13.夜の帰宅
「帰ろうか」
夜がささやくように言った。
美海は唇を噛み締めたまま、詩音は目をうるませたまま頷いた。
空はまだ暗く、星がわずかに光っている。暗い夜道を歩く三人は無言だった。
夜は詩音の家の前で立ち止まった。
「詩音、付き合わせちゃってごめん」
小さく首を振った詩音を見送り、夜は美海と並んで家へ向かった。
「美海、ごめん。本当にごめん。僕、君に一緒にいてほしかったんだ」
美海の家の前で、夜はやっと彼女の顔を見た。
泣きそうだったけど、美海は何も言わなかった。
夜は美海と別れて、家の扉を開けた。
「どこにっ、行ってたの!!!」
玄関には母親が立っていた。その顔は悲壮で、今にも崩れ落ちそうだ。
夜は思わず反論しそうになったけど、美海の言葉を思い出してつばを飲み込んだ。
「……」
「言えないようなこと、してたの」
「してない」
「じゃあ!!」
夜はまっすぐに母親と向き合う。なんだかとても小さく見えた。
母は、こんなにも華奢だっただろうか。こんなにもやせ細っていただろうか。
「母さん、ただいま。勝手に出ていって、ごめんなさい」
「よ、る?」
「ちゃんと、話をしよう」
そう言う夜を母親はぽかんとした顔で眺める。反抗ばかりでろくに話を聞かなかった息子の口から"話をする"という言葉が出てきたのだ。驚くより他になかった。
拍子抜けしたような母親の後ろには父親もいた。父親は母親を支えてリビングへと促す。
「夜、とりあえずシャワーを浴びてきなさい。砂だらけじゃないか」
「はい」
こんな状況でも落ち着いた様子の父親に、夜は安心して家に上がった。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
この作品が面白かったら、☆を★に変えていただいたり
ブックマークやお気に入り登録してくださると、
作者がとても喜びますので、よろしくお願いいたします!




