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12.美海の喧嘩

 夜と詩音の愚痴を、延々と聞いていた美海はうんざりしていた。

 二人はは海までの道中も、海に来てからもずっと親について不満を言い続けていた。

 けれど、親に特に不満のない美海には、その内容がよくわからないないのだ。

 夜の母親が、夜に対して過干渉で過保護なのは前から知っていたからそうなのだろうけども、夜の言うことを全く信用していないというのは、どういうことだろう。

 親なら、子供の言うことを信用するものではないのか?

 詩音が親から放置されているというのもわからない。子供のことがどうでも良い親などいないと、美海は無条件に思っている。

 夜の親も詩音の親も、美海の親と違いすぎる。親とは、子供を大切に育むもののはずなのに。

 そしてなにより美海が不愉快なのは、夜と詩音が二人で完結していることだった。二人は互いに親の不満を言い合って、傷を舐めあって、管を巻いている。

 そこに美海の入り込む余地はない。

 だとしたらなぜ美海は呼び出されたのか。

 もちろん二人だけでどこかに行かれてしまうのは嫌だ。一人で置いて行かれてしまうのはつらい。

 でも、今の状況だって、一人で置いて行かれてしまっているのと変わらないじゃないか。


「ねえ」

「だから詩音の親はさ――」

「ねえ」

「うちの親にももううんざりだ」

「……っ、ねえってば!!!」


 美海の怒鳴り声に、夜と詩音がびっくりしたように顔を上げた。

 声を上げた美海自身も、なんでこんなに怒鳴ってしまったのかわからなくて気まずい。


「あの、どうしたの、美海」


 夜がおずおずと美海に声をかけた。


「……いつまで、ここにいるの」

「いつまでって」

「私帰る」

「なんで」

「わたしがここにいる必要ないでしょ!? 夜と詩音は二人でぐだぐだぐだぐだ親の不満ばっかり言って!! いい加減にしてよ、私のこと除け者にして二人で盛り上がるのは、そんなに楽しいの!?」

「美海、僕は、」


 夜が伸ばした手を、美海は思いっきり払いのけた。詩音が大きく目を見開いた。


「詩音たち、そんなつもりじゃ」

「じゃあどんなつもり!? 悪気がなかったって言いたいの? あのね、悪気がなく人の嫌がることするなんて性格悪いよ。そんなんだから親も構いたくないんだよ!!!」

「え」

「あ……」


 じわりと詩音の瞳に涙が浮かんだ。

 美海が声をかける間もなく、ぼろぼろと涙が溢れる。


「……っ。親に、なにか言いたいことあるなら親に言いなよ。夜は親をわかろうとしなさすぎだし、詩音は言いなりになりすぎなの。違う人間なんだから、距離のとり方を考えて。親とも……美海とも」


 そう、絞り出すように言い切った美海に、夜と詩音は押し黙った。

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