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第45話 ダンスの練習(後)

 二人きりの大広間で、私たちは優雅にダンスのステップを踏みながら会話を続ける。


「へえ、味方してくれる人が居たのかい」


 私の言葉に、サリオン様は驚いたように目を瞬かせた。

 それから、柔らかく微笑む。


「僕のお嫁さんを助けてくれたなら、お礼を言わないとね。どんな人?」


「ええと、ロイド様という方で――ひゃっ!」


 ロイド様の名前を私が出した瞬間、私はサリオン様に強く引き寄せられた。

 先程まで繋ぎ合っていた手は腰に回されて、逃げ場を失うほどに距離が縮まる。


 私は何が起きたのか分からず、思わずダンスの足を止めた。

 それから、おそるおそるサリオン様の顔を見上げてみる。


 彼の端正な顔は複雑そうに歪み、しばしの沈黙を挟んでから、ようやく口を開いてくれた。


「……男か?」


「へっ?」


 その言葉を聞いて、私はきょとんとする。

 少ししてからようやくその意味を理解して、私は慌てた。


「あっ、あの、サリオン様!? 確かにロイド様は男性ですが、決して深い関係では」

 

「本当かい」


「勿論です。彼はその、ただの幼馴染で」


「カナリヤはそうでも、相手は違うかもしれないじゃないか。だって君はこんなに可愛い!」


「ええっ……」


 自信満々に私が可愛いと宣言するサリオン様に、私は嬉しく思いつつも困惑する。


 ――どうしよう。


 一般的には、私の容姿は決して優れている訳ではないと説明すべきだろうか。

 しかし、それはサリオン様の想いを無駄にしてしまうようで憚られる。


 それに、私とロイド様が深い関係だなんて、本当にありえないのだ。

 私は彼との別れ際のやりとりを思い出す。


「……ロイド様は私の境遇に同情して、親切にしてくださっていただけですよ」

 

 サリオン様の不安を払拭するために説明したかっただけなのに、無意識に私の表情は暗く沈んでしまった。

 義妹のメアリーの台詞が、頭の中で繰り返される。

 

『ロイドだって言っていたじゃない。陰気な根暗女の世話をするのは、もう飽き飽きだって!』


 そう、きっとそれがロイド様の本心だ。

 それなのに、唯一人間らしく自分と接してくれる彼に頼り過ぎてしまった、私が愚かだったのだ。

 

 深く沈んでいこうとする私の思考は、サリオン様の声で中断する。


「カナリヤ? ……すまない、カナリヤ。君を困らせたい訳じゃなかった」


 顔をあげれば、先程までとは一転、心配そうに私を見つめるサリオン様の姿があった。

 私を引き寄せている腕はそのままだが、微かに指先が震えている気がした。


「君の味方がいたと聞いて、嬉しかった。でも、君が他の誰かを好きかもしれないと思うと、胸が張り裂けそうになる」


 サリオン様の言葉はどこまでも真っ直ぐで、私の心を温かく溶かしてくれる。

 彼の裏表のなさにも救われていたのだと、私は実感した。


「不安なんだ。情けないけど、僕は、普通の人間ではないから――」


 私はハッとすると、彼を抱きしめ返した。

 それから、サリオン様の頬へ優しく触れる。


「サリオン様は、サリオン様です。貴方が人間であれ、魔王であれ、何であっても、私には貴方しかいないのです」


 真っ直ぐな言葉を私も彼に伝えた。

 

「私はサリオン様の、お嫁さんですから」


 不安げだったサリオン様の瞳に、穏やかな温度が戻っていく。


「ああ、そうだな!」


 彼は美しく微笑むと、その瞬間に私を抱き上げて、ぐるぐるとその場で回った。

 私は慌てながらも彼に身を委ねて、やがてすとんと床に降ろされる。


「カナリヤは、僕の世界一のお嫁さんだ」


「ふふっ、はい!」


「それではダンスの続きを踊ろうか」


 私たちは、また手を取り合って踊り始める。

 

 ――夢のような時間だった。

 でも、明日はもっと幸せに違いない。

 魔物さん達からも祝福される中で踊ることが出来れば、こんなに素敵なことはないと思えたのだ。


 ふと、サリオン様が口を開く。


「そういえば、カナリヤ。一つお願いがあるんだ」


「はい、私にできることでしたら、喜んで」


「結婚式の日は――僕の部屋で一緒に寝ないか?」


「へっ!?」


 私はサリオン様からの予想外のお願いに固まったが、彼は真摯な態度を崩さなかった。


「君と一緒にいたい。……駄目かな」


「え、あっ、あの……」


 一気に頬が赤くなっていくのを感じた。

 思えば、これは別にサリオン様にとっては許可がいる行為でもない。

 それなのに、敢えて優しく訊ねてくれているのだ。


 私を尊重してくれる彼に、胸がじんわりと温かくなる。


「はい、喜んで」


 小さな小さな声で返した私を、サリオン様は強く抱きしめてくれた。

 


◇ ◇ ◇



 サリオン様とのダンスの予行演習も終えて、私は満ち足りた気持ちで自室へ戻った。

 明日はいよいよ、結婚式の本番だ。 

 今夜は早く休まなくては。


 寝る支度をしようとした私は、テーブルの上の一通の手紙に気が付く。


「あら? 私宛の手紙……」


 こんなことは初めてだった。

 私は不思議に思いつつも、封筒を開けて中を確認してみる。



 ――その内容に驚きつつも、私は急いで自室を後にした。

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