10.夜の冒険
夜は詩音と美海を連れてひたすら歩き、歩きに歩き、町の端にある浜辺までやってきた。
夏の終わりの海は、早くも水温が下がりつつあって、泳ぐには冷たい。
クラゲが大量に泳いでいるし、三人とも水着を持っていなかった。
「夜は詩音が海に行きたいって言ったの覚えていてくれたんだ」
「そういう、わけじゃないけど」
「そうなの? 私は三人で来たかったから嬉しい」
そっぽを向く夜に詩音と美海は嬉しそうに笑った。
夜は照れくさくて口を曲げた。
「にしても、母親と喧嘩して家出なんて、夜も派手なことしたね」
「家出なんてしたら、ますます騒ぎになるんじゃないの?」
「なるかもしれないけど。外出禁止とか言われて、あんなに散々言われて、黙って従うなんて無理だった」
夜は砂浜に腰を下ろして、手で穴を掘っていた。
黙々と掘り下げながら、今まで母親に言われたことを思い返して怒りが沸く。
「だってさあ。今までだって帰りが遅いだの勉強しろだの家のことをしろだの、母親の気に入ること以外は許されなくてムカついてたのに。なのに帰りが遅い理由まで信用されなくてさ。僕は一体なんなんだ?」
「詩音たちと空き地で遊んでた、が信じてもらえなかったってこと?」
「そうだよ。空き地でそんなに長時間遊んでいられるわけがない、とか意味分かんないこと言われて。そりゃ母さんはなんにもできないかもしれないけど、僕にはできるんだよ」
「夜のお母さんって夜以外に趣味ないもんね」
「そうなんだよ」
ぽろっと美海がこぼした言葉に、夜は気づくことなく頷く。
穴はどんどん深くなり、夜の周りには砂が積もっていった。
一体自分はいつまで母親に従わなくてはいなけないのかとか、父親は今頃母親になにを言っているのかとか、こんな何もない町がいけないのだとか、夜の口からはいくらでも不満が出てくる。
普段口数の少ない夜がそこまでこぼしたことに詩音と美海は驚いていたし、よほど溜め込んでいたのだと二人は顔を見合わせた。
二人のそんな様子に気づくことなく、夜は不満をこぼしつつ穴を掘り続けた。
言いたいことはいくらでもあって、今まで黙っていた分鬱憤も溜まっている。夜の感情は昂ぶっていて口と手を動かすことでしか、どうにも発散できなかった。
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