14.詩音の忘れ物
詩音が帰宅すると、家の中は真っ暗だった。
きっと祖母は寝ていて、詩音がいないことなど気づきもしなかったのだろう。
静かに自室に戻ると、暗い中で何かがチカチカと光っていた。
それはベッドに放り出したまま、すっかり忘れられていた詩音のスマートフォンだった。
詩音がおっかなびっくり液晶画面に手を当てると、メールが一通届いていた。それは詩音の父親からだった。
『8月xx日に迎えに行く』
たったそれだけのメッセージである。
「明後日じゃん」
正確には、日付が変わってしまっているから明日だ。
詩音の心中は非常に複雑だった。
やっと、迎えにきてくれる。
こんな、急に?
詩音のこと、忘れていなかった。
詩音の予定は確認されない。
直接連絡をくれた。
おそらく祖母はとっくにいつ詩音が帰るか知っていただろう。
相反する感情に詩音は揺れる。なにより美海の言葉が耳に残っていた。
このまま自分は親の言いなりになっていて良いのかと、ちゃんと言いたいことを言うべきではないかと思う。
よく考えたら、詩音は親が自分に無関心であることについて、自分から親にな何か言ったことはないのだ。言ってしまったら、本当に親が自分のことなどどうでもいいとわかってしまう。だから怖くて言わなかった。
でも、何も言わないでおいて、自分の都合のいいように接してほしいと思うのは図々しいことだ。
それに、その寂しさを夜と美海で埋めようとしていた。自分は嫌なやつだと詩音は落ち込んだ。
「明日、美海に謝ろう」
もう会ってくれないかもしれないし、美海は嫌な顔をするかもしれない。
それでもちゃんと美海と会って話そうと、詩音はスマートフォンを握りしめた。
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