11.詩音の砂の城
ぶつぶつと不満を言い続ける夜の横で、詩音は砂の城を建てていた。夜の話を聞いて同意しつつ、たまに自分のことも言う。
夜の海辺はさざ波以外の音はなにもしなくて、星はちかちかとまたたいていて、それなのに胸は不安と不満でいっぱいだった。
「夜のお母さんと詩音のお母さんを足して二で割ればいいのに」
「どういうこと?」
「詩音のお母さんは詩音に興味なくて育児放棄中だから、過干渉の夜のお母さんと足して二で割ればちょうどいい」
「そうかも」
「なんで詩音のこと産んだんだろう」
「そんなの僕が聞きたい」
いくら考えても、子供である二人に大人の考えなどわからない。
親とは一番近い他人であり、他人とはいくら考えても分かり合えない部分があって当たり前だ。
そういうことを学ぶ場面を二人は与えられていなかったこともあった。
しかし普通の子供がどういう環境で育てられるのか、そもそも普通とはなんなのか、答えられる人間はこの場にいない。
「なんで誰からも連絡こないか考えると泣きそう」
「じゃあ、僕がする」
「なら、今度メールアドレスを教える。でも、夜はメールできるの? スマホないよね」
「家のパソコンに、僕専用のアカウントがある」
「そういうのは許されてるんだ」
「僕が使った後は、母親が履歴を全部調べるけどね」
「そそれは、ちょっと……」
親にかまってほしい詩音でも、ちょっと引く夜の母親だった。
詩音の両親はいくら暇でもそのようなことはしない。そもそも詩音に興味がないからキッズスマホを手配して、箱ごと机の上に置いてあるだけだ。
気を遣っているようでまったく遣っていない。そういうことは子供にはわかる。親に構われたい詩音には余計に一目瞭然だ。
詩音の手元では、それなりに大きな砂の城ができつつあった。
最初はただの山だったのが、徐々に塔が現れ窓ができ、ディティールが細かくなっていく。星明かりでそれっぽく見えた。
夜と詩音の不満はまだまだあった。
今までお互いに気を使って言っていなかったこと、暗い仲で互いの顔がよく見えないことなどが、ますます口を軽くした。
「結局、僕はなんなんだ。母親の都合のいい子供でしかないのか」
「それ言われちゃうと、夏休みの度にばあちゃん家に預けられた詩音は都合の悪い子供ってことに……」
方向性は違うけど、親に不満があるということで意見が一致している夜と詩音の愚痴は、いつまででも続いた。
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