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嫌ではない


「では、国を治める者としての心得を復習いたしましょうか」


 コードは魔力の全てを使い切ったが、豊富な知識と培ってきた経験の長さから、父の補佐役を勤めている。それだけでなく、自ら教育係に志願してきた。


 あぁ、人間のことなんて興味ないのだけど……


 いずれはこの国をのっとり、聖女としてではなく魔族としてこの国を従える。そう、成人までに……新たな勇者と結ばれるだなんて、そんな……そんなでたらめな予言あってはならないのよ!!


「あの、リア様……聞いていらっしゃいますか??」


「……上に立つ者は時に感情を捨て、冷酷な判断を必要とする。時に家族ですら切り捨てよ、だよね」


「極論そうなりますが、ずいぶんとおだやかではない言い方になおされましたね」



 コードの話はほとんど聞き流していたが、魔王である父を見てきたのだから分かる。魔王の復活こそ、魔族たちにとっての悲願だろう。だからあの時、私の存在が消えてしまうほどの魔力を奪ったのでしょうから。



「リア様?? 落ち込まれないで下さいませ。あくまでも心得であって、陛下はリア様を大切にされていますよ。当然、王妃様も私ども家臣もでございます」


「…………」



 そう、それが人間の弱さ。魔王である父に迷いはなかったはずだ。だからこそ、この私があなたを葬って差し上げますわ。お父様……


 まだ途中ではあるが、日々増大するこの魔力と王族由来の特殊な力が作動すれば、人間も魔族もすべてこの手に収めてみせるわ。


「リア様??」


「なんでもないわ、パパに負けない統治者になる為ですもの、そのくらいの覚悟で私も思っているわ」


「なんと……ご立派な……政治学だけでなくマナー講習、聖女様としての鍛錬まで……明日の舞踏会ではリア様ほど優れた才女はいらっしゃらないでしょうに……」


「え、今……なんて…」


「リア様ほどの才女はいらっしゃらないと申し上げました」


「そこじゃなくて!! 明日の舞踏会ってパパがいつものように中止にしたんじゃ……」


 他の貴族の子たちであれば、とっくに終わっている社交界デビュー前の舞踏会。名門家の人脈づくりも兼ねて行われているらしいが、コードが良かれと思って呼び寄せた預言者。そこに新たな勇者との結婚が書かれていたのだから、王は頑なに出会いとなる場を阻止していたのだ。私からすればありがたい話なのだが。


「王妃様が強く言いくるめたようです。リア様が実年齢よりも大人びているのはお友達がいないからだろうと」


「なら……女の子だけなのかしら??」


「そうしようとしたらしいのですが、リア様の交流の妨げになるからと……」



 予想外に良くなったお母様の体調だが、何かと最近は感心を向けてくるようになってきた。


 まぁ、本来は私の教育方針はお母様に決定権があるものね。仕方ないわ……顔だけ出してすぐに下がれば大丈夫ね。


「そう、なのね。分かったわ」


「ふふふ」


「何??」


「リア様は王妃様の決定にはいつも反論されないのですね。陛下のことはパパと呼ばれるわりに距離を感じることもございますが……こういう姿を見ると安心致します」


「…………」


「普通のことです。恥ずかしがる必要は有りませんよ」


 私が、人間に甘えているですって!!?? そんなことないはずよ。パパって呼ぶのは、私のお父様は誇り高き魔族の王、お父様だけだからよ。







「リア様、どうされたのですか??」


 侍女のシシラに声をかけられハッとする。いつのまにか授業も終わっていたようだ。


「お母様のところへ行くわ」


「まぁ!! きっと喜ばれますわ」



 別々の塔で暮らしていることもあり、顔を合わせることはほとんどない。朝から過密なスケジュールが組まれている以外にも、母の方も万全とは言えない体調のため、癒しの力が込められているとされている水晶の部屋で休んでいる為、滅多に会わない。



「失礼します……」


「リア!! 嬉しいわ。忙しいのでしょう?? 母のところへ来てくれるなんて、どうしたの??」


「いえ……」


「ふふ、明日のことかしら?? ごめんなさい。突然で驚いたでしょう。陛下を説得させるのに時間がかかってしまって……せっかくドレスまで作っていたのに、もうずっと、お呼ばれに参加できていないですものね」


「あ、あの……」


「ん??」


「その……頑張ります……」


「ふふっ、いらっしゃい。ゴホッゴホ……」


「大丈夫ですか??」


「ごめんなさい、最近急に咳がまた出るようになってしまって……ちょっとはりきりすぎたみたい」


 そういえば、以前よりもまた痩せている気がする。元々、長続きさせる魔法を使ったわけでもないのに、なぜか回復していた体調は、最近思わしくないようだ。


「大丈夫だから……こちらへ……」


 確かに、この女の言うことは断りにくい。腕をまわされ、優しく抱きしめることも、許せてしまう。


「…………」


「ふふ、ありがとう。抱きしめられるのあまり好きではないでしょう??」


 気づいていたのか、他の者になら適当に愛嬌を振る舞いながら断るところだが、どうしてもかたまってしまう。


「……嫌じゃないよ」


「そうなの!!?? 嬉しいわ」


「…………」



 明日の件を断ろうとしたが、うまくいかなかった。


「身体……気をつけて……」


「ありがとう、明日はあなたのドレス姿楽しみにしてるわ」




 やはり、苦手だ。





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