最終話:僕らのモブ生活を守るための、最初で最後の総力戦
「……アリス、ミナ、フィオナ。アルも。……悪いが、今回は俺も少し『背景』からはみ出さなきゃいけないみたいだ」
空が割れ、漆黒の太陽が昇る。現れたのは、これまでの四天王とは次元が違う、絶望を形にしたような存在――魔王。彼が放つ圧倒的な「終焉の魔力」を前に、学園は静まり返っていた。
「ククク……よくぞ我が配下を退けた。だが、この世界は私が飲み込む。……跪け、虫ケラども」
魔王が指を天にかざす。その瞬間、世界中の魔力が枯渇し始めるほどの重圧が降り注いだ。流石のフィオナも膝をつき、アルの聖光も陰りを見せる。
「(……ロラン、これマジで洒落にならないわよ。私のヤカンが……お湯が沸かない……!)」 「(……ロランくん、怖いよ……。世界が消えちゃう……)」
俺は、頭に乗せていた瓦礫を払い、ゆっくりと立ち上がった。 そして、仲間の手を取る。
「……フィオナ、お前の『キャンセル』で、魔王の絶対防御をコンマ一秒だけこじ開けろ」 「兄様……! はい、仰せのままに!」
「アル、お前の光で、全市民の祈りを束ねて一点に集中させろ。眩しすぎて誰も俺を見られないくらいにな」 「分かったよ、ロランくん。君を『伝説』にはさせない。最高の『目隠し』をあげる!」
「ミナ、アリス。お前たちは風と蒸気で、俺の『気配』を宇宙の果てまで拡散して隠せ。誰にも俺がトドメを刺したと悟らせるな」 「任せなさい! 最高の蒸し風呂にしてやるわ!」 「……うん、ロランくんを世界で一番『見えない人』にするね!」
連携・「名もなき一撃」
「何をごちゃごちゃと……死ね!!」 魔王が虚無の波動を放つ。だが、フィオナの執念が無効化の盾となり、アルの光が闇を切り裂き、アリスとミナの魔力が俺の輪郭を「風景」に溶け込ませた。
魔王の目には、俺が見えていない。 目の前にいるのは、ただの「風」であり「光」であり「蒸気」だ。
俺は、腰に下げていたボロボロの演習用の木剣を抜いた。 「……悪いな、魔王。お前がいると、明日からの『昼寝』が台無しなんだ」
俺が踏み込んだ一歩。それは、誰の記憶にも残らない、歴史に刻まれない、究極の「モブ・ストライク」。
ドォォォォォォン!!
魔王の胸を、ただの木の棒が貫いた。 魔力ではない、ただの「日常を取り戻すための意志」が、不死身の魔王を内側から崩壊させていく。
「バカな……。私は……誰に……敗れた……のだ……?」
「……ただの、通りすがりのDクラスだよ」
エピローグ:そして、変わらない日常へ
魔王が消滅し、空には美しい青空が戻ってきた。 王宮は大騒ぎになり、騎士団は「奇跡の光」を称え、民衆は「神」に感謝を捧げた。
だが、そこには誰の姿もなかった。
数日後。学園の裏山。
「……あーあ。結局、魔王を倒した功績は『謎の光』ってことになったわね」 アリスが相変わらずヤカンでお茶を淹れている。
「……ロランくん、お疲れ様。はい、メロンパン」 ミナが、またどこからか買ってきたパンを俺に手渡す。
「兄様。騎士団のトップ、1位が空席になりました。ご褒美の準備、忘れていませんよね?」 フィオナが、さらに磨きのかかった美貌で俺の隣に座り、不敵に微笑む。
「……ああ、分かってるよ。何でも一つ、だったな」
俺は空を見上げた。 相変わらず俺はDクラスの劣等生で、名前を覚えている奴も少ない。 でも、隣には最高に騒がしくて、最高に最強な仲間たちがいる。
「……とりあえず、明日の授業、一緒にサボるか」
俺たちは笑い合い、秋の柔らかな日差しの中で、誰にも知られない「最高のモブ生活」を再開した。
【完】




