第9話:目立つの禁止、でも手抜きはもっと禁止?
大悪魔が消滅した「奇跡」に学園中が湧く中、俺たちDクラスは他のエリートクラスと共に演習場に集められていた。
演習場には、AクラスからDクラスまでの全生徒が揃っている。 最前列には、あの「ドルマゲドン瞬殺事件」で不完全燃焼気味のカイルやリュミエール、そして指導役のクラリス先生が並んでいた。
「皆、聞け! 先日の悪魔消失は天の助けかもしれんが、我々騎士の卵がそれに甘えてはならない! 今日の訓練は対人戦、クラス対抗のサバイバルだ!」
ルールは簡単。各員に配られたバッジを奪い合い、最後に残ったクラスが勝利。 ただし、Aクラス(エリート)対Dクラス(落ちこぼれ)では勝負にならないため、他クラスがDクラスを先に全滅させるのが「お約束」のような空気になっていた。
「(……ねえロラン。Aクラスの連中、こっち見て笑ってるわよ。カモだと思われてるわ)」
アリスが不機嫌そうに呟く。横ではミナが、教え込まれた「存在遮断」のせいで隣の生徒に気づかれず、危うく踏まれそうになっていた。
「(……ちょうどいい。ミナ、お前はそのまま背景に溶けてろ。アリス、俺たちは『適当に負けたふり』をして、早めに保健室で昼寝するぞ)」
「(……了解。じゃあ、最初の魔法が飛んできた瞬間に転びましょうか)」
作戦は決まった。「華麗に負ける」だ。 だが、事態はそう上手くいかない。
「始めッ!!」
合図と共に、Aクラスのエリートたちが一斉に派手な魔法を放つ。 「火炎嵐!」 「氷結の槍!」
俺たちの元に、大量の攻撃が降り注ぐ。 よし、今だ。俺は転ぼうとした。……が。
「……あ、危ないっ! 『そよ風』!」
ミナが、反射的に魔法を放ってしまった。 彼女が放ったのは、ただの洗濯物を乾かす風。……のはずだった。 だが、俺の特訓で「光と音を曲げる」ことを覚えた彼女の風は、『空間の屈折率』をデタラメに書き換えてしまった。
「……え?」
放たれた豪華な火炎も氷も、ロランたちの数メートル手前で「ぐにゃり」と軌道を逸らし、あさっての方向――つまり、放った本人たちの足元へとUターンしていったのだ。
「ぎゃあああ!? なんで俺の魔法が戻ってくるんだ!?」 「うわああ、寒い! 凍る!!」
自爆するエリートたち。演習場は一瞬でパニックに陥る。
「(……ミナ! やりすぎだ、普通に避けろ!)」 「(……す、すみません! 怖くてつい全力で『あっち行け』って思っちゃって!)」
「(……ちっ、アリス、フォローしろ! このままだと不自然だ。俺たちが魔法を跳ね返したみたいに見える!)」
「(……わかったわよ! えいっ、『お湯』!)」
アリスが、混乱を鎮めるために「霧」を出した。 ……つもりだったが、彼女の魔力は既に常軌を逸している。 戦場全体が、一瞬で**「摂氏99度の超高圧サウナ状態」**に包まれた。
「アチチチチッ!! 何だこの霧は!? 鎧が熱せられて着ていられん!」 「視界が……! 視界が真っ白で何も見えないわ!」
エリート騎士も、聖女様も、みんな茹でダコのように真っ赤になってのたうち回っている。 そんな中、俺たちモブ三人だけが、俺の『全自動・防壁』の範囲内で、涼しい顔をして立っていた。
「……何が起きているの……?」
霧の向こうから、クラリス先生の鋭い声が響く。 彼女だけは、この異常事態の中でも冷静に「霧の発生源」を特定しようとしていた。
「(……やばい、こっち来るぞ! ロラン、早く負けたふり!)」 「(……クソッ、こうなったら最終手段だ!)」
俺は地面に大の字に倒れ込み、白目を剥いた。 「……ぐわー、やられたー。Aクラスの魔法、強すぎるぜー(棒読み)」
アリスとミナも、慌ててその隣に倒れ込む。 「……あー、熱いなー。もう動けないわー」 「……た、退学になっちゃうかもー。えーん」
数分後、霧が晴れた演習場。 そこには、なぜか全滅しているA〜Cクラスの精鋭たちと、 一番端っこで、傷一つないのに「力尽きたふり」をしているDクラスの三人が転がっていた。
「………………。」
クラリス先生の、氷のように冷たく、それでいて確信に満ちた視線が、死んだふりをする俺の背中に突き刺さっていた。




