第2話:モブとモブが手を組むと、だいたい変なことになる
「……ねえ、本当にこれで強くなれるの?」
隣でジト目を向けてくるのは、同じDクラスの女子生徒、アリスだ。 彼女も俺と同じ。茶髪を適当に結んだだけの、ゲームの立ち絵すら怪しい「モブ女子A」である。
「たぶんな。ほら、アリス。その指先に魔力を込めて、こう、シュッとしてドカンだ」
「説明が雑すぎるんだけど!? そもそも私、魔法適性『生活魔法』しかないんだよ? お湯を沸かすとか、服を乾かすとか……」
「いいじゃねえか、お湯。沸騰するってことは熱いんだろ? それをギュッと凝縮して飛ばせば、相手はアチチってなる。立派な攻撃だ」
俺の適当な理論に、アリスは「はあ……」と深くため息をついた。 だが、彼女も俺と同じ「魔王軍イベントで死ぬ側」の人間だ。 俺が「死にたくなかったら特訓しようぜ」と誘ったら、半信半疑ながらもついてきた。
「いいかアリス。メインキャラたちは『聖なる光』とか『爆炎』とか派手なのを出すけど、あんなの燃費が悪いだけだ。俺たちの目標は、省エネで確実に生き残ること。つまり――『見えない、避けられない、でも当たると超痛い』だ」
俺は指先から、極細の熱線をスッと出した。 それは音もなく空気を切り裂き、遠くの木の枝を一本だけ、音もなく地面に落とした。
「……今、何したの? 魔法の音もしなかったけど」
「音を出すのは魔力の無駄遣いだ。ただ熱だけをそこに置く。アリスもやってみろ。お湯を沸かすイメージを、指先の1ミリ先に集中させるんだ」
アリスは渋々、俺の真似をして指を突き出した。 彼女は俺と違って真面目だ。俺が教えた「魔力の圧縮」を、バカ正直に、一分、二分と繰り返す。
「……あ。なんか、熱い。指の先が、すごく熱い気がする」
「いいぞ、そのまま……あ、待て、出しすぎるな!」
シュンッ!!
アリスの指先から放たれたのは、細い針のような「超高圧熱水」だった。 それは弾丸のような速度で飛び、背後の大岩を貫通。さらに後ろの木々をなぎ倒して消えていった。
「…………え?」 「…………あ。」
アリスが呆然と自分の指先を見つめている。 ちなみに、今の威力は中級魔法『ウォータージェット』を遥かに凌駕している。生活魔法の「お湯」を圧縮しすぎて、物理的にすべてを貫通する凶器に変貌させてしまったらしい。
「アリス、お前……才能あるな」 「いや、絶対おかしいよこれ! 生活魔法だよ!? お茶淹れるための魔法だよ!?」
「まあ、お茶も熱けりゃ武器になるってことだ。深く考えるのはよそうぜ。次は『気配を消して背景になる練習』だ。ほら、あそこに王女様たちが通りかかったら、スッと岩になりきるんだぞ」
「そんなことできるわけな――」
その時、山のふもとから、キラキラしたオーラを放つ一団が見えた。 カイルとリュミエール王女たちだ。どうやら野外演習の最中らしい。
「来た! アリス、岩だ! 岩になるんだ!」 「えっ、ちょ、無理……んんんっ!!」
俺とアリスは、魔力で自分たちの存在感を極限まで薄め、泥をかぶって道端にうずくまった。 名付けて、極限魔法『背景透過』。
「……ねえ、カイル。今、何か凄い魔力の余波がしなかった?」 「気のせいだろう、リュミエール。このあたりには強い魔物もいないし……。それより、次の課題の相談なんだが」
王女様たちは、俺たちのすぐ横――1メートルの距離を通り過ぎていった。 俺たちのことは、道端の小石か何かだと思っているらしい。
「(……やったぜ、完全勝利だ)」 「(……ねえ、これ本当に騎士の特訓なの? 完全に不審者じゃない?)」
アリスの心の声が聞こえてきそうだが、俺は気にしない。 命を守るためなら、俺は喜んで背景の一部になってやる。




