第18話:隠しきれない神気と、逃げられない生徒会
「……いや、無理だろ。あいつ、立ってるだけで後光が差してやがるぞ」
裏山でアル(アルセウス)がパンを食べている姿を見て、俺は頭を抱えた。 家族を救い、憑き物が落ちたアルは、皮肉なことに以前よりも「清らかで神々しいオーラ」を放ち始めていた。本人は必死に気配を消しているつもりらしいが、その「消し方」が完璧すぎて、逆に見る者が拝みたくなるような聖域を作り出しているのだ。
「……いたわ。やっぱりここにいたのね、ロランくん」
背後から響く、凛とした声。学園最強の生徒会長、マリア・フォン・アルトワだ。 彼女は俺たち(背景)を通り過ぎ、一直線にアルの前で立ち止まった。
「(……ロランくん、どうしよう! 会長さん、私の時と同じ『獲物を見つけた目』をしてる!)」 透明化したミナが、俺の耳元でガタガタと震えながら囁く。
「……君。新入生だね? 名前は?」
「……あ、えっと……アル、です。ただの、石ころみたいなDクラスの生徒です」
アルは必死に地面を見つめ、存在感を「無」にしようとした。 だが、マリア会長の直感は、彼の足元にひざまずいて祈りを捧げている小鳥や精霊たちを見逃さなかった。
「……アルくん。君から感じるこの圧倒的な『秩序』の気配。そして、周囲の事象を『無』に帰すほどの魔力制御……。これほどの逸材を、Dクラスに埋もれさせておくわけにはいかないわ」
マリアはアルの手を、まるで聖女を勧誘する騎士のように力強く握りしめた。
「君を、生徒会の『特別相談役』として迎え入れたい。君のその力があれば、学園の風紀は……いえ、世界の平穏すら守れるはずよ!」
「い、嫌だぁ! 僕はただの背景なんです! 相談されるような器じゃないんです!!」
アルが涙目で俺に助けを求める。 だが、マリアの視線は俺にも向けられた。
「ロランくん。君が彼を『こちら側』に引き止めているのかい? 彼の才能を腐らせるのは、学園にとって大きな損失よ」
「いや、会長。こいつはただ、静かにパンを食べたいだけなんですよ。……というか、生徒会なんて入ったら、毎日書類仕事と会議で、昼寝の時間なんてゼロになりますよ?」
「……それは、私がなんとかするわ! 彼の専用の『祈りの間(仮眠室)』を用意してもいい!」
(……話が通じねえ! この人、善意で相手を追い詰めるタイプだ!)
アリスも加勢しようとしたが、マリアの圧倒的な正義のオーラの前に「……あ、お湯、沸かしましょうか?」と口走るのが精一杯だった。
「さあ、アルくん! 行きましょう、生徒会室へ! 君の新しい居場所はあそこよ!」
「ロランぐーーん!! 助けてぇーー!!」
アルは、ズルズルと引きずられるようにしてマリアに連行されていった。 後に残されたのは、アルが落としたパンの耳と、静まり返った裏山だけ。
「……ねえロラン。……これ、あの子『闇堕ち』するより過酷な運命に巻き込まれてない?」
「……ああ。ある意味、魔王軍より恐ろしい場所にスカウトされちまったな」
俺たちは、連行される新メンバーの背中に、そっと(モブらしい)敬礼を送るしかなかった。




