第21話:天才役者アル、神から「悪役」へジョブチェンジ
「……ふっ、ふふ……。愚かな人間どもめ。我が美貌に惑わされるとは、救いようがないな」
裏山の影。ロランたちの「戦略的無視」が始まって三日後。そこには、髪をかき上げ、尊大な態度で空を見上げるアルの姿があった。
「(……ねえロラン、あの子どうしちゃったの? 寂しさのあまり、ついに頭が『キャンセル』されちゃったの?)」
岩陰からこっそり様子を伺うアリスが、引き気味に呟く。 だが、俺はアルの瞳の奥に宿る「必死さ」を見逃さなかった。
「(……違う。あれは演技だ。あいつ、自分を『最低の性格の持ち主』に見せることで、親衛隊を幻滅させようとしてるんだぞ)」
そう、アルの作戦はこうだ。 「神聖で清らかな聖者」だからモテる。ならば、「傲慢で、口が悪く、性格のひん曲がったナルシスト」になれば、面食いのクラリス先生たちも愛想を尽かすはずだ――。
「おい、そこらの雑草(生徒)ども! 我が歩く道にレッドカーペットが敷かれていないのはどういうことだ!? 教育がなっていないな!」
アルが、親衛隊(と、隠れて見ている俺たち)に向かって、わざとらしい高笑いを響かせる。
「(……ぷっ。あいつ、慣れないことして顔が引きつってるぞ)」 「(……でも、ロランくん。見て……親衛隊の反応……)」
ミナが指差す先。クラリス先生率いる70人の親衛隊は、絶望するどころか――。
「……あ、アル様が……! ついに、高貴な本性を現されたわ……!」 「あの蔑むような視線……! 『雑草』と呼ばれたわ! 私、今、アル様の視界の中で雑草になれたのね!!」 「きゃああああ! ドSなアル様も素敵すぎて、心臓がオーバーヒートしちゃう!!」
クラリス先生に至っては、「……素晴らしい。あの傲慢な演技力……いや、あれこそが真の王者の風格! 記録せよ、今日のアル殿は『暴君モード』であると!」と、鼻血を出しながら猛烈な勢いでメモを取っていた。
「(……ダメだ。あいつら、属性の守備範囲が広すぎる)」
アルは、俺たちの方をチラリと見て、「……ど、どう? これで嫌われるよね?」という絶望的な助けを求める視線を送ってきたが、俺は無慈悲に親指を下に向けた。(もっとやれ、という意味だ)
「……フン、見ていろ。我が力をもってすれば、この学園の食堂のメニューを、すべて僕の好きな『メロンパンの皮』だけに変えることなど造作もないことだ!」
「「「「素敵です、アル様ーー!!」」」」
アルの「嫌われ役」への挑戦は、皮肉にも彼女たちの「マゾヒズム」に火をつけてしまい、親衛隊の結束はさらに強固なものへと進化してしまったのだ。
「……ロラン、あの子を止めてあげなさいよ。もう見ていられないわ」 「……いや、もう一押しだ。アル、次は『成金趣味』だ! 派手な成金を目指せ!」
俺は影から、新たな指示(無茶振り)を出す。 アルの「演技」という名の迷走は、平穏とは真逆の方向へ、加速しながら突き進んでいくのだった。




