Destiny.6 変貌
食堂から出て真正面にある細い廊下の途中に、職員室はあった。一般的な教室三つ分の広さがあるその部屋は、いつ来ても異質な雰囲気をまとっている。
「ここ……か」
「魔物がいるかも」
私は確かめるようにデバイスをそっと撫でる。
――もし、また魔物が出たら……。
鼓動が高まり、胸がざわつく。覚悟を決めるように息をすーっと吸い込む。
「じゃあ、いくよ……」
千代が「いっせーの、せ!」と鼓舞するように声を上げ、扉をガッと開ける。私も咄嗟に右腕で顔を守った。
ところが。
「……なに、これ……」
沙知の声の通り、扉の先には誰も想像すらしなかったものがあった。
一般的な職員室からはかけ離れた無機質な内装。大きく横に広がる大小様々なモニター群。教室のそれとは似ても似つかないテーブル。
それはまるで、ロボットアニメに出てくるような指揮室のようだった。
「え?職員室は?」
「ここのはず……だけど」
私の疑問に、千代は確信のない答えを返した。
「一応、入ってもいいんだよね?なんかレーザービームかなんかで殺されないよね?」
「じ……じゃあ試そっか」
千代は右足の上履きを脱いで、職員室の中に投げてみた。ドサッという音と共に上履きが着地する。
結果は、特に何も起きなかった。
「安全そう……かな?」
千代は上履きを拾うべく室内に入った。それに釣られるように、私たちも職員室に足を踏み入れる。
各々が変貌した職員室の姿に驚きを隠せずに、その一方で興味深そうにテーブルやモニターを眺めている。
「ここ……本当に職員室だったの?」
「なんかSFっぽくてワクワクするな」
そんな会話を横目に、私は部屋の奥に据えられた巨大な中央モニターへと足を向けていた。
他のモニターより一回りも二回りも大きく、まるでこの部屋の主人のように鎮座している。その見た目は、まるでガラスのようだった。
「これ、何を表示するものなんだろ」
私はモニターにそっと触れた。何かが熱くなるような、不思議な違和感が胸に走る。
「なんだろ、この感覚……」
そう呟いた瞬間だった。
右腕のデバイスが、激しく光った。
私の意思とは関係なく、腕全体が白く輝き始める。皮膚の上を光が走り、脈打つように強弱を繰り返す。
「さくら……!?」
沙知の声が背後で跳ねた。
私は腕を引こうとしたが、身体が固まったように動かない。デバイスが、何かに強く引き寄せられている感覚だけがある。
思わず瞑った目を開けた時、職員室の雰囲気はガラリと変わっていた。
モニターが一斉に起動したのだ。暗かった部屋が白い光で満たされていく。
「なにが起きたの……!?」
千代をはじめ、室内の全員が驚きの目でモニターを見つめる。
さっきまで沈黙していた画面に、次々と映像が浮かび上がる。
校舎の廊下。
階段。
食堂。
校庭。
しかし、中央のモニターだけは全く異質の映像を映していた。
細い線が重なり、曲がり、接続し、幾何学的な図形をいくつも形成していく。
私は言葉を発することすらせず、ただその線の連なりを見つめた。
数秒後に構築されたもの。それは。
謎のロボットの図だった。
人型、だけれども各所が人間とは異なる比率で描かれたロボットの図。
大きく出張った肩と戦車のように太い脚部。胸には巨大なコアのような円環が存在し、背部からは翼のようなものが伸びている。
そのモニターの隅に、とある文字が書いてある。
"MODEL:ZESDIVA"
「ゼスディヴァ……?」
思わず、私はその文字を口にした。
「これが……このロボットの名前?」
――こんなものが、この世界にあるの……?
ビーッ。
突如、警報音が部屋中から響いた。何人かが耳を咄嗟に塞ぐ。
"WARNING"
ロボットの図に重なるように、『警告』の文字が表示された。




