第29話:親衛隊長と聖母(予定)、禁断の邂逅
「……兄様、あの『親衛隊』とかいう不敬な集団の長が、私に接触してきました」
裏山の定位置で、フィオナが眉間に皺を寄せて報告してくる。その背後には、なぜかキラキラとした眼「素晴らしい……! なんという気高さ! アル殿の『天上の美』とはまた違う、冷徹でありながらも慈愛に満ちた『戦場の美』……! これこそが我が求めていた、もう一つの至宝!」
クラリス先生が、鼻息荒くスケッチブックをフィオナに向けていた。 彼女は「面食い」としての本能が、アルに続きフィオナという「最高級の獲物」を察知したらしい。
「兄様。この女……騎士団の端くれでありながら、私に向かって『右斜め45度から、そのまま辱めを見るような目で蔑んでくれ』などと意味不明な供述を繰り返しています。……『処理』してもよろしいですか?」
「やめろ、フィオナ! その人は一応、俺たちの先生なんだ!」
俺は必死に妹の剣の柄を押さえた。だが、クラリス先生の暴走は止まらない。
「ロランくん! 君、こんな素晴らしい妹がいるなら、なぜもっと早く言わなかったんだ! アル殿が『光の守護神』なら、彼女は『闇の聖母』……! 二人が並べば、この学園は……いえ、この大陸は美しさで滅びるわ!」
「先生、落ち着いてください。フィオナは今、騎士団で『人望』を学ぶ修行中なんです。変な趣味を植え付けないでください」
「人望!? ならば丁度いい! フィオナ殿、我が『アルセウス親衛隊』の一部を、貴女の『フィオナ親衛隊』として割譲(譲渡)しましょう! 貴女のカリスマ性に、喉を鳴らして待機している乙女たちが70人……いえ、今や300人はいます!」
「(……ロラン、これ最悪の化学反応じゃない? 宗教と軍隊が合体しようとしてるわよ)」 アリスがドン引きしながら、ヤカンのお湯でクラリスの頭を冷やそうとしている。
「(……ロランくん……。親衛隊の人たちが、もう騎士団の門の前に並んで『フィオナ様、お踏みください!』って横断幕出してるよ……)」 ミナが絶望的な速報を届けてきた。
「……親衛隊? 兄様、これは……私が学ぶべき『人望』の一種なのでしょうか?」
「いや、それは人望っていうか、もっと業の深い何かだ。絶対に近づくな!」
俺の制止も虚しく、フィオナの瞳に「新たな掌握の形」が灯ってしまった。 彼女のストイックすぎる「人望修行」に、クラリス率いる「変態的な忠誠心」が融合した時、学園と騎士団を跨ぐ史上最強の「双子神(アル&フィオナ)教団」が誕生しようとしていた。
俺の平穏なモブ生活は、またしても身内と恩師の手によって、キラキラと輝く地獄へと突き落とされたのだった。差しでフィオナを見つめる「あの人」の姿があった。




