第14話:モブの告白、あるいは平穏への嘆願
「……もう限界だ。これ以上、伝説の連中に追い回されたら、モブとしての俺の精神が死ぬ」
俺は覚悟を決めた。アリスとミナを連れて、学園の奥にある旧校舎の屋上に、ブラスタ、マリア、そしてクラリス先生を呼び出したんだ。
「……わざわざ呼び出すなんて珍しいわね、ロランくん。私たちに、ついに本気を見せてくれる気になったのかしら?」
マリア会長が期待に満ちた目で俺を見る。クラリス先生は手帳を構え、大賢者ブラスタは浮遊椅子に座ってニヤニヤしている。
「いいえ、逆です。……単刀直入に言います。あんたたち、もう俺たちに構わないでくれ!」
俺は深々と頭を下げた。アリスとミナも、俺に続いて必死に頭を下げる。
「……は? 構うなとは、どういうことじゃ?」
ブラスタが不思議そうに眉をひそめる。
「俺たちは、ただの『背景』でいたいんです。俺たちが修行してるのは、世界を救うためでも、騎士団の頂点に立つためでもない。中盤の……あ、いや、いつか来る魔王軍の襲撃イベントで、名前も出ずに死ぬのが嫌なだけなんです!」
俺は、自分が転生者であることや、この先の破滅の運命を知っていることは伏せつつも、自分たちの「異常な強さ」が、単なる極度の**「生存本能」**の結果であることをぶちまけた。
「いいですか。俺が指からビームを出すのは、敵を瞬殺して早く寝たいから! アリスが魔法でお湯を沸かすのは、快適な風呂に入りつつ敵を蒸発させたいから! ミナが透明になるのは、誰とも関わらずに過ごしたいから! 全部、『怠惰に生き残るため』の技術なんです!」
屋上に沈黙が流れる。
「……つまり、君たちはその神の領域に近い力を、ただの『平穏』のために使っているというのか?」
クラリス先生が呆然と呟く。
「そうです! だから、俺たちを特別扱いしないでください。カイル(主人公)を鍛えてやってください。あいつが目立って魔王を倒してくれれば、俺たちは背景として平和に暮らせるんです。俺たちをMVPにしたり、生徒会に誘ったりするのは、俺たちの生存戦略の邪魔なんです!」
「……くっ、ふふ……あはははは!」
突然、マリア会長が腹を抱えて笑い出した。
「面白いわ。あんなに強いのに、望みが『目立たないこと』だなんて! でもロランくん、君たちが凄すぎて、逆に気になっちゃうのはどうしようもないわよ?」
「そこをなんとか! この通りです! 俺たちの存在を、公式記録から抹消してください。ブラスタ様なら、学園の記憶をちょちょいと操作して『Dクラスには地味な三人組しかいない』って認識を広めることくらい、簡単でしょ!?」
ブラスタは顎をさすりながら、ニヤリと笑った。
「ほっほっほ……。わかったわい。その『贅沢な暇乞い』、聞き入れてやろう。ただし条件がある」
「条件?」
「たまには、わしの足湯に付き合え。……それと、カイルが本当に行き詰まった時だけ、影からこっそり助けてやってくれ。それなら、わしが全力で君たちの『背景化』に加担してやろう」
「……約束します。カイルのケツは、見えないところから蹴っ飛ばしてやりますよ」
俺は、ようやく心からの安堵の溜息をついた。 こうして、学園の権力者たちと俺たちの間に、「最強の隠蔽工作」という名の密約が交わされたのだ。




