわからんけど、インスタントくらいあるだろ」
「……冷蔵庫に」
「買い物行ってくる。スポーツドリンクもいるだろ。財布貸して」
「……」
愛華はじっと俺を見た。
「陽太」
「なに」
「…………好き」
「知ってる」
「めちゃくちゃ好き」
「知ってる」
「世界で一番」
「知ってるから寝とけ」
愛華がくすっと笑った。
熱でぼんやりした目で、でも、ちゃんと笑っていた。
「……行ってきます、って言って」
「はあ」
「ちゃんと言って」
「……行ってきます」
「……いってらっしゃい」
俺は愛華の部屋を出た。
玄関で靴を履きながら、俺は自分の顔が少し熱いことに気づいた。
熱、うつったかな。
うつったんじゃないと思うけど。
たぶん。
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第6話 「そういうことだったのか」
五日目。
愛華の熱は、次の朝には引いていた。
「もう治った」
「早いな」
「体力には自信ある」
「監禁犯に必要か体力」
「……監禁犯って言わないで」
「じゃあなんて言えばいいんだよ」
愛華はしばらく考えた。
「……好きな人の傍にいたい女の子」
「長い」
「ヤンデレ彼女」
「彼女じゃないだろ」
「…………なりたい、彼女」
俺は黙った。
地下室。Wi-Fiルーター。「LOVE」のガーランド。
ここ五日間の記憶が、頭の中をぐるぐる回った。
唐揚げの味。卵焼きの甘さ。LINEの通知三十件。
合わなかった手錠。バーベキュー味のポテチ。熱でかすれた声。
「陽太」
「なに」
「聞いていい?」
「どうぞ」
「……わたしのこと、どう思ってる?」
俺はため息をついた。
「愛華」
「うん」
「お前、監禁の準備してきたくせに手錠忘れたよな」
「……うん」
「手錠買いに行ったくせにサイズ間違えたよな」
「……うん」
「ドアに鍵かけてないよな」
「……うん」
「Wi-Fiつけたよな」
「うん」
「飯めちゃくちゃうまかったよな」
「……練習したから」
「熱出て俺に甘えたよな」
「……甘えてない」
「甘えてた」
「…………少し」
俺は愛華の目を見た。
据わってるくせに、少し不安そうな目。
強がってるくせに、ちょっとだけ震えてる目。
「お前の監禁、最初から全然怖くなかった」
「……うん」
「でも、嫌いじゃなかった」
「え」
「唐揚げがうまかったし、布団がふかふかだったし、Wi-Fiも速かった」
「……そんな理由」
「あと」
「あと?」
「お前が笑うの、久しぶりに見た気がした」
愛華が息をのんだ。
「中学から、なんか距離できてたじゃん」
「……うん」
「急に大人しくなって、笑わなくなって、俺のことも避けだして」
「……気づいてたの」
「気づくよ。ずっと一緒だったんだから」
愛華が唇をかんだ。
「好きって気持ちが、大きくなりすぎて」
「……うん」
「怖かった。陽太に気持ち悪いって思われるのが」
「思わないよ」
「……思うでしょ普通」
「思わない」
「監禁しようとしたんだよ?」
「全然監禁できてなかったけどな」
愛華がぷっと吹き出した。
「笑うじゃん」
「……だって」
「かわいいな、お前」
「……っ!?」
愛華の顔が、今度は熱なしで真っ赤になった。
「ちょ、え、突然」
「突然でもないけど」
「こころの準備が」
「監禁してきたくせに告白の準備はないの?」
「全然ない!!」
愛華がわたわたし始めた。
椅子から立ち上がって、また座って、手をぎゅっと握って。
「あの、陽太」
「なに」
「今のって」
「告白?」
「……そう」
「そうだよ」
「…………本当に?」
「本当に」
「……本当に本当に?」
「三回聞くな」
愛華はしばらく黙って、それから小さな声で言った。
「……嬉しい」
「よかった」
「めちゃくちゃ嬉しい」
「知ってる」
「世界で一番嬉しい」
「大げさだよ」
「大げさじゃない」
愛華が笑った。
ちゃんと笑った。
薄い微笑でも、据わった目でもなくて、両目を細くして、少し泣きそうな顔で、全力で笑った。
俺は、その顔を見て、ようやく確信した。
俺も、ずっとこの笑顔が見たかったんだな、と。
「愛華」
「なに」
「この部屋から出ていいか」
「……もちろん」
「お前の監禁、解除してやる」
「……うん」
「その代わり」
「え」
「ちゃんと付き合おう。監禁じゃなくて」
愛華はぱちぱちと目を瞬いて、それからまた笑った。
「……うん」
「約束な」
「うん」
「逃げないから」
「……うん」
「だから泣くな」
「泣いてない」
「泣いてる」
「泣いてない」
「目から出てるじゃん」
「……これは、嬉しい涙だから」
「知ってる」
俺たちは並んで地下室の階段を上がった。
地上に出ると、午後の日差しが眩しかった。
五日ぶりの太陽だった。
「陽太」
「なに」
「手、つないでいい?」
「……つないでいいけど」
「うん」
「お前が監禁してた相手に自分から頼むのか」
「…………恥ずかしいこと言わせないで」
「言わせてない。お前から言ってきた」
「もう!」
愛華が俺の腕を掴んで、少し赤い顔で歩き出した。
手のひらの温度が、温かかった。
こうして俺の、日本一ズレた「監禁生活」は幕を閉じた。
ちなみに後日、愛華は手錠を正式に返品した。
「もう使わないから」とレシートを持って。
店員さんに「ご事情は?」と聞かれて「恋人ができたので」と答えたらしい。
意味は通ってるけど、文脈が怖すぎる。
やっぱり愛華はヤンデレだったし、俺の彼女になった。
それで十分だった。
――おわり
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。
「ヤンデレ」と「監禁」という重めのテーマなのに、
なぜか全体的にゆるい作品になりました。
でも、
好きな人にどう接していいかわからなくて、
不器用な方向へ暴走してしまう感じは、
少し青春っぽいのかもしれません。
愛華のズレた愛情表現と、
陽太のツッコミを楽しんでいただけたなら嬉しいです!




