06.美海の居場所
美海が帰宅すると父親はまだ帰宅していなくて、母親だけが夕飯の支度をしていた。
母親に帰りが遅いことを咎められつつも、理由を説明して謝って風呂に入る。
三海はぼんやりと湯船に浮かぶアヒルを眺めた。
「はあ」
ため息をつく。今日は本当に空き地に行ってよかったのだろうか?
夜と詩音の邪魔になっただけでは?
美海はぶくぶくと泡を吐いた。
ここ数日、美海は毎日同じことを考えていた。
昼過ぎには空き地に行くか行くまいか悩み、帰宅してからは行ってよかったのかどうか悩んだ。
悩んでも仕方がないし、夜と詩音はそんな関係じゃないし、二人とも美海のことを邪険にしたりはしない。
そう、わかっているのに。
「美海ー、そろそろお父さん帰ってくるからお風呂出なさい」
「はーい」
母親の声にはっとして、美海は風呂から上がる。最近はそうやって悩んでばかりで、ついつい長風呂してしまうのだ。
リビングに行くとテーブルには夕飯が並び始めている。美海も母親に指示されて皿や箸を並べる。
「今日もトマト?」
「明日もトマトよ」
美海がうんざりしたような声を出すと、母親もうんざりしたように返事をした。
「飽きた」
「私だって飽きたしレパートリー尽きるし困っているの。でもお義母さんが無限に送ってくるんだもの。食べないわけにいかないじゃない」
「全部お父さんが食べればいいのに」
「そうお父さんに言ってみなさいよ。たぶん泣くから」
母親は諦めたような顔で言った。
たぶんもう言ったことはあって、父親は「匠海と美海は喜んで食べているじゃないか」とかなんとか答えたに違いない。
匠海は美海の五つ年上の兄で、今は高校受験に向けて塾の夏期講習に行っていた。
父親が仕事帰りに回収して、一緒に帰ってくるだろう。
祖母と母親の複雑な関係に、子供たちを挟んでなあなあにするのは父親の悪い癖だ。
美海は母親と同じような顔で笑って見せた。
夕飯を食べながら三海はぼんやりと考えた。
今頃、夜は、詩音はなにをしているのだろうか。
夜は同じように家族と夕飯を食べているだろう。
でもきっと全く同じではない。
夜が夜の母親と仲が良くないことくらい、美海は知っていた。
なにせ田舎なので、そういった情報が夜からだけではなく、母親からも聞かされる。
そして詩音はどうしているだろうか。詩音も家族と仲が良くないようなことを前に言っていた気がする。だから帰りたくないのだと。
夜と詩音はそういう意味で共通しているから仲がいいのだろうか。だから私は。
そこまで考えて美海は止めた。きっとそれ以上考えても答えなんてないし、自分が嫌なやつになりそうで、それが嫌だった。
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