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第11話 お花のお姫様

 小さなメイドさんの姿に変化した、ルージュさん、ブルーさん、ジョーヌさんに連れられて、私は部屋に備え付けられている大鏡の前に立っていた。


「あ、改めて見ると……ボロボロですね……」


 元々、質素なデザインのベージュのワンピースだったのだが、服の生地は傷み切っているし、当て布も目立つ。おまけに刺されて転んだ時に出来たであろう、切り傷やほつれも沢山あった。


 靴も殆ど擦り切れていて、補修で誤魔化しがきかない程に形が崩れている。


 ただ、確か”私が死んだとき”に服が血で汚れたはずだったが、それは何故か綺麗になっているようだった。サリオン様のおかげだろうか。


「サリオン様は……、こんな私の、どこが良いのでしょうか……」


 鏡で自分をじっと観察していると、何だか情けない気持ちになってくる。

 暗い表情の赤い瞳が、しょぼくれた表情でこちらを眺めている。


 右頬には、大きな爛れた火傷の跡がある。

 ろくに栄養も取れずに働き詰めだった手足は細く貧相で、肌にも艶がない。


 昔は母がよく褒めてくれた黒髪も、今は手入れ不足でパサパサだ。

 いっそ切ってしまおうかと何度も悩んだが、母との思い出が忘れきれず、伸ばしたままにしてしまっていた。それも、仕事の時には邪魔になるから、いつも後ろで一つに括っていたのだが。


 ――特に義妹から、何度も何度も醜いと罵られてきた己の容姿。

 いつからか、鏡を確りと見る回数さえ減ってしまっていた。


「可愛いからだと言っていました!」

「聞きました!」

「自慢してました!」


 ルージュさん、ブルーさん、ジョーヌさんが口々にそう言いながら、私を座らせ、髪を梳いたり、ドレスをあてがって選んだりしてくれている。


「あの、まさかとは思いますが……。サリオン様は、私以外の人間の女の子を見たことが無いのでは」


 私が黒曜城にやって来てから、サリオン様は一貫して私のことを可愛いと褒めてくれている。

 そして、その言葉に嘘があるとは感じられない。

 

 どうしても自分に自信が持てない私は、そんなサリオン様の評価にも疑問を持ってしまうのだ。


「それはないと思いますよ。陛下はときどき、王都でお仕事されていますし」


「えっ、王都に?」


「そのときに、カナリヤ様を拾ってこられたと仰っていましたよ」


「そうだったんですね」


「だから他の女性を見る機会も沢山あるはずです!」

「他の女性を拾って帰れる機会もあったはずです!」

「でも、陛下がお嫁さんとして連れて帰ったのは、カナリヤ様が初めてです!」


「な、なるほど……」


 三人の言葉に頷きつつも、私の疑問は深まるばかりだ。


「きっと陛下は、ビビッときたんですよ!」

「運命です!」

「ヴァルク様の恋愛小説にも、そんな場面がありました!」


「運命、だったら素敵ですね。ふふっ」


 私は曖昧に微笑む。


 なんだかこの城に来てからの出来事が、夢のようで。

 まだ、自分がここに居ても良いのかが信じられなくて。

 温かな世界に身を委ねてしまったら、離れるのが苦しくなってしまうから。


 俯く私の頭をルージュさんが優しく撫でてくれた。


「カナリヤ様。さあ、もっともっと、可愛くなりますよ」


「は、はいっ」


「ドレスはこれです!」

「小物はこちら!」


 ブルーさんとジョーヌさんが手際よく選んだ衣装を並べてくれる。


 私は彼女たちの頑張りに元気をもらって、一生懸命にドレスアップすることになるのだった。


◇ ◇ ◇


 ――そして数十分後、 鏡の前に立った私は思わず息を呑んだ。


 ルージュさんたちが選んでくれたのは、淡い白にほんのり桜色が溶け込んだようなドレスだった。胸元には小さな造花がいくつも飾られ、歩くたびに花びらが揺れる。


 腰のあたりはふわりと広がり、動けば光をすくうレースがきらきらと舞う。

 火傷の残る頬に柔らかな光が反射して、いつもより少しだけ明るく見えた。


「カナリヤ様、お花のお姫様みたいです!」

「春の妖精さんです!」

「ほわほわです!」


 三人のメイドさんの賑やかな声に、胸がむず痒くなる。

 こんなにも可愛い服を自分が着ていいのだろうか――そんな戸惑い同時に、喜びが胸に満ちていく。


 私はそのまま鏡台まで導かれて、櫛を手にしたルージュさんに問いかけられた。


「髪も綺麗に結いましょうね。お好きな髪型はありますか?」


「えっ、あ、ええと。流行りの髪型を、知らなくて……」


 恥ずかしそうに俯く私の様子に、ルージュさん達が顔を見合わせる。


「ではお任せで!」

「お任せで可愛く!」

「お任せで可愛く完璧に!」


 明るく笑う彼らに励まされて、私も顔をあげた。自然と笑顔が零れ落ちる。

 

「はい。宜しくお願いします。楽しみです」


 ルージュさん達は協力しながら、魔法のようにあっと言う間に私の髪を綺麗に纏めてくれた。

 編み込みの入ったハーフアップの髪のトップには、美しい蝶の髪飾りが留められている。


「どうでしょう。お花のお姫様と仲良しの蝶々をイメージしました」


 自信作ですと、ルージュさんが胸を張っている。


 私は改めて鏡の前の自分の姿を見つめた。

 まるで昔夢見た、絵本の世界のお姫様みたいで――感動で声が震える。


「とても素敵です。こんな、こんなに綺麗にしていただけるなんて……」


「これからは、いつだっておめかしできますよ」

「毎日でもお声がけください」


 ブルーさんとジョーヌさんも、ルージュさんの隣に並んで胸を張った。

 その姿があまりに可愛らしくて、私は三人を順番にそっと撫でた。

 彼女たちは慌てながら照れていたけれど、幸い、嫌がってはいなさそうだった。



「あ、そういえば――」



 私がふと呟きかけた言葉は、ルージュさんの声にさえぎられる。


「いけない、そろそろお食事の時間です!」

「遅れては大変です!」

「ババ様がカンカンです!」


 部屋に備え付けの時計は、もうすぐ18時を示そうとしていた。

 

「それは大変です。急ぎましょう」


 お食事は時間厳守だと聞いている。

 不意に浮かんだ疑問はひとまず胸に留めて、私たちは慌てて食堂へ向かったのだった。

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― 新着の感想 ―
こんにちは! 読ませていただきました。 城での花嫁生活がコミカルに描かれていて楽しく読めました。 カラスのメイドさんかわいいですね。 これからも応援してます。 もしよろしければ僕の作品も覗い…
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