第25話:兄の嘘と、妹の猛進
「……フィオナ、よく聞け。Dクラスは『隠れる場所』であって、お前のような逸材が『燻る場所』じゃないんだ」
俺は、目を輝かせて俺の隣に座ろうとするフィオナの肩を掴み、かつてないほど厳格な、いわゆる「理想の兄」の顔を作った。
「兄様……。私をDクラスから追い出すというのですか? 私はただ、兄様の影として、兄様を脅かす不届き者を根絶やしにしたいだけなのに……」
フィオナの瞳にみるみる涙が溜まっていく。周囲(主にアリスとミナ)からは「ロラン、鬼畜ね」「……妹泣かせるのは良くないよ……」という冷たい視線が刺さる。だが、ここで折れたら俺のモブ生活は、妹の「過剰防衛」によって物理的に崩壊する。
「違うんだ、フィオナ。これはお前にしかできない『極秘任務』なんだよ」
「極秘……任務?」
俺は声を潜め、いかにも「裏の組織のボス」のような雰囲気で囁いた。
「いいか。今、王国騎士団は腐敗している(適当)。このままでは俺たちの平穏な生活も、いつか権力争いに巻き込まれるだろう。そこでだ……フィオナ、お前が騎士団に入り、その圧倒的な実力でトップに登り詰め、騎士団を完全に掌握してほしい」
「私が、騎士団の頂点に……?」
「そうだ。お前が頂点に立ち、外敵をすべてシャットアウトする最強の防壁になれば、俺は学園で心置きなく『ただの背景』になれる。これこそが究極の兄弟連携だとは思わないか?」
フィオナの表情が、絶望から驚喜へと一変した。
「……なるほど! 兄様は、私を『盾』として、ご自身は『世界の観測者』として君臨されるのですね! 素晴らしい……なんて合理的で美しい計画なのでしょう!」
「(……いや、そこまで言ってねえけど、まあいいか)」
俺はトドメの一撃を放った。
「もし、お前が本当に騎士団のトップになったら……その時は、何でも一つ、お前の望む『ご褒美』をやってやろう。……兄としてな」
その瞬間、フィオナから立ち上る魔力が、学園の校舎を微かに揺らした。
「……分かりました、兄様。そのご褒美、謹んでお受けいたします。……首を洗って待っていてくださいね、騎士団の皆様。兄様との『誓い』のため、最短ルートで蹂躙させていただきます」
フィオナは、もはやDクラスの教室に未練などないと言わんばかりの速度で立ち上がり、そのまま騎士団の入団試験会場へと(窓から飛び降りて)直行していった。
「……行ったわね。……ねえロラン、あんた最後の一言、絶対に後悔するわよ」 「……うん。あの目、完全に『兄様を合法的に監禁する権利』とか狙ってる目だったよ……」
アリスとミナの予言を背に受けながら、俺はとりあえず「目の前の爆弾」を遠くに投げることに成功した安堵感に浸っていた。 ……それが、数ヶ月後に「史上最年少の女騎士団長」という、さらなる巨大な爆弾になって帰ってくるとは、この時の俺はまだ知らない。




