第20話:モブ、戦略的撤退(冬眠)を宣言する
「……ロラン、すまない。本当に、本当にすまない……!」
翌朝、親衛隊の包囲網から命からがら抜け出してきたアルが、俺の寮の部屋に転がり込んできた。その後ろからは「アル様、どこへ!」「アル様の残り香がこちらに!」という凄まじい足音が聞こえてくる。
俺は悟った。これに巻き込まれたら、俺の「モブ人生」が物理的に終わる。
「……いいか、アル。よく聞け」
俺は震えるアルの肩を掴み、かつてないほど真剣な目で見つめた。
「俺は決めた。お前の『神格化』のほとぼりが冷めるまで、俺とアリスとミナは、お前との関係を完全に断つ。……いわゆる、**『他人のフリ』**だ」
「ええっ!? ロランくん、僕を見捨てるの!?」
「見捨てるんじゃない。これは高度な生存戦略だ。今、俺たちが下手に助けようとしたら、クラリス先生率いる70人の狂信者に『聖なるアル様の親友』として特定される。そうなれば、俺たちのプライバシーは消滅し、24時間監視体制の『聖域の住人』に祭り上げられるんだぞ!」
想像してほしい。俺が昼寝している横で、70人の女子生徒が「アル様の友人の寝顔、尊い……」とか言いながらスケッチしている地獄を。
「……ロラン、あんたの言う通りね。私、あんな熱気に当てられたら、お湯を沸かす前に私が蒸発しちゃうわ」 「……私も……。気配を消しても、あの親衛隊の執念なら見つかっちゃう気がする……」
アリスとミナも、俺の「冷徹な決断」に即座に同意した。
「というわけでアル。お前は今日から、公式には『生徒会に選ばれた孤高の聖者』だ。俺たちは『ただのDクラスの石ころA、B、C』として振る舞う。いいな、絶対に話しかけるな。目が合っても『あ、ゴミが落ちてるな』くらいの顔をしろ」
「そんなぁ……! 唯一の心の支えだったのに……!」
アルの悲鳴を無視して、俺は彼を部屋の外へ押し出した。 直後、廊下の角からクラリス先生率いる「親衛隊」が突撃してくるのが見えた。
「いたぞ! アル殿だ! アル殿が、よりによってこんな地味で薄汚いモブの部屋の前に……! きっと、迷える子羊に慈悲をかけておられたのだわ!」
「……あ、どうも。お掃除ご苦労様です。あ、ゴミ箱あっちっすね」
俺は死んだ魚のような目で、モップを持って廊下を掃除する「ただの清掃員風モブ」になりきり、彼らの横をすり抜けた。 アルが必死にこちらを振り返り、涙目で「助けて」と訴えてくるが、俺は一切目を合わせない。
(……すまねえアル。お前がそのオーラを自力で『キャンセル』できるようになるまで、俺たちは冬眠させてもらうぜ……)
こうして、ロランたちは「最強の隠蔽」を自らに課し、学園の歴史から完全にその影を消した。 一方、アルは「孤独な神」として祀り上げられ、生徒会室という名の神殿で、マリア会長と狂信者たちに囲まれる激動の日々が始まるのだった。




