Destiny.7 はじまり
警告。その文字に自分の身体がギュッと引き締まるのを感じる。
――魔物?それとも……?
皆も同じことを考えているのか、見るからに動揺が広がっている。今度は一体では済まないかもしれない。そしたら……。
しかし、その正体は意外なもの、規格外のものであった。
中央の巨大モニターにとある山が映し出される。なんの変哲もない、木が疎に生えている普通の山。
でも。
「こんな山、見たことない……」
千代がぼそっと呟く。確かにこのような山はこの街の近くには存在しない。
「ねえ、ここどこ……」
沙知が私の方を向いた時だった。
ドドドッ……。
モニター脇のスピーカーから鈍い音が出力される。何かが動くような、表しようがない音。
直後、モニターに信じ難い映像が表示された。
山が、動いている。
間違いない、確かに山が動いている。生き物のように。
「あれ、山だよね……?」
「山が……生きてる?」
口々に現実味のないワードが飛び交う。まるで映画のワンシーンを観ているかのような光景を前に、ただひたすらに驚くしかなかった。
山は、身震いをした。生えている木が大きく揺れ、土が落ちていく。
次第に、山の正体が見えてきた。
それまで山の頂に見えていたものは、丸く曲がった背中だった。それぞれの端には尻尾らしきものと、頭部らしきものが繋がっている。
身体は濃い茶色をしていて、ところどころに草が走っている。手と脚のようなものも見えている。
やがて全体像が見えた時、私の頭の中にはある二文字が浮かんでいた。
怪獣。
怪獣は、ゆっくりと首を上げた。大地が跳ね上がるような、鈍重な動きをしている。
その中、こぼれ落ちる土の中に大きな裂け目が見えた。
口。
底の見えない闇と不揃いに並んだ歯。一軒家すら丸呑みにできそうな程巨大な穴。
重たい顎が動くたびに、周囲の地面がひび割れ、木々がなぎ倒されていく。画面越しでも伝わる圧迫感に、職員室の空気が一段と冷えた。
その瞬間だった。
闇の底が、禍々しい紫に染まった。
光のようなそれは、周りの景色とはあまりにも不釣り合いで、見る側すらも圧倒する雰囲気を帯びていた。
紫色の光は粒から口全体を満たすまでに広がり、かと思えば再び一つの点に収束した。
「まさか……!」
千代が掠れた声で言う。その懸念は、おそらく的中した。
怪獣は首と頭を大きく上げ、口を開き、光を。
吐き出した。
炎でも雷でもない、世界を貫くような細い光線が、画面の奥へ一直線に伸びていく。
そして。
地平線の彼方で、大きな爆発が起きた。
夜空を真昼に変えてしまいそうなほどの赤と白の爆炎が、四方八方へ円形に広がる。砂塵が巻き起こり、空間が激しく歪む。
「うそ……っ」
私の袖を沙知が掴む。
ギュッと袖が腕を締め付けた時、身体中に衝撃が走った。
ドンッ――!
校舎が音を立てて揺れ、天井の灯りが点滅し、黄色い悲鳴が上がる。
「なにこれ!?衝撃波!?」
私は声を張り上げた。
――爆風の影響が、ここまで!?
「教室の方なら見えるかも!」
誰かの声に合わせて、何人かが職員室を飛び出していく。釣られるように、次々と職員室から人がいなくなる。
「ちょっ……ちょっと!危ないって!」
千代が叫び声を上げるのをよそに、私も部屋から走り出た。
――私しかみんなを守れないのに……!
階段を駆け上がると、1-3の教室前に人が群がっていた。皆が廊下の窓から外を見つめている。
私も人並みをかき分け、ガラスに手をつき外の景色に目をやる。
夜の黒闇に沈む街の向こうで、空が燃えていた。
赤と白が入り混じった巨大な爆炎が、闇を押しのけるように立ち上っている。炎はうねりながら天へと昇り、黒い煙が渦を巻いて夜空を覆っていく。
その規模はあまりにも大きく、遠くの出来事とは思えなかった。まるで、世界そのものが裂けたかのようだった。
「……あれが、さっきの……」
誰かの声が震えている。
「まさか……」
私は静かに呟いた。
――ロボットは……アイツと戦うために……?
その時、私は初めて理解した。胸の奥で、頭の芯で。
これは、始まりに過ぎないのだと。




