第15話:名前負け、時々、神の如し
「……もう、どいつもこいつも名前が重たすぎるんだよ」
ブラスタ様たちの『記憶改竄(モブ化)』作戦のおかげで、俺たちは無事、公式には「ただの地味な三人組」に戻ることができた。ようやく裏山で静かに昼寝ができる……と思っていた矢先。
俺たちの「聖域」に、また一人、見慣れない男が座り込んでいた。
「あ……。ごめん、ここ君たちの場所だった?」
振り返ったのは、透き通るような白銀の髪をした少年だった。 顔立ちは整っているが、どこか世捨て人のような、あるいは「自分がここにいていいのか」と常に自問自答しているような、ひどく儚い雰囲気の持ち主だ。
「(……ロラン、見て。あの子、座ってるだけで周囲の精霊が整列してるわよ。……しかも、お辞儀してるし)」 「(……ミナ、落ち着け。……というか、あいつの魔力、計測不能だぞ)」
俺は警戒しつつも、努めて平然と声をかけた。
「いや、いいよ。ここ、公共の山だしな。……あんた、名前は?」
すると、少年はひどく申し訳なさそうに、眉を下げてこう言った。
「……アルセウス。……っていうんだけど、できれば『アル』って呼んでほしい。その、たいそうな名前で呼ばれるのは……すごく、心苦しいんだ」
(……アルセウスだと!? 世界を創りそうな名前してんな!)
「アルセウスくん、か。いい名前じゃない。強そうだし」 アリスが何気なく言うと、アルはガタガタと震え出した。
「やめてくれ……! その名前のせいで、実家では『神の再来』だの『創造主の化身』だの言われて、毎日祭壇に座らされてたんだ。僕はただ、静かに……そう、パンの耳とかをかじりながら、背景として生きたいだけなのに……!」
俺は、その瞬間。彼が「こちら側」の人間であることを確信した。
「……アル。あんた、苦労してきたんだな」 「……君こそ、その『存在を世界から消している』ような独特の気配……。君も、目立ちたくない派なのか?」
俺とアルは、言葉を交わさずとも固い握手を交わした。 どうやら彼は、生まれ持った「あまりにも高すぎる適性」と「神々しい名前」から逃げるために、この学園のDクラスに身を隠しに来た究極の逃亡モブだったらしい。
「よし、今日からあんたも仲間だ、アル。……ところでアル、あんたの得意魔法は何だ? 名前に見合うような派手なやつか?」
「……いや。僕はただ、**『無』**にするだけだ。何かが起きそうになったら、それを『なかったこと』にする。……あ、今、そこの茂みに魔物が現れようとしたけど、消しておいたよ」
アルが指をパチンと鳴らすと、出現しかけていたAランク魔獣の予兆が、因果律ごと霧散した。
「(……アリス、今の見たか?)」 「(……見たわ。……ねえロラン、このグループ、どんどん『モブ』の定義から遠ざかってない?)」
「いいんだよ、本人が『アル』って呼ばれたいって言ってるんだから。俺たちはアルを、全力で『ただの白髪の少年A』として扱う。それが、モブ同士の礼儀だろ」
こうして、俺たちの「ゆかいな仲間たち」に、名前だけは世界最強の少年・アルが加わった。 俺たちの平穏は、さらに「強固な無」によって守られることになったのだ……たぶん。




