04.夜の友達
夏休みの間、夜はほぼ毎日、空き地で詩音と美海と会っていた。
会わないのは夜の父親が休みのときくらいで、それ以外は極力外にいるようにしている。
そうしないと、母親がずっと夜のそばにいて邪魔だからだ。
やれ、宿題は予習はお友達は手伝いは趣味は……挙げだしたらきりがない。
「本当に、ぼくをなんだと思ってんだろ」
「どうしたの夜」
「なんでもないよ」
夜の独り言に隣りに、座る美海が首を傾げた。
しかし、家のことを話したくない夜は首を振った。
せっかく大好きな二人とのんびり過ごしているのに、つまらない話なんてしたくなかった。
「そう?」
「ねー、かまきり!!」
美海が何か言いたげに、でもなにも言わずに目を伏せると、空き地の反対側で詩音が手を振った。
手には捕まえられたらしいカマキリがいる。夜が呆れた風に笑って、美海も笑顔になる。
「このかまきりはオスかな、メスかな」
「離してやりなよ」
「ええ、もったいない」
「かわいそうだろ」
「そうかなあ。ま、持っててもしょうがないか」
詩音はかまきりを元の草むらに戻した。
生い茂る草と重なって、かまきりはすぐに見えなくなった。
それを見送ってから、詩音は美海の隣に座る。
「今日も暑いねえ」
「そだね。もうずっと暑いってさ」
「そっか。でも詩音は暑いの好きだから嬉しいや」
「わたしは苦手だなあ」
夜はそんな二人を横目に草むらを眺めた。
さきほどまで頭のなかであれこれ騒いでいた母親は静かになって、夜を苛立たせることはない。
耳に入るのは、セミの音と詩音と美海のたわいない話し声だけだ。
そういう夏休みが夜は気に入っていたし、友達っていいなと思う。
夏休みが始まったばかりの頃は、家でずっとうんざりしていた。
隣りに住む美海の家に逃げこむこともあったけど、それでも、ずっとというわけにはいかない。
でも少しして詩音が町にやってきて、美海と三人で外で会うようになって生活が変わった。三人で過ごす夏が、とても大切なものだと夜は噛み締めている。
だからこそ、夏が終わる前にもう少しなにかをしたかった。できることならば夏の終わりと同時にどこかに行ってしまいたかった。
それが無理だとわかってはいても、夜はそう願わずにはいられなかった。
「夜!」
「うん?」
「今度三人で海行こ!」
「海?」
「町から近いんだよね?」
「どうだったかな」
夜は首を傾げた。
たしか歩いていけない距離ではないけど、それなりに遠かったようにも思う。
最後に行ったのがいつだったかは、もう思い出せない。
「そんなに近くはないんじゃないかな」
「夜と美海とどこか行きたいの! 美海は行くって」
「そうなの?」
「泳ぐのは無理だけど、散歩ぐらいならいいかなって」
「うーん。美海も行くなら行こうかなあ」
「やった!」
両手を挙げる詩音に、ホッとした顔をする美海。
きっと母親に言うとダメだと言われるだろうから、黙って出ていくことにする夜だった。
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