第36話:VS 嵐のゼノス ~モブ、究極の最適解を見出す~
空を見上げれば、山のような巨躯を誇る竜騎士ゼノスが、禍々しい魔力を放ちながら学園を見下ろしている。下界では騎士団が右往左往し、生徒たちが悲鳴を上げて逃げ惑う地獄絵図だ。
だが、俺、ロラン・ド・モールは確信した。
「(……ロラン! 何してるのよ、あんたも戦いなさいよ! あのトカゲ、絶対こっちに気づいてるわよ!)」 アリスが焦って俺の襟足を掴んで揺さぶる。
「(……ロランくん、フィオナちゃんがもう空中で殺し合いを始めちゃった……! 助けに行かなくていいの!?)」 ミナも、透明化したまま俺の周りをぐるぐると走り回っている。
俺は、手元に残ったメロンパンの最後のひとかけらを口に放り込み、冷静に言った。
「……落ち着け。よく見てみろ。俺が出る幕なんて、微塵もないから」
空中の蹂躙
「我が嵐で消え去れ! 『デス・ストーム』!!」 ゼノスが叫ぶ。空を切り裂く暗雲から、あらゆる物質を粉砕する真空の刃がフィオナに降り注ぐ。
だが、フィオナは剣すら抜かない。 「兄様への供え物に傷がつきます。……『キャンセル(無効化)』」
彼女が指をパチンと鳴らした瞬間、天を覆っていた嵐が、まるで打ち水で埃が消えるように霧散した。
「なっ……!? 我が奥義を……無効化しただと……!?」
「驚くのは早いです。……次は、貴方の『滞空権』を没収します」
フィオナが空中で一歩踏み込むと、ゼノスとその巨大な相棒の竜を、数千倍の重力が襲った。 「ぎゃあああ!? 重い、身体が……墜ちるッ!!」
モブ、悟りを開く
ドォォォォォン!! という凄まじい地響きと共に、学園の広場(俺から500メートルほど離れた安全圏)に四天王が突き刺さる。
「……ほらな、言ったろ?」
俺は岩陰で、さらに深く腰を下ろした。 あそこには今、仕事を奪われて激怒している「国内5位」のフィオナがいる。 さらに、騒ぎを聞きつけて「国家守護神」アルが神殿から光速で飛んできているのが見えるし、何なら「影の顧問」ミナに良いところを見せようと、諜報部員たちが数百人単位で包囲網を敷いている。
「……いいか、アリス。俺があそこに行ってみろ。フィオナには『兄様に見惚れて隙ができた』と怒られ、アルには『ロランくんも一緒に神殿に来て!』と拉致され、諜報部には『伝説の黒幕が動いた!』と号外を出される」
「(……それは……そうね。あんたが行く方が、事態が悪化するわね……)」
「だろ? だから俺は、ここで『怯えて逃げ遅れた一般生徒A』として、この瓦礫の下に隠れているのが正解なんだ」
俺は、ちょうど良い感じに崩れた校舎の破片を頭に乗せ、死んだふりを決め込んだ。 「おのれ魔王軍……怖いよぉ……助けて……(棒)」
「(……ロランくん、演技が下手すぎて逆に目立ってる気がするけど……。でも確かに、フィオナちゃん一人で四天王が泣き叫んでるから、大丈夫……なのかな?)」
目の前では、フィオナがゼノスの竜の角を素手でへし折り、「次の四天王を呼びなさい。私の『ご褒美』が間に合いません」と無慈悲に宣告していた。
俺は、爆風で飛んできた自分のノートをそっと回収し、心の中で呟いた。 (頑張れフィオナ。お前が頑張れば頑張るほど、俺の存在感はゼロに近づく。これぞ完璧なウィン・ウィンだ……!)




