第11話:生徒会長は、かつての親友(モブ)を忘れない
「……げっ、また『名前付き』の有名人が来た。しかも今度は、この学園の頂点かよ」
大賢者ブラスタがブツブツ言いながら去っていった直後。演習場に、眩いばかりのオーラを纏った女子生徒が現れた。 長く波打つプラチナブロンド、そして背負った大剣。 生徒会長にして、現役の騎士を凌駕する実力者と謳われる「マリア・フォン・アルトワ」。
(……マリア会長。ゲームでは、カイルのよきライバルであり、中盤の最強助っ人。正義感の塊みたいな、一番モブと相性が悪いタイプだ)
俺が「死んだふり」を継続しようとしたその時。マリア会長が、信じられないほどのスピードで俺たちの元へ駆け寄ってきた。
「……あ! やっぱり、ミナ!? ミナだよね!」
「ひゃぅっ!? ま、マリアお姉ちゃん……!?」
ステルス(透明化)を維持していたはずのミナが、驚きのあまり術を解いてしまった。 会長はミナの手をぎゅっと握りしめ、顔を輝かせている。
「よかった、元気そうで! 田舎の村を出てからずっと心配していたのよ。……って、どうしてそんなに影が薄くなっているの? あやうく見逃すところだったわ」
「(……ロランくん、どうしよう! 会長、私の幼馴染で……昔からすごく仲が良かったの!)」
ミナが真っ青になって俺に視線で助けを求めてくる。 マリア会長は、ミナの隣にいる俺とアリスを、鋭い――しかしどこか慈愛に満ちた目で見つめた。
「……ミナを助けてくれているのは、君たちかな? 私はマリア。彼女の幼馴染だ。ミナは昔から引っ込み思案だったから、こうしてDクラスで仲間に恵まれているのを見て安心したよ」
「……あ、どうも。出席番号32番のロランです。趣味は、壁の色と一体化することです」
「ふふ、冗談が好きなんだね。……でも、おかしいな」
マリア会長が、俺の胸元にそっと手をかざした。 彼女の掌から、暖かな、しかし鋼のように強靭な魔力が流れ込んでくる。
「君たち三人の心拍数……。私のプレッシャーを目の前にして、一回も乱れていない。まるで、最初から私がここに『いない』かのように、あるいは私が『止まって見える』かのように……」
(……マズい。会長は騎士団よりも鋭い『武の直感』を持ってやがる!)
「ミナ。君もだ。さっき、一瞬だけ見えた魔法の残滓……あれはただの『微風』じゃない。因果を捻じ曲げるような、もっと根源的な……」
「そ、それは……! ロランくんが『洗濯物がよく乾くように』って教えてくれただけで……!」
「(……ミナ、墓穴を掘るな!!)」
マリア会長の目が、すっと細められた。 彼女は、腰の大剣の柄に手をかけた。
「……ロランくんと言ったね。一つ、頼みがある。ミナの親友として、君たちの実力を確かめさせてほしい。……手加減はしない。全力で、私を『背景』だと思って戦ってくれないか?」
「(……断れる空気じゃねえな、これ。アリス、どうする?)」
「(……やるしかないわね。でも、会長を傷つけたらそれこそ退学よ。……あ、そうだ。会長を『お湯』で包んで、眠くさせちゃうのは?)」
「(……よし、採用だ。名付けて『露天風呂作戦』で行くぞ)」
こうして、学園最強の生徒会長と、最強を目指したくないモブ三人の、極秘の「親睦会」が始まってしまった。




