第26話:トップ5の絶望、あるいは天才の基準
「……兄様、申し訳ありません。私は、無能です……。死んでお詫びを……!」
騎士団の入団試験から数日後。裏山に現れたフィオナは、これまでの自信に満ちた姿が嘘のように、地面に膝をついて激しく落胆していた。その手には、最新の「騎士団序列名簿」が握りしめられている。
「おい、フィオナ、落ち着け。……で、結果はどうだったんだ?」
俺が恐る恐る尋ねると、フィオナは血を吐くような思いでその名簿を差し出してきた。
「……第5位。たったの、5位です。兄様に『騎士団を掌握しろ』と命じられたのに、私は現役の副団長ら4人を抜くことができませんでした……。トップになるどころか、片手で数えられる順位に甘んじるなんて、モール家の面汚しです!」
「(……ロラン、あの子今なんて言った? 入団数日で副団長クラスをボコボコにして、国で5番目に強くなっちゃったってこと?)」 アリスがヤカンを落としそうな勢いでドン引きしている。
「(……うん。しかも、本気で『負けた』と思って落ち込んでるよ。……上位4人、命拾いしたね……)」 ミナも、透明化したままガタガタと震えている。
そう、フィオナは「入団初日にトップになる」という、物理的に不可能なスケジュールを本気で実行しようとしていたのだ。現役の騎士団長たちは、数十年かけてその座を築いてきた化け物揃い。それを数日で5位まで食い込んだのは、もはや人類の歴史を塗り替えるレベルの快挙なのだが。
「兄様……。こんな不甲斐ない私に、ご褒美をもらう資格はありません。……今すぐ騎士団を辞め、Dクラスで兄様の身の回りの世話(と、不届き者の排除)に専念します!」
「待て待て待て! 待てフィオナ! 5位はすごいんだ! 全然無能じゃない!」
俺は慌てて、絶望のあまり自害しそうな妹の肩を揺さぶった。
「いいか、これは『試練』だ! 最初から1位になったら、お前の伸び代がなくなってしまうだろ? 5位からじわじわと上位を追い詰めていく……それこそが、敵に恐怖を与える『真の隠密・プレッシャー』なんだよ!」
「……隠密、プレッシャー?」
「そうだ。上が『いつ首を獲られるか』と怯えながら震える日々を作る。それこそが騎士団掌握の第一歩だ。だから、お前はそのまま騎士団に留まり、虎視眈々と1位を狙い続けろ。……な?」
フィオナの瞳に、再び怪しい光が戻ってきた。
「……なるほど。一瞬で終わらせるのではなく、恐怖を植え付けながら支配を広げる。流石は兄様、深謀遠慮が過ぎます……! 分かりました。上位の4人には、明日から『生きた心地のしない毎日』をプレゼントして差し上げます!」
(……ごめん、騎士団の上位陣。俺のせいで、お前らの日常に死神が定住することになったわ)
こうして、フィオナは「ご褒美」を先延ばしにされたことで、さらに飢えた獣のような気迫で騎士団へと戻っていった。 俺の平穏は守られたが、王国の防衛の要である騎士団の精神衛生は、今、まさに崩壊の危機に瀕していた。




