第39話 メアリーの憂鬱(後)(★メアリー視点)
アリスティアの街でカナリヤに似た女を見かけた日の夜も、ロイドは別荘に帰って来なかった。
私は与えられた部屋で一人、考え込む。
「ロイドが帰ってくれば、相談できるのに! それにしても気になるわ、あの人影」
悩んだ末に、ひとつ思いついたことがあった。
「そう、そうだわ。あの商人、そういえば」
私はカナリヤを追い詰める時に協力した富商のことを思い出した。
あの男も以前はしょっちゅう屋敷に訪れていたのに、御用命の際はこちらにどうぞ――なんて連絡先を寄越したきり、すっかり顔を見せなくなっていた。
「ちょっと、手紙を書くわよ。準備をしなさい!」
使用人が羊皮紙を用意すると、私はすぐに富商への手紙を書き始めた。
◇ ◇ ◇
「お声がけ頂きありがとうございます、お嬢様」
「早かったじゃないの」
「それはもう、お嬢様からのご連絡とあらば」
富商は手紙を出した翌日の夜にはやって来た。
馬車でこの早さは無理だろうから、ポータルか何かで急いできたのね。
なかなか良い心がけじゃない。
私は彼をロイドの別荘に招き入れ、これまでのことを話すことにした。
「カナリヤお嬢さんを、この街で見かけたということでございますね」
「そうよ、どうしてあの子が! 一瞬しか見えなかったけど、服も綺麗になっていた気がするわ。本当に身の程知らずよね」
富商はにこにこしながら、私の言葉を肯定してくれる。
私はすっかり気分が良くなって、アリスティアの街に来てからのことを色々と喋ったわ。
「ロイドってば、私がいなくちゃ駄目なのよ。甘えてるの。でも、ここに来てからずっと仕事で出掛けていて……酷いって思わない?」
「ええ、ええ。ロイド様は優れた方ですが、レディへの配慮が少し足りないかもしれませんね」
「うふふ、貴方、やっぱり話が分かるわね。この街じゃ、買い物も退屈だし」
「それならば、この私めにお任せを。上品なお嬢様にぴったりの品を色々と取り揃えて参りましたよ」
「え、本当!? 気が利くじゃない!」
富商は従者らしき男に指示を出すと、大きな鞄から次々に高価な装飾品を取り出して並べた。
私は、久々の煌びやかな光景に目を輝かせる。
手持ちのお金はないけれど。
――ここはロイドの別荘だし、私はロイドのお姫様だし、彼が支払ってくれるわよね?
「あら、この指輪いいわね。この宝石も大きくて素敵!」
すっかり商品に目を奪われている私へ、富商の男が囁いた。
「カナリヤお嬢さんのことは、私が調査をしておきましょう。貴女様は、どうぞ心安らかに、お待ちくださいませ」
「助かるわ! そうだ、それに、カナリヤを売り飛ばせばお金が入るから、また贅沢できるわね。でも、あの子の値段なんてたかが知れてるかしら?」
考え込む私に、富商は媚びたような笑みを見せた。
「ひひひっ、その辺りの取り分は、またご相談させてくださいませ。さあさあ、カナリヤお嬢さんを捕える前祝いですよ。どの商品に致しましょう」
「そうねぇ――」
こうして私は、大きなルビーの指輪と、エメラルドの輝く首飾りを手に入れたの。
ロイドが帰ってきたら、これを付けてデートに行きましょう。
宝石たちは、美しい私の魅力を、より引き立ててくれる気がした。
これで彼も私にもっと夢中になるに違いないわ。
◇ ◇ ◇
――けれど、それから1週間たってもロイドは別荘に戻って来なかった。
流石に事故か何かにあったんじゃないかと使用人に訊ねてみたけど、普通に仕事はしているみたい。
なら、少しくらい私の所に顔を出しても良いんじゃない?
「いくらなんでも、甘え過ぎよ!!」
私はロイドに与えられた別荘の部屋で、怒りに任せてベッドを蹴り上げる。
それから暫く室内で暴れ回っていたが、やがて、窓をたたく音に気が付いた。
顔を向ければ、一羽のカラスが嘴で窓をつついている。
「え、なに。カラス!? なんなのよ、黒くて縁起が悪いわね――!」
私が窓へクッションを投げつけると、カラスは驚いたように一瞬はばたくが、すぐに戻ってきた。
「……んもう、何なのよ!」
一羽のカラスすら思い通りに追い払えなかったことが、私のイライラを募らせる。
こうなったら、本気で脅かしてやろう。
窓の傍まで足音を立てながら歩いて行くと、私はカラスが何かを咥えていることに気が付いた。
「手紙?」
それは、差出人の記載のない手紙だった。
お読みくださりありがとうございます。
ここで第2章完結となります。
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次話から始まる第3章では、何か事件が起こる予感です。
互いの想いを深め確かめ合ったカナリヤとサリオンですが、果たして困難を無事に乗り越えることが出来るでしょうか。
どうか見守り、応援して頂けると嬉しいです。
魔物たちも活躍しますよ!




