第31話:史上最強の事務処理官(フィオナ)
「……兄様、ご報告します。騎士団の事務および治安維持業務、すべて『最適化』を完了しました。今、騎士団本部は……とても静かです」
裏山でメロンパンを分かち合う、束の間の休息。フィオナが差し出してきた業務報告書には、およそ一人の騎士が数年かけてこなす量の仕事が「済」のスタンプで埋め尽くされていたロランが「強さ以外を学べ」と言ったあの日から、フィオナの騎士団での日常は一変した。 彼女は剣を振る時間を削り、その有り余るスペックをすべて「業務効率化」に叩き込んだのだ。
09:00 書類整理(物理)
騎士団本部に山積みになっていた、数十年分の未整理書類。 フィオナはそれらを空中に浮かせると、精密な魔力操作で「内容別」「緊急度別」「筆跡別」に一瞬で仕分けした。 「……文字を読む必要はありません。紙の魔力残滓から重要度を判別すれば、0.5秒で片付きます」 あまりの速度に、事務方の騎士たちはペンを握ったまま石化した。
13:00 王都パトロール(威圧)
「市民の愛を勝ち取れ」という兄の言葉を受け、彼女は街へ出た。 だが、彼女がただ歩くだけで、路地裏の不届き者たちはその「絶対零度の気配」を察知して自首。 逃げ遅れたスリが彼女と目が合った瞬間、恐怖のあまり「私は生まれ変わります!」と叫んで、街のゴミ拾いボランティアへとジョブチェンジした。 結果、その日の犯罪率は「0%」を記録。フィオナが通る道は、市民が遠巻きにひざまずく「静寂のパレード」と化した。
16:00 騎士団会議(独裁)
「……その予算案は非効率です。この訓練施設を建設するより、私が各員の脳内に直接『理想の戦闘イメージ』を投影(強制同期)すれば、費用はゼロになります」 団長をはじめとする上位陣が、彼女の「正論という名の暴力」の前に、ただ「はい、仰る通りです」と繰り返すだけのマシーンと化した。
「(……ねえロラン、騎士団の機能がフィオナ一人に集約されてるんだけど。あの子が休みを取ったら、国が滅びるんじゃない?)」 アリスが、あまりのオーバーワーク(他人の仕事まで奪うスタイル)に戦慄する。
「(……ロランくん、見て。騎士団長が、することなくなって庭でアリの行列数えてるよ……)」 ミナが、実力だけでなく「有能さ」で組織を破壊してしまった妹の現状を報告する。
「兄様。強さ以外を学んだ結果、騎士団の皆さんは私に逆らう気力を失い、市民は私を『不可視の法』として崇め始めました。……これで、トップに座る資格は得られたでしょうか?」
「(……あ、これ、人望っていうか『恐怖による完全統治』だわ……)」
俺は妹の「ご褒美」への執念が、王国を「フィオナによるディストピア」に変えつつあることに気づき、遠い目をした。。




