第10話 久しぶりのおめかし
黒曜城で私に与えられた部屋のクローゼットはとても大きい。
正直、かつて私が実家で与えられていた物置部屋と同じくらいの広さがありそうだ。
私は意を決して、クローゼットの扉を開いた。
「わ、わわっ……!?」
なんと中には、びっしりと色とりどりのドレスが並んでいた。
どれも高級な造りで、宝石や造花があしらわれているものも多く、あまりの煌びやかな様子に圧倒されてしまう。
「選りすぐりのドレスを準備しました。どうぞお好きなものをお選びください!」
隣でルージュさんが、頑張りましたとばかりにまた胸を張っている。
その姿はとても微笑ましいのだが、こんなに沢山の――三十着以上はあるのではないか――というドレスを前に、私の思考は完全に固まってしまっていた。
「あっ、え、えっと、ええっと……」
折角の厚意を無駄にしたくない。
特に、こんなに一生懸命尽くしてくれたルージュさんの優しさならば猶更だ。
私はルージュさんをがっかりさせない為にも、生地を傷めないようにそっと色んなドレスを見て回るけれど、どうしてもその手が覚束ない。
「カナリヤ様、大丈夫ですか?」
狼狽するような私の動きを察して、ルージュさんが不安げに声を発する。
「すみません、ドレス、ご趣味にあいませんでしたか?」
「いえいえ、そんなことはないです! ごめんなさい。ただ、その、ええと、お恥ずかしい話なのですが……」
私は観念して、しょんぼりとしながら俯いた。
「思えばここ数年、自分で洋服を選んだことなど、なかったものですから。まして、こんな素敵なドレスなんて……選べなくて……」
私は一応、サリオン様のお嫁さんということでこのお城に招かれている筈だ。
その人間が、なんという"ていたらく"だろう。
相手の期待に沿えなかったであろうことを申し訳なく思いつつ、ルージュさんの様子を伺う。
ルージュさんは私の言葉に驚いたように目を見開いてから、ふるふると震え始めた。
「カナリヤ様!!」
そして暫くの後、大きな声を張り上げた。
「なんという暮らしをされていたのですか! ルージュは怒りましたよ!!」
「ひうっ、ごめんなさいっ」
「カナリヤ様に怒っているのではありません。ブルー! ジョーヌ!」
慌てふためいている私をよそに、ルージュさんが更に声をあげる。
その呼び声に応じて、青と黄の首飾りをしたカラスが、部屋の上部にある小窓から飛び込んできた。
「話は聞きましたね!」
「聞きました!」
「聞きました!」
三羽のカラスはそう会話を交わしたかと思うと、ぽんっ、と音を立てて姿を変化させた。
「「「カナリヤ様、私たちにお任せください!」」」
三つ子かと思うほどそっくりな顔立ちの、メイド服を着た可愛らしい三人の少女が声を合わせる。
彼女たちは、少しカールのかかった黒髪のショートヘアで、目の色が全員赤、青、黄と別れている。
また、目の色と同じ首飾りもメイド服の上から身に付けていた。
「えっ、もしかして、ルージュさん……と、ブルーさんに、ジョーヌさん!?」
「そうです、私たちはまだ未熟なので、三人一緒でないと人間に変化できないのです!」
ルージュさんはそう言いながら、私の手を引っ張って大きな鏡の前へ連れて行く。
ブルーさんとジョーヌさんは、ドレスやら小物やらを抱えながら、バタバタとその後ろを付いて行った。
「さあ、おめかししますよ!」
「は、はい! よろしくお願いしますっ」




