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第46話 消えた花嫁(★サリオン視点)

 僕はサリオン・ノースフェル。

 黒曜城で魔物たちに育てられ、物心ついた頃には自由に魔法も使うことが出来た。


 魔物たちは僕の力を喜び、褒めてくれた。

 僕にはその凄さが今一つ実感できなかったけれど、皆が嬉しそうだから悪い気はしなかった。


 ただ、次第に僕は、自分と魔物たちの違いに気づいていった。

 姿も、生き物としての在り方も、魔力の流れも、何もかもが違う。

 

 ――皆のことは家族として大好きだったが、それでも僕は途方もなく寂しくなった。


 それである日、瘴気の森で拾ってきた死体を人形にして、お父さんとお母さんを作ってみた。

 リュミエがよく絵本を読んでくれていたから、どのように動かせば"それらしく"なるのかも分かっていた。


 当時の僕には、それがとても素晴らしいアイデアだと思えた。

 リュミエやヴァルクもまた褒めてくれるかと思ったが、彼らは何も言わなかった。


 今思えば、酷なことをしてしまったものだ。

 人形との家族ごっこは、結局、数日で虚しくなってやめてしまった。


 どれだけ精密に動かしても、人形は人形でしかないのだ。そこに心なんてない。

 だから、情を抱くのは止めよう。

 子供の頃に痛い目にあって、そう思い知ったはずだったのに。


 ――僕はあの夜、カナリヤの亡骸に出会ってしまった。


「なんて可愛いんだ!」

 

 血を流して絶命したであろう彼女は、それでも月明かりに照らされて美しかった。

 その青白い頬に再び生命の色が宿る姿を、一目で良いから見たいと思った。

 このまま道端で朽ち果てさせてなるものかと、強く惹かれる想いが生まれた。


 「連れて帰ろう。それで、綺麗にして、お嫁さんにしよう!」


 また後悔することになっても構わない。

 宝物のように大切に黒曜城へ連れ帰り、いつものように蘇生させた。


 しかしその後、奇跡が起きた。

 彼女は意志を持って、自ら動き始めたのだ。


 理由は分からない。

 あの後、試しに何体か人形を新たに作ってみたが、どれも意志を持つことは無かった。

 つまり推測だが――、カナリヤ自身が特別な存在なのだ。


 それに、カナリヤは可愛い。

 

 見た目も勿論だが、性格全てが可愛い。

 突然蘇らせて、お嫁さんにすると言ったのに、僕を受け入れて大切にしてくれている。

 辛い目に沢山あってきただろうに、前を向く明るさと強さもある。


 僕は彼女を愛している。


 カナリヤとずっと一緒にいたい。守りたい。

 彼女が望むなら、何だってしてあげたい。


 ――明日は結婚式だ。


 きっとあの娘を世界で一番幸せな花嫁にして見せる。

 僕はそう心に誓い、眠りについた。

 

◇ ◇ ◇


 結婚式当日、僕は随分と早起きをしてしまった。


 朝食前、どうしてもカナリヤの顔が見たくなって、僕は彼女の部屋まで足を運んだ。

 普段はこんなことをしたら、きっとババやリュミエに叱られてしまう。

 だけど、今日くらいは許してくれるだろう。


 僕はそんな考えを浮かべつつ、そっとカナリヤの部屋の扉をノックする。


 ――返事がない。


 まだ眠っているのだろうか。

 彼女はいつも早起きだと聞いていたのだが。


 それとも、既に結婚式の支度を始めているのだろうか。

 でも、今日も朝食は一緒にとる約束をしていたはずだ。


「カナリヤ、いるかい?」


 僕はもう一度、ノックをしながら扉越しに呼びかけてみる。


 ――やはり、返事はない。


 それどころか、部屋の中に誰かがいる気配すら感じられない。

 僕は次第に心配になり、小さく息を吐き出して決心すると、もう一度声をかけた。


「カナリヤ、すまない。入るよ?」


 鍵はかかっていなかった。

 簡単に開いた扉の先には、誰もいない。

 ベッドで寝ている姿も、部屋で支度や仕事をしている姿もない。


「……カナリヤ?」


 がらんとした部屋の様子に、僕の背筋がぞくりと冷えた。

 嫌な予感がする。

 杞憂なら良いのだが。


 僕はすぐにノクスを呼び出して、カナリヤの居場所の確認と、他の魔物たちの招集を指示した。


◇ ◇ ◇


 大広間に集まった僕と魔物たちの元へ、影となったノクスが戻ってきた。

 彼は黒曜城の警備担当であり、城の中の状況は数分もあれば全て確認することが出来る。


「カナリヤ殿は、城内にはおりません」


 焦りの滲んだノクスの声に、その場にいる全員が息を飲んだ。


「今朝は、私もお見掛けしておりませんね」


 リュミエが困ったように呟く。


「私も、今朝はまだお部屋を訊ねる前でしたので」


 ルージュが狼狽しながら話す声に、ブルーとジョーヌが続ける。


「ババ様のいる厨房にも、いなかったようです」

「心配です……」


 僕は苦々しく頭を抑えた。

 とにかく理解できたのは、カナリヤは黒曜城にはおらず、誰も行方を知らないということだ。


 心配と、不安と、色んな感情が押し寄せてくるのを必死に堪えて口を開く。


「カナリヤは昨夜は僕とダンスの予行演習をしていた。その後、見た者はいないようだな。……ノクス、城内で不審な動きは無かったのか?」


「は、はい、異変のようなものは何も。侵入者の気配はありませんでした」


 カナリヤの行方不明に対して、ノクスは城内警備として責任を感じているらしい。

 声を震わせながら、黒い影の顔を俯かせている。


 普段なら茶々を入れるミュラも、今は複雑そうな顔で黙り込んでいる。

 そのことがより、事態の深刻さを感じさせた。


「とにかく探すしかないだろう。手分けをして」


 重い沈黙を破ったのはヴァルクだった。

 彼の言葉に、皆、次々に同調する。

 そのとき、ふと思いついたようにミュラが灰色の尻尾を揺らした。


「陛下、カナリヤは意志を持っていても陛下のお人形なんでしょ。居場所を探知できないの?」


「……もしかしたら、出来るかもしれない」


 僕はその言葉を聞いて、表情を曇らせた。

 ミュラの疑問はもっともだし、僕も一番に思いついたことだった。


「ただ、カナリヤがどうして意志を持って動けているのか、理由が分からないんだ。だから下手に操ろうとしたり、探知を試みたら……、それがきっかけで彼女が意志のない人形に戻ってしまうかもしれない」


 それは僕にとって、到底、許容できることではなかった。


「ああ、そうか」


 ミュラはすぐに理解してくれたようで、灰色の耳をぺたんと下げる。

 


 こうして僕たちは、皆でカナリヤを探し始めた。

 そしてそう時を経ずして、ヴァルクが叫んだのだ。


「アリスティアの街へ続く扉が使われた形跡があります、陛下!」

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