第37話 ロイドの鬱積(★ロイド視点)
ああ、本当に許せないことだ。
フレアリス家本邸の地下にある牢で、俺は魔石の盗人たちと対峙していた。
当然、罪人は全員縛り上げて床に転がしてある。
苛立ち紛れにそのうちの一人の腹を蹴りつけてやる。
そいつは苦しそうに呻いた後、それでも媚びたようにひきつった笑みを浮かべてきた。
俺はただその様子を冷たく見下ろしたまま、確認事項を口にした。
「それで、"北の魔王"にやられたと言うのか?」
「はいっ。俺たちが魔石を掘っていたら、突然現れて」
「そこにカナリヤもいたと?」
「は、はい。名前も呼ばれていたので、確実かと」
盗人の返答が変わることは無かった。
俺は盛大に舌打ちをすると、踵を返す。
もうこいつらに用はない。
「ああっ、お待ちください、侯爵様。正直に言えば、私だけは助けて貰えるという話は」
喧しく騒ぎ立てる声が、俺の背後で響く。
「私は元高位魔術師なのです。助けて頂ければ、きっと、きっとお役に……」
そう、盗賊団の中にどうやら落ちぶれた魔術師が混ざっていたらしいのだ。
おかげで貴族の事情にある程度詳しく、カナリヤのことが聞き出せたのは良かった。
だが、それだけだ。
「……必要あると思うか?」
俺は僅かに振り返り、奴らを見据えた。
言葉一つなく魔法が発動する。
――その瞬間、盗賊団の連中が激しく燃え盛る炎に包まれた。
声を嗄らして喚くような絶叫が響き渡る。
俺はその光景を興味無さそうに一瞥すると、本当に背を向けて歩き出した。
俺の魔力は人間の中でも比類するものがないと称され、500年前の勇者の再来とまで謳われていた。
その辺の魔術師崩れなど、何の役にも立ちはしない。
「魔石の盗掘の罪は重い。死罪で妥当。あとは片付けておけ」
牢の傍で待たせていた衛兵にそう告げると、俺は自室へと向かっていく。
◇ ◇ ◇
自室に辿り着いて扉を閉めた瞬間、俺は力いっぱい戸棚を殴りつけた。
「くそッ、どうして、どうして、"カナリヤが生きて"いる――!?」
一人しかいない部屋で、堪え切れずに叫んでしまった。
何もかもが思い通りにいかない。
どうしてこうなった。何を間違えた。
怒りのあまり髪をかきむしっていると、絨毯に転がっている蝶の翅飾りに気付いた。
先程の衝撃で、戸棚の上から落ちていたらしい。
俺はその古びた飾りを拾い上げ、握り締める。
――カナリヤ。君は昔から、俺の、俺だけのものだったはずなのに!
"これで"やっと手に入れたと思ったのに。
どうして、まだ生きている?
何故、北の辺境伯と一緒にいるんだ?
カナリヤが他の男と一緒にいると言うだけで、気が狂いそうになる。
ノースフェル辺境伯なんて、怪物だと噂の陰気な引き籠り野郎じゃないか!
苛烈な怒りでぐちゃぐちゃになった思考の末、俺の頭に、パッと妙案が浮かんだ。
「そうだ、そう……、そう、カナリヤを、助けに行かなくては……」
淀みきった鬱積は消えない。
それでも、俺の心はいくばくかの前向きさを取り戻した。
「きっとカナリヤも、俺を待ってる……。はは、カナリヤは、俺がいないと、駄目なんだから」
敢えて声に出してみると、それは間違いのない事実であると確信できた。
俺は笑みを深めて、小さく息を吐き出す。
よし、まずはカナリヤの正確な居場所をつきとめなくては。
そういえば最近、北の大地を覆う巨大な瘴気の森で、一瞬だが大量の魔物が集うところが観測されたらしい。
目撃者の数も多くはなく、眉唾物の情報だ。
王都は北の辺境伯との対立を嫌って、細かな調査もしていないらしい。
――これを調べる名目で、北の地へ行こう。
魔石の管理権を持ち、勇者の家系である俺が自主的な調査に出向くなら、国も止めることは出来ないだろう。
俺は夜空へ向けて、深紅の瞳を細めた。
「待ってろよ、俺のカナリヤ」




